
2019年にスタートし累計出荷枚数が25万枚を突破、オリコン週間アルバムランキングで3作すべてがベスト3入りを果たした森口博子の大ヒットシリーズ『GUNDAM SONG COVERS』。森口はこのシリーズで「日本レコード大賞」企画賞も受賞している。その"最終章"として2022年に『GUNDAM SONG COVERS 3』がリリースされた後もアンコールの声が鳴り止まぬ中、スピンオフ作品としてニューアルバム『GUNDAM SONG COVERS -ORCHESTRA-』が2025年6月18日にリリースされた。
今作は「森口博子×ガンダムソング×フルオーケストラ」をコンセプトに掲げ、収録されるすべての楽曲が国内外で活躍するJapan Pops Orchestra(タクティカートオーケストラ)との共演によるフルオーケストラアレンジで制作された意欲作だ。シリーズ3部作が様々なアーティストとのコラボレーションを含んでいたのに対し、今回はフルオーケストラという広大な世界観に特化している点も注目される。長年“ガンダムソング”と共に歩み、その魅力を最大限に引き出し続ける森口に、今作への想いを聞いた。(取材=村上順一)
自身の「癖」とオーケストラの世界観とのバランスを考えながらアプローチ
――大ヒットシリーズのスピンオフとして、フルオーケストラでのアルバムリリース、おめでとうございます。ファンの方々の喜びの声も大きいのではないでしょうか?
ありがとうございます。本当にアンコールのお声が鳴り止まず、私自身が一番驚いています。『GUNDAM SONG COVERS 3』を最終章としてリリースした時点で、ファンの皆さんから「もっと歌ってほしい」「最後なんて嫌だ」というお声がたくさん届いていました。今回、スピンオフという形でタクティカートオーケストラのみなさんの演奏によってお応えすることができて、大変嬉しく思っています。
――今回、「フルオーケストラ」というコンセプトを選ばれた経緯を教えていただけますか?
オーケストラは、キングレコードのプロデューサーの方からの提案だったんです。スピンオフの企画を話し合っている時に、「オーケストラはどうでしょう?」という話になって。その時「ガンダムといえばやっぱりテーマが深くて大きな世界なので、オーケストラはピッタリだ」と感じたんです。実際にレコーディングしてみて、その壮大なガンダムソングとスケール感溢れるオーケストラとの親和性の高さを改めて強く感じました。
――レコーディングではどのようなことを感じられましたか?
オーケストラの演奏を聴いて、心が震えて涙することもありました。特に『水の星へ愛をこめて』のオーケストラアレンジは、メロディーはもちろん美しいのですが、バックで流れるカウンターメロディも本当に素晴らしいんです。それを聴くといつも心が震えます。オーケストラだとその美しい旋律がより浮き立ち、生音そのものが持つ力を感じて、命の音だと感じました。
――歌唱面で、オーケストラアレンジならではの意識された点はありますか?
はい。ポルタメントやレガートを大事に歌うことを心がけました。今までの歌い方とは違うアプローチも意識したのですが、やっぱり長年の「癖」が出てきたりもするんです。自身の「癖」とオーケストラの世界観とのバランスを考えながらアプローチしました。
――「癖」ですか?
例えば『ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~』の最後のフレーズ<熱い瞳に やきつけて>なのですが、ライブで熱くなって歌っていると、いつの間にか一音だけ一度上がってから下がる歌い方になっていました。今回のレコーディングに向けてボイストレーニングをしていた時に、先生から「そこはちゃんとオリジナルの譜面通りに歌ってください」と指摘されて。そこで「癖がついてしまっていたんだな」と気づき、初心に帰って原点回帰でレコーディングに臨みました。
その後その歌い方に戻してライブで歌ったら、ファンの方が「今日の歌い方がオリジナルに戻っていて感動しました」と言ってくださって。日頃からくずさずに忠実にを大切に歌い続けてきましたが、ファンの皆さんがそういうところまで大事にしてくれているんだなと今まで以上に感じました。私がリスペクトしている堀江美都子さんが「キャンディ□キャンディ」(□は白抜きハートマーク)をもし違う歌い方で歌われていたら、自分も驚いてしまうだろうなって。堀江さんはずっと変わらず歌ってくださっていて、それを聴くと私も少女時代に戻れるし、「よし明日も頑張ろう」と思わされます。私も先輩の背中を見て、そういったところを大事にしたいと思っています。
もはや音フェチです(笑)
――長年ファンが待ち望んでいた「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」のミュージックビデオが、今回ついに制作されたそうですね。この実現について、今のお気持ちを聞かせてください。
初回限定盤のBlu-rayに、初めて撮りおろしのMVが収録されます。これは長年制作を熱望していたもので、プロデューサーの方から「MV作りましょう」と言われた時は、34年越しにこんなことが起こるんだと、奇跡だと思いました。完成したMVを見た時に、ファンのみなさんやスタッフの皆さんと一緒に、本当にいろんな困難を乗り越えてきた中で、こうやって喜びを分かち合える瞬間に立ち会えて、「ああ、生きてきたな」と実感できる瞬間でした。
――MVの撮影自体はいかがでしたか? 特に歌唱シーンで印象に残っていることはありますか?
