第48回日本アカデミー賞で、インディーズ映画として初めて最優秀作品賞を受賞した時代劇コメディー「侍タイムスリッパー」が、本日7月18日午後9時から、日本テレビ系金曜ロードショー」で地上波初放送されます。映画.comでは、米農家と兼業する安田淳一監督のロングインタビューを劇場公開時に敢行。その時の模様を、ダイジェストでお届けします。

【動画】「侍タイムスリッパ―」予告編

今夜放送されるのは、安田監督自らの編集による"金曜ロードショー特別版"。幕末の侍が雷に打たれて現代の時代劇撮影所にタイムスリップし、理解不能な状況に戸惑いながらも、時代劇の「斬られ役」として第二の人生に奮闘する姿を描いています。

通常の邦画の10分の1以下の制作費で、スタッフもわずかという逆境の中で制作された今作は、公開時はたった1館のみの上映でしたが、口コミで評判が広がり、全国380館の映画館で上映されるまでに拡大。興行収入10億円を超える大ヒットを記録し、社会現象を生み出しました。

自主制作ゆえ、安田監督自ら制作資金の調達に奔走。しかし、コロナ禍という時期もあり資金集めは難航し、諦めかけた安田監督に救いの手を差し伸べたのは、"時代劇の聖地"東映京都撮影所(通称:太秦撮影所)でした。映画完成時の監督の口座残高はわずか7000円で、映画が当たらなければ農業も続けられないほど崖っぷちに追い込まれていたといいます。

――インディーズ映画としては「カメ止め」以来の大ヒットと言われていますが、周囲からの反響も大きかったのではないでしょうか?

安田:本当に何が起こるのか分からないですよね。親戚とかからテレビを観たよという連絡は来るようになりましたし、営業活動としてX(Twitter)で一生懸命いいねを押し続けているんですが、なんだか実感が沸かないというか。普段自分のやってることは、ウィークリーマンションの中でずっとパンフレットの原稿を書き続けていたり、先日からは実家の京都で稲刈りが始まったんで、稲を刈って乾燥して脱穀し、米袋をトラックに積んで届けたり……。(監督が経営する)油そば屋から報告が入ったら、発注する食材をお願いしたりと、普段と全然変わらないですよ。

それに僕自身、映画を撮る人は、自分自身がドリーマーやったら駄目だと思っているんです。作り手は現実をちゃんと見据えながら、夢を描かなあかんと思っています。自分自身が夢見人になったら駄目だなと。それは今までうまくいってなかったから、そう簡単に有頂天にはなったらあかんなと自重してる部分もあるかもしれないです。

――この映画のために自己資金を投入し、一時期は監督の通帳残高が7000円しかなかったそうですね。

安田:撮影時は本当に大変でした。今回だいぶ無茶しましたからね。車も売りましたしね。本当に大変でした(笑)。

――過去に監督された「拳銃と目玉焼」「ごはん」はシネコンでも上映されたわけなので、最初からシネコンという選択肢もあったのではないでしょうか? 池袋のシネマ・ロサで上映することになった経緯は?

安田:2023年の10月14日に、完成した映画を京都国際映画祭で上映したのですが、その時にお客さんがすごくゲラゲラ笑ってくれて。最後はものすごい熱狂的な拍手をくださった。これはもしかしたら「カメ止め」上映時の客席みたいな現象がここでも起こっているのではないかという感触があったんです。ただその時は明確にどういう方向に持っていこうか、というのは迷っていました。

それこそミニシアターで上映してもらうか、シネコンで上映してもらうか悩んだのですが、その時に「みぽりん」の松本大樹監督が、「安田さん、面白いのができたと思うなら、1回、シネマ・ロサさんで上映してもらって。そこで評価されてからシネコンやほかの劇場に持っていくという流れが一番スマートでやりやすいんじゃないか」と言ってくれて。それならばということで、ロサの担当の方に映画を観てもらいました。すぐにぜひやらせてほしいとお返事をいただいて、上映してもらえることになりました。

――ロサでも初日満席スタートを切って、その後も満席の回も続出したと聞いております。監督は、映画を上映した後のお客さんのお見送りなどもやられていたそうですが、反響はどうだったんですか?

安田:僕らも一般の映画館のことしか知らないわけなので、シネマ・ロサにどんなお客さまが来るのかよく分かっていなくて。ロサのお客さまは何回も映画を見て、応援してくれると聞いたのですが、そんなに何回も映画を観てくださるんだろうかと半信半疑でした。でもお見送りをしていくと、「もう5回目です」「6回目です」といった具合に声をかけてくださる方がいっぱいいて。

大手のシネコンさんで上映していただくことになったのも、編成担当の方や、配給のギャガの方たちが実際にロサに足を運んでくださった。そこでお客さんがゲラゲラ笑っていて、舞台挨拶もないのに拍手が沸き起こった様子を目の当たりにされた。これは! ということで声をかけてくださったんだと思うんです。やはりロサで大喜びしているお客さまと一緒に鑑賞してもらったのが良かった。劇場にもお客さまにも恵まれたなと思いますし、それは本当に幸運な環境だったなと思います。撮影スタッフもすごく献身的だったし、俳優さんたちにも恵まれた。そして劇場、配給、お客さんと、本当にいろんな方に助けていただいたなと思います。

――今後、次回作などを含めた安田監督の今後に注目が集まると思いますが、今後の展望はどう考えていますか?

安田:まずは農家として、ちゃんとしたお米をつくれるようになりたいというのもありますし。映画やドラマの企画も何本か温めているものもあるので、そういうお話があった場合にはいろいろ提案をしていきたいと思う。それと僕は「男はつらいよ」が大好きなので、いつか山田洋次監督に「侍タイムスリッパー」を観てもらいたいなというのは夢としてあります(笑)。寅さん、最高!

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