7月15日(現地時間)、トランプ米大統領ペンシルベニア州ピッツバーグでの演説で、グーグルをはじめとする民間企業20社がAIおよびエネルギー分野に920億ドルを超える巨額の投資を行う計画を発表した。この投資は、生成AIの急激な普及に伴う膨大な電力需要に対応するためのインフラ整備を目的としている。しかし、なぜトランプ政権はAIを優先的な政策に位置付けるのか。ここでは地政学的観点から考えてみたい。

米国の技術覇権と中国との競争

トランプ大統領のAI推進は、米国が世界の技術覇権を維持するための戦略である。特に、中国との技術競争がその核心にある。AIは、経済、軍事、安全保障のあらゆる領域で決定的な影響力を持つ技術として認識されている。中国は国を挙げてAI開発に巨額の投資を行い、独自のAIモデルやインフラを急速に整備している。トランプ氏は、中国がAI分野で米国を追い越すことを警戒し、米国が「AIの世界首都」となることを目指すと繰り返し強調してきた。この発言は、技術的な優位性が地政学的パワーバランスを左右するという認識に基づいている。

トランプ政権は、AI技術の進展が経済競争力だけでなく、軍事力や情報戦にも直結すると考えている。たとえば、AIを活用した自律型兵器やサイバーセキュリティシステムは、将来の戦争や国家防衛において決定的な役割を果たす可能性がある。中国がAI技術でリードすれば、米国は軍事・経済の両面で優位性を失うリスクがある。トランプ政権は、民間企業の大規模投資を後押しすることで、AIインフラの整備を加速し、中国に対する技術的優位を確保しようとしている。
エネルギーインフラ地政学的安定

また、AIの普及には膨大な電力が必要であり、エネルギーインフラの整備が不可欠である。トランプ大統領は、AIの電力需要を満たすため、石油・ガス開発や原子力発電所の新設を推進する方針を打ち出している。2025年1月には、国家エネルギー非常事態を宣言し、エネルギー生産に関する規制を大幅に撤廃した。この動きは、AIインフラを支えるエネルギー供給の安定化を図るだけでなく、エネルギー自給率を高めることで地政学的リスクを軽減する狙いがある。

エネルギー安全保障は、米国の地政学戦略において重要な要素である。中東やロシアへのエネルギー依存を減らし、国内でのエネルギー生産を増強することは、外部からの影響力を抑え、国際的な交渉力を高めることにつながる。トランプ政権は、AIとエネルギーの結びつきを強調することで、技術覇権とエネルギー安全保障の両方を同時に追求している。

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