
老後資金の不安は尽きないものですが、現在、高齢者の100人に1人は「年金収入なし」である事実をご存じでしょうか。20〜30代の方のなかには、「そもそも期待していない」「もらえるものと思っていない」という方もいらっしゃいますが…。厚生労働省『令和6年度 後期高齢者医療制度被保険者実態調査』などとともにみていきましょう。
年金が全く受け取れない「無年金者」の存在
厚生年金の平均受給額はおよそ月14万円とされています。しかし一方で、年金をまったく受給していない「無年金状態」の高齢者が一定数存在することは、あまり知られていない現実です。
厚生労働省の『令和6年度 後期高齢者医療制度被保険者実態調査』によれば、年金収入のない65歳以上の人は全国で約48万人にのぼります。高齢者人口が約3,600万人であることを踏まえると、実に100人に1〜2人が年金を受け取っていないという計算になります。
【年齢別「年金収入なし」の人数】
65~69歳:22,266人
70~74歳:22,384人
75~79歳:168,230人
80~84歳:115,535人
85~89歳:77,658人
90~94歳:46,442人
95~99歳:21,362人
100歳~:5,659人
出所:厚生労働省『令和6年度 後期高齢者医療制度被保険者実態調査』より
【田中さんのケース:「年金ゼロ円」で生きるということ】
田中さん(仮名/78歳・女性)は、地方のアパートで一人暮らしをしています。若い頃から家庭の事情で就労機会が限られていたため、十分な年金保険料を納めることができませんでした。その結果、年金受給資格を満たせず、現在は年金収入がゼロの状態で暮らしています。
「なにかの罰が当たったのでしょうか」と田中さんはつぶやきます。生活費はわずかな貯金を切り崩して賄っており、家賃や光熱費、食費を支払うだけで手一杯。医療費や突発的な出費には対応できず、日々不安の中で暮らしているといいます。
こうした無年金状態の高齢者は、田中さんだけではありません。特に1961年(昭和36年)から1986年(昭和61年)までの25年間は、国民年金が一部の人にとって任意加入だった時期もあり、当時未加入だった人が高齢になってから無年金となっているケースも少なくないのです。
現在、20歳以上60歳未満のすべての人は、原則として国民年金に加入する義務があります。年金を受け取るためには、最低10年(120ヵ月)以上の保険料納付期間が必要です。
ただし、次のような理由で納付期間が足りないまま高齢を迎える人もいます:
●経済的な困窮により保険料を払えなかった
●制度への理解が不十分で、納付の意思がなかった
●長期の海外滞在や留学などで納付の機会がなかった
なお、60歳を過ぎても、条件を満たせば70歳まで任意で国民年金に加入することができます。もし納付期間が不足していることがわかった場合は、年金事務所に相談し、任意加入の制度を利用するのも選択肢のひとつです。
これから訪れる「無年金時代」に備える方法
現在の無年金者は減少傾向にあるとされる一方で、若い世代には別の問題が浮上しています。
20〜30代の間では「年金には期待していない」「将来もらえる気がしない」といった不安の声も多く聞かれます。保険料を支払わない、あるいは払えない状況が続けば、将来的に受給資格を得られない、いわゆる将来の無年金者になってしまう可能性も否定できません。
ライフプランの見直し:結婚・出産・介護などのライフイベントを見据え、長期的な資金計画を立てましょう。特に女性は就労期間が短くなりがちなため、年金確保を意識した働き方を考えることが重要です。
副収入を得る手段を確保する:年金だけに頼らず、副収入を得る手段を確保しておくことも重要です。フリーランスや在宅ワーク、副業など、複数の収入源を持つことで、リスクを分散することができます。
貯蓄と投資のバランス:年金だけに頼らず、副業やフリーランス、在宅ワークなど、多様な収入源の確保を目指しましょう。働き方を柔軟に考えることで、将来への備えになります。
貯蓄と投資のバランスをとる:若いうちからの貯蓄習慣や、NISA・iDeCoなどを活用した長期的な資産形成が老後の安心につながります。
福祉制度の利用:無年金状態に陥っても、生活保護や医療費助成など、国や自治体の支援制度を活用することで生活を支えることは可能です。早めに制度について情報収集しておきましょう。
ただ、無年金者の増加には、個人の事情だけでなく、社会構造も大きく関わっています。対策としては以下のような取り組みが必要です。
安定した雇用の促進:非正規雇用から正規雇用への転換支援や、長期就業の仕組みづくり
年金制度のわかりやすさ向上:複雑な仕組みを簡素化し、正しい理解を広めるための教育・広報
セーフティネットの強化:生活保護や医療費助成などの制度をより使いやすくし、困ったときに頼れる環境を整える
年金制度を取り巻く不安が高まる中、自分自身のライフプランや収入の構え方を見直すことが、将来のリスク回避につながります。
社会全体で制度を改善していく努力とともに、個人としてもできる対策を早めに講じておくことが、無年金リスクに備える第一歩です。

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