
素性は隠せないぜ!
大貴族号(先代マセラティ・クアトロポルテ)のエンジンは、フェラーリV8。モノが違う。
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モノが違うだけに、このテのビッグセダンとしては低速トルクがない。3000rpm以下では、踏んでもあまり反応しない。さすが高回転高出力型。4.2リッターもあるのに、素性は隠せないぜ!
大貴族号は走る。メカトリエ(つくばにあるマイクロ・デポの拠点)を発し、常磐道を越え、首都高を走る。滑るように走る。都心が近づくにつれて、車内が騒がしくなってきた。
「カーロケ(パトカーが発する電波)を受信しました」
「制限速度は60キロです」
「駐車取り締まり重点エリアです」
「警察署です」
「前方に速度自動取り締まり装置です」
「GPS信号を受信できません」
正確には覚えていないが、そういった無意味かつ耳障りな女性の声が、頻繁に流れはじめた。ダッシュボード左端に設置された、いわゆるレーダー探知機の音声情報である。
このレーダー君のことは、前から認識はしていた。こりゃ外しといてもらわなくちゃ、とは思ったが、タコちゃん(マイクロ・デポ岡本和久代表)に伝えるのを忘れ、そのまま納車になった。タコちゃんのいるつくば周辺では、レーダー君も静かなので、つい。
自宅に到着し、改めてグローブボックスのリモコン群を確かめたが、レーダー君のリモコンはない。本体にはスイッチがないので、オフにするなどの操作は不可能。うーん困った。
まあいいや、そのうちなんとかしよう。
俺は勝った! 人生に勝った!
夜になり、改めて大貴族号を堪能すべく、首都高に出撃した。
首都高C1や11号台場線での大貴族号はすばらしかった。やっぱり、ひたすらエンジンがすばらしいのである。マニュアルモードに変更し、バドルで回転をコントロールしつつ走ると、これぞ陶酔のフェラーリ・セダン。甘美だ。甘い生活だ。
俺は勝った! 人生に勝った!
しかしその陶酔を、レーダー君が邪魔する。都心だけに、昼間にも増して無意味で耳障りな情報を、ひっきりなしに喋り続ける。1分間のうち50秒間くらい「カーロケ遠方を受信しました」だの「GPS信号が受信できません」だの「駐車取り締まり重点エリアです」だのとまくしたてる。首都高に駐車するバカがいるか!
もうダメだ。気が狂いそうだ……。
このレーダー君、誰が付けたのか。なんとなく、1540万円出して新車を買った最初のオーナー様のような気がする。そのまま18年間、こうやって喋り続けているのか。歴代オーナー様は、この地獄の責め苦に耐えたのか。
もうやるしかない!
私は翌日、レーダー君をダッシュボードから引きはがし、配線をチョン切った。電源付きの配線を切ると、ショートによる車両火災のリスクがあるが、もうあの責め苦には1秒たりとも耐えられない。あれを聞きながら走るくらいなら、燃えたほうがマシだ!
配線をブチッと切り、首を取った瞬間は、心の底から「ザマーミロ!」と思った。
おまえはエイリアンか!
数日後。私は『カートップ』誌の撮影に向かうべく、大貴族号を発進させた。その数十秒後、心の底からゾッとした。
「カーロケ遠方を受信しました」
生きてる。首をちょん切ったのに! おまえはエイリアンか! それとも『1匹見たら30匹』のゴキブリさん!?
ひょっとしてこのレーダーって、本体が別にあるヤツなのかも。昔、レーダー探知機が好きだった頃、レーダー部が別体になってる高級品があったような気がする。ひょっとしてソレ!? んでもって本体は、ダッシュボードの奥の奥、誰にもわかんない場所にあったりするのかもしれない。なにしろ初代オーナー様は大金持ち(たぶん)なので!
一時はマイロク・デポ練馬本社に持ち込んで処置してもらおうかと思ったが、その後型番をネットで調べ、マザーシップ(本体)の形状を確認。運転席下で発見し、駆除に成功した。大勝利だ!
はぁ~、これでやっとフェラーリV8を堪能できる……。
(つづく/隔週金曜日掲載、次回は8月1日金曜日公開予定)

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