
1981年の日本初演以来、世代を超えて愛されてきたミュージカル『ピーター・パン』。記念すべき45年目を迎える今年の公演は、山﨑玲奈がピーター・パンとして日本中の子どもたち、そして大人たちに夢と冒険の世界を届ける。ピーター・パン3年目となる山﨑に今年度の公演への意気込みや役作りについて、さらには俳優業への想いなどを聞いた。
――山﨑さんにとって3年目のピーター・パンになりますね。改めて今年も出演が決まった心境を教えてください。
おっしゃっていただいたように、今年で3年目のピーター・パンになります。1年目はずっと憧れだった役へのチャレンジの年で、2年目はそこからグレードアップしていこうという年でしたが、今年はキャストさんが一新されたこともあって、私自身も初心に返る気持ちで1から作っていけたらと思っています。新たな視点でピーター・パンを探ろうと今、お稽古中です。
――具体的に、どんなところをより深めていきたいと考えていますか?
演出の長谷川寧さんとお話をしたときに、今年のテーマとして「神話」をやりたいとおっしゃっていたのですが、自分もコミカルな作品よりはシリアルなシーンが多めで、お客さまをドキッとさせられるような、大人な芝居にチャレンジしたいと思っていました。3年目だからこそ見えてくる、ピーター・パンの冷静さや残酷さを細かなところで少しずつ表現できたらと思います。
――ピーター・パンというキャラクターの魅力は、どんなところにあると考えていますか?
小さい頃は “ザ・ヒーロー”で憧れの存在でした。私もあんなふうに強くなって、フック船長を倒せるようになりたいと、憧れていました。今、こうして自分が演じるようになり、そして18歳になって大人の視点から見ると、どこか守ってあげたくなるような存在に思えます。寂しがり屋で孤独で、抱きしめたくなるような可愛らしさも持ち合わせていて。どの世代にも愛されるキャラなのではないかなと思います。
――山﨑さんがこのミュージカル『ピーター・パン』に出会ったのはいつ頃なのですか?
小学1、2年生のときに唯月ふうかさんのピーター・パンを観たのが初めてです。そのときは、ミュージカルというよりはディズニー作品が好きだったのでピーター・パンのことを知っていて、それでお母さんが連れて行ってくれました。とにかくすごく楽しかったという思い出です。ネバーランドでみんなが戦うシーンが大好きで、ピーター・パンが空を飛んでいることに感動したのを覚えています。その後、自分が出演することが決まり、吉柳咲良さんのピーター・パンを何度か観させていただきました。もちろん楽しかったですが、同時にこんなにも切ない物語だったのだというのを改めて知って。子どもの頃はただただ楽しく観ていましたが、大人になって観たら2幕のラストで泣いてしまいました。
――観る年齢によって感じ方が変わったのですね。そして、ピーター・パン役も演じる方によって見え方が変わってくると思いますが、ご自身では唯月さんや吉柳さんのピーター・パンと山﨑さんのピーター・パンではどんな違いがあると思いますか?
自分で言うのは恥ずかしいですが(笑)。ふうかさんや咲良さんのピーター・パンは、もちろんかっこいいけれども、可愛らしさが強いと私は思っていました。自分のことを「僕」と呼んでいたり、「ふん!」と鼻を鳴らす仕草だったりが、“ザ・男の子”で、精神年齢も低めな印象がありました。私は今、自分のことを「俺」と呼んでいることもあり、イケイケ風な「俺ってかっこいいんだぜ?」と言ってしまいそうな、お二人とはまた違った角度のピーター・パンなのかなと自分では思います。可愛らしさよりは、男らしさが出ていて、やんちゃで暴れ回っているような、小学校高学年の男子というイメージで演じています。