撮影では、月に向かって歌うシーンがあったのですが、物語がより鮮明に浮かんできて、カメラが回っている最中なのに思わず涙ぐんでしまいました。オーケストラのみなさんとのフォーメーションがサークルになっていて斬新だったり、2コーラス目から3コーラス目に、ガラリと世界が広がるように変わる瞬間は、圧巻です。インパクト大ですよ!!
――初回限定盤にはメイキング映像も収録されるとのことですが、そちらの見どころは?
20分の大作です!メイキング映像では、オーケストラの皆さん誰一人この楽曲がリリースされた時には、生まれてなかったという事が発覚しましたが…ギャグを交えた和やかな雰囲気も見ていただけるかと。先ほどお話しした月に向かって歌うシーン涙ぐんでしまって化粧を直すシーンやリアルな裏側なども楽しみにしていただけたら嬉しいです。
――「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」は森口さんにとっても、ファンの方々にとっても、大変思い入れの深い楽曲ですが、改めてこの曲が持つ意味についてお聞かせいただけますか?
この曲は映画『機動戦士ガンダムF91』の主題歌で、バラエティ番組で忙しかった時期に、歌手としての森口博子を皆さんに認識していただけるきっかけになりました。初めてオリコン週間ランキングでトップ10に入り、全国ツアーにも繋がり、本当に思い入れが深いです。ガンダムファンの方々、アニメを知らなかったファンのみなさんとの巡り逢いがあった大切な曲です。私のデビュー曲「水の星へ愛をこめて」も2019年に初めてMVを制作しましたが、発売当時はミュージックビデオが制作される機会が少なかったので、30年以上越しでの初MV化でした。今回の「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」のMV化も、また新たな歴史の一歩です。
――今回はサウンドプロダクションにも深く関わられたと伺いました。オケのレコーディングからTD(トラックダウン)、マスタリングまですべて立ち会われたそうですね。
毎回そうなんですが今作も音作りの全ての工程に立ち会わせていただきました。音のバランスやダイナミクス、ストーリー性など、細部にまでこだわり抜きたくて。音と向き合うのが好きなんです。もはや音フェチです(笑)。
特に印象的だったのが、『ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~』のTDの時にボーカルバランスに集中しすぎるあまり、なんだか物語が見えなくなってしまった瞬間があったんです。それで、ストリングスやピアノのバランスを少し調整してみたら、ちゃんと物語が見えてきて、自然に涙がこぼれました。音楽は本当に調和が大事であり、何かが突出しすぎては良くないと百も承知なのに、その時は改めて強く感じました。マスタリングでは、曲間やダイナミクスを重視したので、アルバムを通して聴いていただけると嬉しいです。
――初回限定盤にはインストゥルメンタル・バージョンも収録されるとのこと。歌がない演奏だけのバージョンも、オーケストラの魅力を堪能できそうですね。
そうなんです。私、自宅でインストを聴いた時もとても感動しました。オーケストラのサウンド自体が持つ力は本当に奥行きがあって素晴らしいと感じました。ボーカル無しだと楽曲の持つ美しさを、ありとあらゆる角度から楽しめます。クラシック音楽が自律神経に良い効果をもたらすと言われるように、きっとこのアルバムも聴いてくださる方の心に寄り添ってくれる作品になったと確信しています。ボーカルありのバージョンも、インストバージョンも、どちらも楽しんでいただきたいです。
「水の星へ愛をこめて」は天地創造がテーマ
――収録楽曲についてもお伺いします。収録楽曲はバラエティ豊かですね。
「月の繭」は『GUNDAM SONG COVERS 2』でカバーした際にコブシをコロコロまわした新しい歌唱法に挑戦して、皆さんから好評だった楽曲です。オーケストラで演奏すれば絶対に幻想的で神秘的なメロディーラインがさらに美しい世界になると確信して選びました。この曲は菅野よう子さんのメロディーが本当に素晴らしいんです。いつか菅野さんにお会いして、楽曲が生まれた背景などをお伺いしてみたいです。
「FIND THE WAY」は、『機動戦士ガンダムSEED』の楽曲で、やさしくてドラマティックな展開がオーケストラにピッタリです!!島健さんによるオリジナルアレンジも大好きで、それをさらにストリングスで広げることで感動的な世界が見えると思いました。SEED世代のファンの方にも、この曲をきっかけに過去の良い楽曲を知っていただく入り口になれば嬉しいです。
