トヨタが中国のEVメーカー「NETA」を買収の噂は両者とも即座に否定! 低価格EVで成功したハズのNETAはなぜ破産寸前まで陥ったのか?

この記事をまとめると

トヨタが中国EVブランド「NETA」の買収を検討しているという報道があった

■買収報道はトヨタNETA双方から即座に否定された

■中国内および東南アジア諸国に販売網をもつNETAであるがその実情は破産寸前だ

急浮上したトヨタによるNETA買収説

 2025年5月、中国の電気自動車(EV)業界を驚かせるニュースが駆け巡った。日本の自動車業界の雄・トヨタが、中国のEVブランド「NETA(哪吒汽車)」の買収を検討しているという報道である。一部の外資系自動車メーカーが中国市場からの戦略見直しを進めるなか、トヨタは徹底的に中国市場で戦い抜く姿勢を見せている。しかし、中国において重要なセグメントであるEV開発の遅れが指摘されており、この遅れを一気に挽回する切り札として、NETAの買収が浮上したというのだ。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 しかし、この買収報道は即座に否定された。トヨタNETA双方から買収の噂は真実ではないと表明された。だが、この騒動の背景には、中国EV市場の過酷な競争環境と、NETAが直面する深刻な経営危機があった。

 この買収報道の直後、注目を浴びることになったNETAだが、その際、より衝撃的な事実が明らかになった。2025年5月13日、中国の国家企業破産情報公開プラットフォームにより、NETAを擁する合衆新能源汽車(Hozon Auto)が破産審査手続きに入ったことが明らかになった。6月には破産手続きに入ったとの現地メディアの報道もある。トヨタによる買収どころか、NETAは破産の危機に直面していたのだ。

低価格EVで急成長を遂げた新興メーカー

 中国・浙江省に本拠を置く新興EVメーカー「合衆新能源汽車(Hozon Auto)」は2014年に設立され、2018年にNETAブランドとして初の市販モデルを発表。ブランド名は中国神話に登場する少年英雄「哪吒(ナタ)」に由来する。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 多くの新興メーカーが高価格帯のプレミアムEV市場(いわば「中国版テスラ」)を狙うなか、NETAは創業当初から「10万元台で買えるスマートEV」を旗印に、あえてローエンド市場に照準を定めてきた。ターゲットは、都市部よりもむしろ地方都市や中小都市の消費者、あるいは若年層のファーストカー需要だ。

 NETA初の量産モデルとなる「NETA N01」は2018年11月に発売され、6万6800〜7万6800元(約137万〜157万円)という破格の価格設定で話題を呼んだ。続く「NETA V」や「NETA Aya」といったモデルもおおむね10万元(約220万円)を下まわる価格帯に集中しており、日常使いに十分な装備と航続距離を備えながらも、価格を抑えたラインアップで人気を集めている。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 この戦略は功を奏し、2022年には年間販売台数15万2000台を記録。一時はXPeng(小鵬)やNIO(蔚来)などのライバルを販売台数で上まわり、新興EVメーカーのなかでもトップクラスの地位を築いた。2023年も販売台数は約14万〜15万台と高水準を維持しており、いわば「庶民派EV」の筆頭格ともいえる存在になっている。

 NETAの成功を支えているのは、合理的なコスト管理だ。独自の先端技術を1から開発するのではなく、既存の高品質な汎用部品をうまく組み合わせて製品化する「最適化」戦略を取っている。車載バッテリーはCATL(寧徳時代)から、モーターはボッシュなど信頼性の高いサプライヤーから調達し、自社での統合に力を注ぐ。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 また、Hozonは自社開発の電動パワートレイン「Hozon EPT 4.0」を一部車種で採用。前輪駆動を前提とした構成で、最大効率94%を謳う。部品点数の削減と設計の簡素化により、保守性やコスト面でもメリットがある。バッテリーパックにおいては、LFPセルを車体構造に組み込む「CI-PACK」と呼ばれる独自設計を採用しており、これはBYDの「ブレードバッテリー」に近い思想である。これにより構造材を兼ねた省スペース化とコスト削減を両立している。

 さらに、スマート化にも抜かりはない。独自OS「NETA Space」は、スマートフォンライクなUIと高いアプリ互換性を特徴としており、若者を意識した車内エンタメ体験を実現している。

東南アジアで存在感を示すも本国では苦境に

 NETAのもうひとつの強みは、その意思決定スピードの速さにある。一般的な完成車メーカーであれば1か月かかるような判断も、NETAではわずか2〜3日で下されるとされており、経営陣の迅速な動きが製品開発や市場投入のスピードを大きく左右している。

 そのスピード感は海外展開でも発揮されており、タイやマレーシアなどASEAN諸国ではすでにCKD(ノックダウン)生産を開始。右ハンドル市場への対応も進んでおり、競合に先んじて新興アジア市場でのプレゼンスを確保しつつあった。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 ETAの海外進出は、2022年9月、EV購入補助金を導入したタイに「NETA V」を輸出したことから始まった。タイでは2024年上半期の新エネルギー車部門で第3位にランクインし、BYDに次ぐ地位を確立した。現在はタイ、インドネシアマレーシアなど東南アジアを中心に30カ国・地域に進出している。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 しかし、本国中国では状況が一変していた。2023年以降、テスラBYDなど大手メーカーが大幅な値下げ攻勢をかけ、価格競争が激化。ローエンドとハイエンドの住みわけが崩れ、安さだけが売りのNETAは急速に競争力を失った。2023年の販売台数は前年比16%減の12万7500台に落ち込み、2024年も回復の兆しは見えなかった。

 財務面でも深刻な状況が続いていた。2021年から2023年までの3年間で累計赤字は約184億元(約4050億円)に達し、売れば売るほど赤字が拡大する構造から抜け出せずにいた。サプライヤーへの未払いが表面化し、2025年3月には多数のサプライヤーが上海本社に押し寄せる事態に発展。さらに従業員への給与未払いも発生し、CEOが従業員に取り囲まれる異常事態まで起きていた。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 今回のトヨタによる買収報道は、こうした深刻な経営危機のなかで浮上した話だったのである。中国のEV市場はいまや戦国時代の様相を呈しており、最終的に生き残るブランドは10社程度という予測もある。際立った技術的な独自性をもたないNETAにとって、大手メーカーによる買収は数少ない生き残りの道だったのかもしれない。

 しかし現実は、買収どころか破産一歩手前という状況であることが露呈した。トヨタにとっても、単なる生産能力の獲得だけでは中国EV市場での遅れを取り戻すことは難しく、より戦略的なパートナーシップが必要だろう。中国内および東南アジア諸国に販売網を持つNETAを手に入れれば、トヨタのEV販売戦略の足がかりになる可能性も考えられなくはない。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

 しかしながら、万一破産した場合の既存ユーザーに対する保証やメンテナンスなどのアフターサービスを考えると、そう簡単に手出しできるものではない。これらの事実は価格競争だけでは生き残れない中国EV市場の過酷な現実を象徴するものだ。一筋縄ではいかないEV普及の難しさを物語っているともいえるのではないだろうか。

中国の「NETA」ってどんなメーカー

中国の「NETA」ってどんなメーカー

トヨタが中国のEVメーカー「NETA」を買収の噂は両者とも即座に否定! 低価格EVで成功したハズのNETAはなぜ破産寸前まで陥ったのか?