米政府が4月に打ち出した大規模な関税措置を受け、世界中の金融市場が急落しました。一方、金の価格は記録的な「高値」を更新し続け、投資家からますます注目を集めています。本記事では、ステート・ストリートインベストメント・マネジメントのゴールド・ストラテジスト アーロンチャン氏が、投資先として注目が集まる金について、詳しく解説します。 

なぜいま金が投資先として注目されているのか

米政府が4月に打ち出した大規模な関税措置を受け、世界中の金融市場が急落しました。これに対し、金の価格は記録的な高値を更新し続けています。今回は、投資先として注目が集まる金について詳しく見てみましょう。

トランプ政権が提案した相互関税は、既にボラティリティ(価格の大きな変動)やドローダウン・リスク(資産価値が下落するリスク)の上昇に苦しむ投資家に、さらに大きな不透明感をもたらしました。こうした不透明な状況では、安全資産とされる金に資金が流れやすくなります。実際、金は米国の関税政策発表前の2025年第1四半期に、四半期ベースで1986年以来の高リターンを記録しました。

ではなぜ、このような不確実性の高い状況で金価格が最高値を更新し続けているのでしょうか。世界の貿易政策の行方が見通せず、市場は世界の貿易政策の行方を見極められていません。そのため、不安の連鎖によって消費者が支出をさらに切り詰め、事業・設備投資が抑制され、雇用の伸びが鈍化する可能性があります。米成長予想と企業の業績見通しが見直されればセーフヘイブン(安全な逃避先)資産としての金に対する投資家需要は押し上げられるでしょう。

ポートフォリオの構築は、株式と債券を60/40の比率で配分する「バランス型」が一般的でしたが、近年ではより多様な資産への分散を図る動きが強まっています。投資家は、株式や債券といった伝統的資産クラスと相関の低い資産を取り入れることで、非伝統的資産へのエクスポージャーを増やし、リスク分散と安定的なリターンを目指すようになりました。

金は、こうした非伝統的資産の一つであり、多くの伝統資産との相関が歴史的に低いため、ポートフォリオに金を組入れることで、様々な市場局面を通じてポートフォリオにおいてリスク・リターン特性を改善する効果が期待されます。

貿易政策は依然として流動的です。今後の二国間交渉の結果によっては関税率が引き下げられる可能性があります。ただし、結果の予測は難しく、タイミングも不明です。こうした分散リスクは、金のアロケーションおよびETFへの資金フローに有利に働きます。

金は歴史的に、景気の良し悪しを問わず様々な景気循環を通じて競争力のある長期的なリターンを提供してきました。これにより、ポートフォリオのリターン最適化するための長期的な分散効果が期待できます。

過去20年間(2025年5月31日時点)で、円建て金(為替ヘッジなし)は年間12.5%のリターンを記録し、世界株式(円ベース)、米国株式(円ベース)、日本株式、米国債券(円ベース)、日本債券、商品(円ベース)が同期間に記録した年間8.6%、12.0%、6.8%、4.6%、0.7%、1.1%のリターンを上回る、最も優れた資産クラスの一つです。

下のチャートは、過去10年、20年における金の他の資産クラスに対する優れたパフォーマンスを示しています。

長期的には、金は投資家の資産保全ツールとして、経時的な購買力の維持に寄与する可能性があります。金は、特に極端なインフレ環境において、インフレが上昇する期間に歴史的にプラスのリターンを提供することで、価格の上昇に対応してきました。

具体的な金投資手段とは?それぞれのメリットデメリットも解説

投資家が⾦投資を通じて期待される様々な恩恵を享受するには、いくつかの選択肢があります。ETF(上場投資信託)、投資信託、⾦塊や⾦貨、あるいは⾦鉱株といった様々な投資⼿段の利点や留意点について理解を深めることは、⾃⾝の投資スタイルに最適な方法を⾒極めるうえで役に⽴つはずです。

金を裏付けとするETFの特徴の一つに、⾦へのエクスポージャーを手軽に得られるだけでなく、取引所を通じた売買のしやすさや価格の透明性、そして比較的低い平均経費率といったパッシブ型ETF特有の利点が挙げられます。なかでもSPDR⾦ETFシリーズのように⾦現物を裏付けとした商品は、ビッド・アスク・スプレッドや⾦価格との乖離(トラッキングエラー)が小さく、取引コストを抑えた効率的な投資⼿段として注目されています。

また、⾦ETFは流動性も高く、ポートフォリオの構築やリバランスにも対応できる柔軟性があります。ただし、全ての⾦ETFが⾦地⾦を保有しているとは限らないため、各ETFの保有資産を慎重に確認し、現物の⾦への投資比率を把握しておくことが重要です。これは、⾦⾃体への投資配分⽐率が低い、または直接的/間接的に投資していない⾦鉱株ETFや⾦投資信託と⽐較する際に、特に留意すべきポイントです。

投資信託も⽇次で流動性を提供するものの、ETFとは異なり、取引所でリアルタイムに売買することはできません。また、運⽤ポートフォリオに⾦のエクスポージャーを取っているバランスファンドは、⾦だけでなく他の資産も組み入れているため、⾦価格の動きに連動しない場合もあり、⾦の保有によって得られる本来の利点が薄れてしまう可能性があります。さらに投資信託は、多くのETFと⽐べて総経費率が⾼めである点にも注意が必要です。

金鉱株や金鉱株ETFも、投資家が⾦への間接的なエクスポージャーを取る⼿段の⼀つです。ただし、これらは金そのものに投資するわけではなく、金を採掘・生産する企業への投資となるため、金価格だけでなく、事業の収益性、業界内の競争状況、財務健全性や経営戦略といったさまざまな要因の影響を受けます。そのため、金現物や金ETFとは性質が異なることを理解しておく必要があります。

金塊と金貨は、現在も⾦へのアクセス手段として世界中の投資家に広く利用されていますが、その傾向は変化しつつあります。現在、世界の金ETFは3,541トンの金を保有しており※1、ETFを通じた投資の拡大は、金の保有手段としてETFを選ぶ投資家が増えていることを示しています。⾦塊や⾦貨の保有は、実物を所有するという点で非常に透明性が⾼いものの、購⼊時に市場価格にプレミアム(上乗せ)がつくことが多く、コスト面での注意が必要ですまた、保険、輸送、保管といった管理コストや売買時の流動性の低さも、実際の投資リターンに影響を及ぼしかねません。

金先物は、主に機関投資家や大口投資家がレバレッジ(借り⼊れ)を活⽤して金へのエクスポージャーを得たり、鉱山会社が金価格の変動リスクを低減したりする手段として利用しています。一般の個人投資家にはややハードルの高い手法といえるでしょう。

また、金先物には現物の裏付けがなく、決済期日が設定されているため、ポジションを維持するには限月ごとに建玉をロールオーバー(乗り換え)する必要があります。先物は一般に取引規模が大きく、売買手数料は低めですが、ロールオーバーにかかるコストなども含めた総コストを十分に考慮する必要があります。

最後に、金は、不安定な金融市場に直面する日本の個人投資家にとって、資産分散の一環として検討に値する有力な選択肢といえるでしょう。

※1 出所・ワールドゴールドカウンシル2025年5月31日現在

※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。

アーロンチャン

ステート・ストリートインベストメント・マネジメント  ゴールド・ストラテジスト

(画像はイメージです/PIXTA)