アサヒ飲料(東京都墨田区)は、7月15日エナジー炭酸飲料「ドデカミン」の新商品「ぼくの考えた最強のドデカミン」を発売した。サンワード(大阪市)が手掛けるキャラクター「家庭科ドラゴン」とコラボした異色の商品は、パッケージでブランドロゴを「破壊」するなど、社内でも賛否分かれるデザインだった。ねとらぼ編集部は、製品化の背景を担当者に聞いた。

【画像】アサヒ飲料社内で議論を呼んだ商品パッケージ

突然鳴った一本の電話

家庭科ドラゴンを使わせてください」――。

 2024年の年末、サンワード取締役営業部長の上田一郎さんのもとに、アサヒ飲料側から一本の電話があった。「ドデカミン」の新商品プロジェクトの「顔」に、家庭科ドラゴンを起用したいという依頼だった。突然のコラボ依頼に上田さんは「アサヒ飲料さんは一体、何を言っているんだ⁉」と目を丸くした。

 「家庭科ドラゴン」は2001年、サンワードがデザインを手がけた学習向け教材として誕生。特徴的なドラゴンのデザインは、「強くかっこいい」ものを求める小学生の感性に刺さり、裁縫箱は累計100万箱以上売り上げた。近年は、かつて裁縫箱を愛用していた「ドラゴン世代」の間で再ブームの兆しを見せていた。

 ドデカミンを手がけるアサヒ飲料マーケティング本部マーケティング一部炭酸・果汁グループプロデューサーの髙橋幸亮さんは、「最近は“オーバースペック型”の商品がSNSで話題を集めており、ドデカミンでもそういう商品を出して、お客様をもっと喜ばせることができないかと考えていました。その大げさ具合を表現するのに、『家庭科ドラゴン』とコラボするのがベストだと思いました」と振り返る。

担当者の原体験がコラボの動機

 しかし、これは「表向きの理由」と髙橋さんは語る。もっとも大きかったのは自身が「家庭科ドラゴンのファンだった」からだ。

 小学生のころ、家庭科用品を選ぶために配られたプリント。さまざまな柄やキャラクターが並ぶ中、異彩を放つ黒いドラゴンに一目ぼれした。

「典型的な小学生男子だったので、お土産ドラゴンキーホルダーばかり集めるなど、とにかく『かっこいいもの』には目がありませんでした。裁縫箱をドラゴンにしようとしたら、親は『派手すぎない?』『長く使える方がいい』とシンプルなデザインを勧めてきました。それでも、自分は『これがいい』と決して譲らなかったことを覚えています」

 大人になっても強烈なドラゴン愛は健在だった髙橋さん。コラボ実施に向けた打ち合わせで、イメージした商品の企画案を上田さんに提示すると、その熱量の高さに上田さんは「アサヒ飲料さんは本気だ、何も言うことがない」と驚かされたと同時に、サンワードの社をあげての全面的な協力を約束した。

「非世代」の上層部説得に腐心

 コラボの方向性が定まったタイミングで、1つの壁となったのが、上層部の説得だ。堅実な社風として知られるアサヒ飲料の中で、エナジー炭酸飲料のドデカミンは異質なキャラクターの商品。しかも、プレゼン相手の上層部は「ドラゴン世代」ではない。

 家庭科ドラゴンが登場したのは21世紀に入ってからのこと。それ以前に小学生だった人にとっては、子どもが裁縫箱を持っていたなどの理由がない限り、なかなか目にする機会は少ない。そうした人たちに、ドラゴン人気を伝えるためには「ていねいな説明が必要だった」と髙橋さんは振り返る。

 髙橋さんは、ドラゴンが一定世代以上の間で高い知名度と支持を誇り、それがドデカミンのユーザー層と重なること、近年ブームが再来し、ネット上で注目されていることなどを引き合いに出し、上層部を説得。無事商品化が決まった。

「共通の思い出」で童心に返った社員たち

 商品化が決まると、髙橋さんが作り出した強力な磁場に引き寄せられるように“ドラゴン好き”たちが集まってきた。

 特に、商品の中身を開発した担当者(20代後半)は“ドンピシャドラゴン世代”で、関連グッズを集めるほどの大ファンだった。「パッケージデザイン案を見せると『これってあの本物のドラゴンですか?』と興奮気味に食いついてきました」と髙橋さんは振り返る。

 プロジェクトはアサヒ飲料社内でも話題を呼び、髙橋さんは普段かかわりのない社員から「ドラゴンとコラボやるんですか?」「あれ、いいね」「ここをこうするといいよ」と声を掛けられたこともあった。そこは、ドラゴンの裁縫箱見たさにクラスメイトが自然と群がってくる、かつての小学校の教室のようだった。

パッケージ裏に込めた「まさかのメッセージ」

 最終的に出来上がった商品パッケージは、正面に描かれた家庭科ドラゴンが、ドデカミンのロゴを握りつぶすという衝撃的なデザインとなった。髙橋さんは「ドラゴンのイラストをそのまま使わせいただくのは失礼」と、ドラゴンへの「愛」を引き立てるために、このようなデザインに至ったのだと話す。

 「ブランドのロゴを潰す」デザインはこれまで前例がなく、アサヒ飲料社内でも注目を集めたが、議論を重ねて最終的に許可が下りた。

 中身は、通常の「ドデカミン(PET500ml)」と比較して、高麗人参エキス、ローヤルゼリー、カフェインガラナ/マカを200%、ビタミンCを120%配合。ドラゴンが放つ「最強」のイメージと合致する作りになっている。

 そして、髙橋さんが「こんなものは商品としてありえないですよね」と語るのは、パッケージ裏面に刻まれた次のメッセージだ。

「裁縫箱の柄に君のロマンを詰め込むか、それとも親の現実的な価値観に屈するか。小学生男子のぼくにとって、それは人生最初の“選択”の試練であった。『ドラゴン一択』と確信するぼくに対し、母は渋い顔をして『飽きるよ?』 あえて言わせてもらおう。あの時の決断を20年以上たった今でも誇らしく思う」

 ここに書かれているのは、髙橋さんの原体験そのものであり、ドラゴン裁縫箱を手にした人たちの多くが通った道でもある。髙橋さんは「商品を買ったらここを見逃さないでほしい」と念押しする。

 衝撃的なデザインが許されたのは、髙橋さんの商品化に向けた熱量の大きさ、それを後押ししたアサヒ飲料社内の「ドラゴンファン」とサンワードの存在があってこそだった。そして、再ブーム以降、多くの人を惹きつけている家庭科ドラゴンの「次なる舞台」にも注目が集まる。

【画像】アサヒ飲料社内で議論を呼んだ商品パッケージ