
千葉大学と名古屋大学の両者は、地球の磁気バリアが、太陽から吹き付ける高速のプラズマ流「太陽風」によって剥がされる様子をX線で可視化する新手法を開発したと、7月16日に共同発表した。
同成果は、千葉大大学院 融合理工学府の百瀬遼太大学院生(研究当時)、千葉大 国際高等研究基幹の松本洋介准教授、名大 宇宙地球環境研究所の三好由純教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する地球科学を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
ヒトの目には見えないが、宇宙空間は放射線や荷電粒子などが絶え間なく行き交う、極めて過酷な環境だ。太陽風は、太陽から吹き出す電子や陽子などの荷電粒子の流れであり、これが惑星の大気に直撃すると、少しずつ剥ぎ取っていく。実際、火星ではその結果、地球の約100分の1という薄い大気になったとされる。
そのようなプラズマの暴風から地球の大気を守るのが、地球の固有磁場が作り出す「地球磁気圏」だ。しかし、太陽側の磁気圏境界は「磁気リコネクション」というプロセスによって剥がされることも珍しくない。つまり、地球の磁気バリアは太陽風に対して完璧ではない、ということだ。
磁気バリアが破れると、太陽風エネルギーの一部が磁気圏内に流入する。その結果、地球近傍の宇宙空間であるジオスペースが激しく変動し、極地上空にオーロラが発生する。現代文明は各種人工衛星に依存するため、ジオスペースの乱れやそれに伴う衛星の故障は望ましくない事態だ。そのため、近年は太陽の状況を把握する宇宙天気予報が重要視されている。
また磁気リコネクションは、プラズマ実験装置からブラックホールまで、さまざまなスケールの爆発現象の根源的プロセスだ。その理解は、核融合発電における高温プラズマの安定的かつ長期的な閉じ込め技術の向上や、高エネルギー宇宙線の起源解明などにもつながる。
このような太陽と地球の目に見えない攻防に関する研究の中で、近年、太陽風中に微量に含まれる高階電離した(原子から多量の電子が引き剥がされた状態)酸素や炭素などのイオンが、地球近傍の水素原子と「太陽風電荷交換反応」を起こすことで、X線が放射されることがわかってきた。
研究チームは今回、太陽風-地球磁気圏相互作用モデルと太陽風電荷交換反応によるX線放射モデルを組み合わせ、ジオスペースにおけるX線強度分布に関する調査を行うことにした。
今回の研究では、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた大規模シミュレーションにより、X線強度分布を計算。その結果、激しい太陽風が到来したときに、太陽側磁気圏境界で発生する磁気リコネクション領域において、X線が特に明るく放射されることが判明した。
そこで、モデル内に仮想的なX線撮像衛星を配置して疑似的に観測することで、磁気リコネクション領域のX線画像作成が試みられた。月と同程度の遠方から撮像した結果、明るい領域は尖った特徴的形状を呈し、磁気リコネクションが進行する磁場の形状を反映していることが明らかにされた。
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(波留久泉)

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