――現在、鋭意お稽古中だと思いますが、お稽古場の雰囲気はいかがですか?
カンパニーの皆さんがとても仲が良くて、まるで学校みたいです。いろいろな年齢の方がいますが、同級生のようで、お芝居の話はもちろん、他愛もない話も気軽にできます。私は今、18歳でカンパニーの中では若い方ですが、いい意味で気を遣うことなく、いろいろな方とお話ができて、伸び伸びとお稽古ができているので、めちゃくちゃいい雰囲気だと思います。
――お稽古場で印象に残っている出来事はありますか?
お稽古が始まる前に、ワークショップの時間があるのですが、みんなで鬼ごっこをしたり、尻尾とりゲームをしたり、名前を呼び合いながら間違えた人が抜けていくというゲームをしたり、ただただはしゃいでみんなで汗をかいて動き回ったことがありました。長縄跳びをしたこともあったんですよ! みんなで運動会をしているみたいで、カンパニーの仲も深まり、とても素敵な時間でした。その時間があったから、今もみんなでワイワイできているのかなと思います。
――そうしたゲームをするワークショップというのは、昨年はなかったことなんですか?
昨年は、私が初めてピーター・パンを演じた初年度のキャストさんがたくさんいらっしゃったので、カンパニーの空気ができていたということもあり、それほど多くはありませんでした。今年はガラッとキャストさんが変わったので、また初年度のときと同じようなワークショッをやってくださいました。すごく楽しかった思い出です!

稽古場の様子 撮影:宮川舞子
――新キャストの皆さんの印象も教えてください!
皆さん、いい意味で個性が爆発していると思います。例えば、今年のパイレーツは一人ひとりのキャラクターがすごく立っています。それから、自分から「こうしたらどうかな?」という提案をしてくださるキャストさんが多く、表現をどんどん広げていく皆さんの姿勢は勉強になります。私が一緒にお芝居をすることが多いロストボーイズの皆さんも個性的で、一緒にお芝居をしているとこれまでと全く違うシーンに感じますし、ピーター・パンのキャラが目立たなくなってしまう気がして焦ります(笑)。もっと頑張らないといけないと思わせてくれる、素敵な皆さんです。
ウェンディやフック船長といったキャストの皆さんも、これまでとは全く違う視点で作ってくださっていて、そうした皆さんからも刺激を受けています。フック船長は、一昨年も昨年も小野田(龍之介)さんが演じてこられたのですが、今年は石井一孝さんが演じられているので、年齢的にもグッと大人になってとても怖い印象です(笑)。ウェンディはピーター・パンよりも動いているのではないかなと思うくらいアクティブな女の子になっています。皆さんが違う視点でキャラクターを作ってくださっているので、自分もいろいろとチャレンジできているなと感謝しながらお稽古をしています。

――新キャストの方が入ったことで、山﨑さんご自身も新たな発見があるのですね。ウェンディ役の山口乃々華さんの印象は?
乃々華さんは、「以前からウェンディをやりたかったんです」とおっしゃっていましたが、まさにその熱が伝わってきて、ウェンディの愛に溢れた方だなと思います。1幕でウェンディとピーターの掛け合いがあるのですが、そのシーンでは誰よりも楽しそうで、誰よりもピーター・パンのことを好きでいてくれることが伝わる芝居で、自然とそれに応えたくなります。ウェンディがすごくはしゃいでいるので、そんなウェンディを誘惑するにはどうしたらいいのか、改めて台本を見ながら考えさせていただきました。私の相談にも乗ってくださるのですごく心強いですし、本当に楽しそうで可愛らしいウェンディだなと感じます。
――フック船長役の石井さんはいかがですか?
フック船長は怖いですが、石井さんは本当に優しい方で、フック船長とは真逆のような性格なのだと思います。私の中では「聖母マリア」と呼んでいます(笑)。それくらい優しくて、カンパニーのお父さんのような雰囲気を持っていらっしゃいます。カンパニーで最年長ですが、みんなにとても親しげに話しかけてくださり、それぞれの意見を尊重してくださるんです。稽古場では机が隣なのですが、台本や役のことについてもたくさんお話をさせていただき、お稽古をしていて疑問に思ったことを話し合える存在なので、いつも感謝しています。
恋彩さんは、まずダンスがめちゃくちゃすごい! これまでのタイガーリリーにはなかったブレイクダンスの要素が増えています。「人間ができる動きなんですか!?」と思うような動きを取り入れたダンスで、本当にかっこいいんです。でも、普段の恋彩さんは、ホワホワしていて。そのギャップが素敵で、私の“推し”です。毎日、本当に癒されています。

