
この記事をまとめると
■7月7日に「SUGOスーパー耐久4時間レース」が開催された
■スバルの「ハイパフォーマンスX フューチャーコンセプト」がアップデートを実施
■格上のクラスに割って入れるほどの高いパフォーマンスを見せつけた
ハイパフォXが第4戦で再びアップデート
7月7日、宮城県のスポーツランドSUGOで、ENEOSスーパー耐久シリーズ2025 Empowered by BRIDGESTONE第4戦「SUGOスーパー耐久4時間レース」が開催されました。
スーパー耐久未来機構が認めた自動車メーカーの開発車両が走るST-Qクラスは、今回スバルの「ハイパフォーマンスX フューチャーコンセプト(以下:ハイパフォX)」のみということになりましたが、ライバル不在のなかでも、今回もさまざまなアップデートを行い、仮想ライバルとの戦いを行い無事に完走を果たしました。
今シーズンのハイパフォXは同じST-Qクラスを走る、MAZDA3が直接的なライバル関係になっており、毎戦どちらのタイムが速かったかで一喜一憂しています。さらにST-2クラス(2400cc-3500ccまでの4輪駆動および前輪駆動車)もタイム的に接近しており、クラスは違えど、コース上でも良いライバル関係になっています。
今回スポーツランドSUGOはコースの狭さやピットの数の問題で、グループをふたつにわけて、土曜と日曜のそれぞれ1日に予選と決勝を行うワンデイ決戦となりました。そのためST-2クラスは土曜日にワンデイ決戦のレースを行い、ST-QクラスのハイパフォXは日曜日のワンデイ決戦のレースに挑むことに。なのでこのステージではコース上でのバトルではなく、ラップタイムのなかでの戦いとなりました。
ハイパフォXは、前述のように毎戦何かしらのアップデートを盛り込んでおり、前戦の富士24時間レースでは再生カーボンを使ったカーボンルーフやドアを採用し軽量化を果たしています。さらに今回、シャシー側に補剛を施し旋回性能を向上させていました。
また、回頭性を良くするためにドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)の前後トルク配分を41:59から34:66に変更。リヤ寄りのトルク配分にすることでリヤタイヤをもっと活用できるようにしています。
また、前後サスペンションと車体の間に補剛を追加し、サスペンションと車体間の荷重伝達経路の構造を最適化。サス補剛によってフロントは回頭性向上、前後トルク配分変更にともない重要性が高まったリヤの接地感向上を狙っています。
じつは前回の富士で補剛した部分に補剛を追加しているところもあり、レース後の解析によって、もっと補剛した方が良いと判断して補剛を追加しています。結果、より回答性が良くなっているとのことです。
さらに新規サプライヤーとの協業によるリヤ電制LSDのハード/制御の変更を行い、車両運動における駆動力の影響範囲の検証を行っているほか、テクニカルなSUGOに合わせて立ち上がり加速の向上を狙い、トルクリザーブ制御範囲の拡大を行ってきました。
このトルクリザーブ制御とは、エンジン出力を一時的に抑えながら、ターボの過給圧を維持または高める制御技術です。点火時期の遅延と間欠燃料カットを組み合わせることで排気エネルギーを増加させ、タービン回転を維持。再加速や加減速の繰り返しが多い場面でも、即応性の高いトルク供給を可能にするという仕組み。微小なアクセルオンのときに素早くトルクが立ち上がるような制御になっています。
エンジニア兼ドライバーの花沢雅史さんは、「BRZのときにアクセルオンで素早く立ち上がるトルクをもっていました。ハイパフォXはターボのため、ほんのわずかですがターボの立ち上がりまでにラグが発生してしまいます。そこを補うためのトルクリザーブ制御です。重箱の隅をつつくような細かいことをやっています」とその効果のほどを語ってくれました。
格上相手にも迫るパフォーマンスを発揮
レースはグループ1(ST-X・3台、ST-Z・10台、ST-TCR・5台、ST-Q・1台、ST-1・2台の計21台)のなかで戦うことに。S耐のなかでは速いマシンが揃うグループです。
ハイパフォXは最後方からスタートすることになりますが、まわりに惑わされることもなく自身のラップを淡々と刻み、前日に走ったST-2クラスのタイムを睨みながら走ります。
今回投入したアップデートも功を奏してラップタイムも速くなり、ST-2クラスよりも場合によっては速く、もうひとつ速いタイムを刻むST-TCRクラスにも割って入れるほどのタイムを叩き出していました。細かいトラブルはありましたが、ほぼノートラブルといっても過言ではない安定したパフォーマンスを発揮し、ノーペナルティでこのレースは総合17位で完走を果たしました。
チーム監督兼チーフエンジニアの伊藤 奨さんは「決勝中のラップタイムを見ても目標だったST-2クラスに割って入れるくらいでしたし、ST-TCRクラスにも入り込めるくらいでしたので十分目標を達成できています。今回のアップデートも十分に効果を発揮してくれて、ぐいぐい曲がるAWDが出来上がりつつあると思います」と語る。
続けて、「DCCDのトルク配分やLSDの効果もしっかり出ています。やっとみんなで色々考えたものが形になってきました。下まわりの補剛も進めてきていて、ボディが少し捻れるというか、ボディとシャシーのズレみたいなものが出はじめているので、そこの修正が次への課題ですね。次のオートポリス、その次の岡山をスキップして最終戦の富士に戻ってくる予定ですが、2戦お休みする分、もっと進化させないといけないですね」と、「最後はより大きな課題の克服とアップデートがあるかも?」という内容を語ってくれました。
プロドライバーの井口卓人選手と山内英輝選手は「この2戦くらいでものすごくクルマが進化している。『みんながやりたいことはこういうことなんだろうな……』というのがわかるほどの進化が見られました。ボディの補強などを進めていくと、より一体感のあるクルマになっていくと思います」と語ってくれました。
チーム代表の本井雅人さんは、「目標達成率はかなり高いところでできたと思います。次の課題はなんだろうか? という会話が出てくるようになって、開発メンバーの進化も感じられます」と語ります。
ハイパフォXがデビューを果たしたのが約1年前の2024年7月末のオートポリス戦でした。1年経っての経過について聞くと、「BRZでやってきた積み重ねが活かされないでゼロに近いところに戻ったときもありましたが、この2戦くらいで急激に進化したことで、その戻った分は取り返せたのかなと思います。オートポリスと岡山をスキップするのですが、長いようで短い開発期間で最終戦の富士に向かうためには、あまり余裕がありません。富士に向けてしっかりと経験を活かせるようにしていきたいです」と話してくれました。
デビューしたオートポリスでの再戦はありませんが、最終戦の富士でどのような進化を見せてくれるのか、いまから楽しみです。

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