「遠い記憶」(『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』エンディングテーマ)は、歌詞もメロディーもとにかく素朴で泣けるほど温かい。あえて自身の歌唱の「癖」を出さず、素直に歌うことに挑戦しました。とにかくメロディーが引き立つように、純粋な世界観を表現できればと考えて歌いました。シンプルなピアノのイントロから引き込まれると思います。
「FLYING IN THE SKY」(『機動武闘伝Gガンダム』オープニングテーマ)は、『GUNDAM SONG COVERS 2』でカバー収録曲の一般投票を行った際にリクエストが届いていました。アップテンポの熱いロックとオーケストラの相性が実はピッタリなんです。2022年に亡くなられたオリジナルの歌手である鵜島仁文さんへの追悼の意味も込めて選ばせていただきました。鵜島さんはガンダムファミリーでもあったのですが、イベントでご一緒した時に自分の出番が終わっても、私が歌っている際に、ステージ袖で聴いていてくださって、嬉しくなるような感想をくださいました。本当に優しい方でした。
――「水の星へ愛をこめて」がリリースされて、今年で40年を迎えます。この曲を歌い続けてきた森口さんは、今どのような解釈でこの曲を歌っていますか。
この曲と出会った17歳の頃は、全く哲学的な世界を理解できていませんでした。レコーディングの時にディレクターさんから、「水の星って意味わかる?」と聞かれて、私は「水星」と答えたのですが、「地球のことだよ」と教えていただいたところが 17歳のレコーディングのスタートでした。その時は地球に愛を込めて、「争い事が起こりませんように」とピュアな思いで歌っていました。
デビュー30周年のときに、作詞された売野雅勇さんとお会いし、歌詞の解釈が深まりました。売野さんが天地創造や人類の誕生、神の存在など、地球に生かされるものについて書きたかったこと、そして、どんな困難があっても「絶望しないでほしい」というメッセージを込めていたことを知りました。大人になって売野さんの真意を知ることができて本当に良かったと感じています。ファンの皆さんと共にこの曲を深く理解し、成長していけることに感動しています。
――いろいろな思い出もあるガンダムソングは、森口さんにとってどのような存在ですか?
生きる上での「永遠の希望」だと実感しています。それは歌手として作品を通して何十年とファンの皆さんと繋がることができましたし、ファンの皆さんも懐かしい曲が新しい形で生まれ変わることで、再びその楽曲に出会うチャンスを得られる。世代を超えて様々な人や物事がクロスオーバーしていく。
『ガンダム』がなかったら、きっと歌手としての自分はここにはいなかったと思います。アイドルオーディションにたくさん落ちて、ガンダムにたどり着けたことで、歌手になる夢を叶えることができました運命の作品。ガンダムソングは私の歌手人生のスタートであり、そして今もなお続いていく希望です。
――最後に、アルバムを楽しみにしているファンの方々へメッセージをお願いします。
『GUNDAM SONG COVERS』シリーズを手にとって下さり、本当にありがとうございます。『GUNDAM SONG COVERS -ORCHESTRA-』は、アンコールの声に応えてお届けする、フルオーケストラアレンジのガンダムソングです。とにかくゴージャス!!たくさんの方々が携わっています。チーム森口が一丸となり丁寧に制作した自信作。壮大なガンダムの世界観と、生のオーケストラサウンド、そして私の歌声が織りなす感動的な世界を、ぜひ心ゆくまで堪能してください。ボーカル入りバージョン、インストバージョン、そして初の『ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~』MVなど、たくさんの愛とこだわりが詰まっています。このアルバムが、皆さんの日常に寄り添い、少しでも心豊かに生きる希望になったら嬉しいです。
そして冬には40周年のアルバムがリリースされます!「水の星へ愛をこめて」のニール・セダカさんと売野雅勇さんが40年越しにタッグを組んで復活!そして「ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜」の西脇唯さんアンサーソングを!その他これまで楽曲を提供して下さった、豪華アーティストのみなさんが再集結します。その全貌もぜひ楽しみにしていて下さいね!
(おわり)

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