――先ほども少しお話がありましたが、長谷川さんの演出はいかがですか? 今回のお稽古場で印象に残っていることは?
長谷川さんはいろいろなことにチャレンジされる方で、「昨年のことはできる限り捨てる覚悟でお芝居をして欲しい」とおっしゃっていました。私は1年かけて作ったものなので、どうしても離れられないところがあるのですが、昨年のものを捨てる勇気を持つことも大事だなと改めて気付かされました。昨年作ったものを大事にしながらも、今年はこうしてみようという発想力と、昨年に引きずられない力を今、稽古で養いながら、試行錯誤しながら作り上げているところです。
――なるほど。新たなピーター・パン、楽しみです。ちなみに山﨑さんがこの作品の中で1番お気に入りのシーンは?
1つに絞れないので、2つあげてもいいですか(笑)? まずは、1幕の「ネバーランド」という楽曲のシーンです。私がピーター・パンの中で一番好きな曲です。「そこへいけば誰も大人にならない」という歌詞を歌うたびにいつも震えるんですよ。そのフレーズが大好きで、その言葉でいかにウェンディを引き込めるかを考えながら歌っています。ウェンディをどれくらい引き込めているかでその後のシーンが変わってくるので、大事なシーンだなと思っています。
それから、3幕のロストボーイズが海賊たちと戦うシーンです。アクションが大変なシーンなのですが、みんなで戦って、フック船長をバンバンとやり込めていると、自分が世界一強くなれたように感じて、毎回「今日も私、強い!」と自己肯定感がアップします(笑)。なので、大好きなシーンです。
――そうしたアクションシーンも見どころですよね。見どころといえば、フライングシーンもこの作品の醍醐味だと思いますが。
1番の見どころだと思います! 「アイム・フライング」という楽曲で長くフライングさせてもらいますが、毎年、いろいろなことにチャレンジしているんですよ。昨年は、逆さまの姿勢のままフライングして歌ったり、回転しながら歌ったりしていました。トレーニングは、その状態で歌えるかどうかからスタートして何回も何回もチャレンジしなければいけないので、すごく大変ですし、ちゃんと歌えるのかなという不安もずっとありますが、毎年、フライングの練習が始まるとその感覚を思い出して、ワクワクします。
――最初からフライングすることに怖さはなかったですか?
それはなかったです。毎日、無料でジェットコースターに乗れているようで、めちゃくちゃ楽しいです。ジェットコースターも高所も大好きなんです! なので、快感でした。
――そうすると、お客さんが実際に入っている客席の上を初めてフライングしたときはきっとすごく気持ちよかったですよね。
本当に気持ちよかったです。お客さんの嬉しそうな顔を見て、こんなにも喜んでくださるんだと泣きそうになったのを覚えています。今まで稽古を頑張って良かったなとそのときに思いました。今日はどんな反応をしてくれるのかなと今でも毎回、楽しみです。
――ところで、山﨑さんは3月に高校を卒業され、4月からは心機一転、俳優活動に臨まれていると思いますが、改めて俳優としての意気込みを聞かせてください。
これまでは学業と両立しながら活動していましたが、今年の4月からは俳優業1本でやらせていただくことになりました。俳優という職業に集中できるのはすごく嬉しいですし、学生でなくなったからこそ、1歩前進していきたいと思います。今まではピーター・パンのような少年や少女の役が多かったですが、最近になって大人と子どもの中間といった役にもチャレンジさせていただくことが多くなって。自分が大人になったことを感じて、それもすごく嬉しいんです。これからは、もっと大人っぽい役や自分の年齢よりも上の役をいただくことも増えてくると思うので、もっとお芝居の表現についてたくさん勉強していきたいと思っています。そして、舞台ももちろんですが、ドラマや映画などの映像にも力を入れて、幅広く活躍できる俳優になれるように、さらなる努力を重ねて頑張っていきたいと思っています。

――元々はミュージカルに憧れていたのですか?
そうですね。小さい頃から『レ・ミゼラブル』や『グレイテスト・ショーマン』などのミュージカル映画が大好きだったので、そこから歌やダンスやお芝居が好きになりました。なので、出会いはミュージカルです。
――そうすると、幼い頃から歌やダンスを習って?
実は習ったことがないんです。愛媛に住んでいたのですが、地元の市民ミュージカルに出演するための教室があったので、それを体験させてもらって、オーディションを受けたら受かって。市民ミュージカルに出演することができるようになって初めて、きちんと歌やダンスを教えてもらいました。なので、しっかりと習ったというのはないんです。お芝居は全くの独学です。
――そうした中、いつ頃、俳優になろうという強い思いが芽生えたのですか?
(2019年に出演した)『アニー』のお稽古中でした。『アニー』のオーディションも、市民ミュージカルの演出家さんから「受けてみたら?」と言われて軽い気持ちで受けたのですが、最初は落ちてしまって。それがすごく悔しくて、ミュージカルをやりたいというよりは、受かりたいという気持ちで、頑張って練習をして、その後にアニー役で出演できることになりました。そこで、お稽古をしていく中で、初めてプロの方や大人の方と一緒にお芝居をしたり、歌ったりダンスをして、自分とのレベルの差を感じて「これがプロか」と。演出家の山田和也さんや共演者の子どもたちからいろいろな刺激を受けて、お稽古もすごく楽しくて、こんなに楽しいことは初めてだと感じ、もっと違う作品にも出てみたいという気持ちになって初めてミュージカル俳優を目指したいと思うようになりました。

――憧れの作品や役、憧れの方はいますか?
ミュージカル『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役と『ミス・サイゴン』のキム役が憧れです。それから、『アナスタシア』の映画を観て、いつかやってみたいと思うようになりました。とても難しいだろうと思いますが、チャレンジして、勉強して、いつかその3作品に出演できたらと思います。また、ミュージカルではないですが朝ドラのヒロインもやれたらいいなと思っています。高畑充希さんを目標としているのですが、高畑さんは『ピーター・パン』を演じていて、朝ドラのヒロインもやっていて、『ミス・サイゴン』のキムも演じていて、私の憧れを全て叶えている方なので、高畑さんのようにいろいろなジャンルでいろいろな役にチャレンジできたらいいなと思います。
――2025年は『ビートルジュース』など多彩な役を演じてきましたが、そうした作品を経て、今、どんな学びや成長があったと思いますか?
昨年末になってしまいますが、『翼の創世記』という作品に出演させていただいたときに、初めて50代を演じることにチャレンジさせていただきました。オーディションで出演が決まった作品だったのですが、受かると思っていなかったので、出演できたことがまず嬉しかったですし、これまでとは全く違う役柄にチャレンジさせていただけたのもありがたい機会でした。しかも、3人芝居というのも初めてで、難しい役、難しいお芝居に挑戦できて吸収できたものも多かったと思います。そこでお芝居のジャンプアップができたと今、感じています。
最近まで出演していた『ビートルジュース』は、コミカルなお芝居を学べた現場でした。例えば間(ま)の取り方や抑揚が皆さん本当に上手くて、私も何度も真似て練習しました。
この1年での経験は、今年の『ピーター・パン』にも役立っていると思いますし、『ピーター・パン』のお芝居をより深く表現できるのではないかと思います。
――最後に改めて公演に向けての意気込みとメッセージをお願いします。
今年でミュージカル『ピーター・パン』は45年目を迎えます。45年目という節目の年に11代目ピーターパンとして出演できるということがすごく嬉しいです。新キャストの皆さまと一緒に、個性が爆発した、ドキッとさせられるような世界観を作っていきたいと思います。私も“新成人”初のピーター・パンとして、ちょっと大人な芝居もお見せできるように、これからの本番までの間にさらにお稽古をして頑張っていきたいと思います。ぜひツアー先の皆さまも、東京公演を観に来てくださる予定の皆さまも、楽しみにしていただけたらと思います。

最後に大ジャンプを披露してくれた山崎さん。
取材・文=嶋田真己 撮影=中田智章

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