
●幼い子どもたちの成長や明るさが救いに
フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)では、戦火のウクライナから日本にやってきた避難民家族を追ったシリーズ最新作「たどりついた家族4」を、20日・27日の2週にわたり放送する。
取材したのは、同局系情報番組『めざましテレビ』のニュース班。蔵本卓大プロデューサー、井本早紀ディレクター、草なぎ伶央ディレクターが、3年間追い続けてきた一家の印象的な姿、それぞれの立場が理解できるゆえの苦しさ、そしてこのシリーズで伝えたい「戦争の被害者は私たちの身近にいる」というメッセージを語ってくれた――。
○避難する側よりも張り詰めていた受け入れ側
3年前にウクライナから避難してきたのは、母・マーヤさん(44)、次女・レギナちゃん(6)、長男・マトヴェイくん(4)。日本で暮らす長女・アナスタシアさん(22)と日本人の夫・和真さん(35)が、母子3人を受け入れた(※年齢は当時)。
取材のきっかけは、アナスタシアさんの家族を日本に避難させたいと、SNSで情報を集めていた和真さんの投稿。これを見つけて連絡を取ったところ、和真さんは「日本にも困っている人がいるという現状を知ってほしい」と、快く取材に協力してくれることになった。
一家が日本にやってきたのは、2022年3月。井本Dは「初めて成田空港に到着したマーヤさん一家を取材した時は、戦火を逃れてきたご家族はきっと憔悴しきっているだろうと思っていました」というが、実際に対面すると「特に子どもたちは全くそういったことを感じさせないほど元気で明るく、驚いたことを覚えています」と印象に残ったという。
草なぎDは「むしろ日本で待っていたアナスタシアさんや和真さんの方が、心配と疲労で張りつめていたように見えました。無事に日本に到着してくれて、取材していた私たちも心から安堵しました」と振り返る。
○どの立場も“子どもの成長が希望”に
それから3年間の取材を重ねる中で、特に印象に残るというのは、小さな子どもたちの成長のスピード。幼稚園や小学校に通い、友達をつくり、日本語を少しずつ覚え、日本での生活に溶け込んでいった。
井本Dは「訪れるたびにレギナちゃんとマトヴェイくんの日本語がどんどん上達していったんです。本当に子どもの順応力はすごいと実感しました」と驚かされ、草なぎDも「最初の頃は、何を話しているか分からないまま撮影していましたが、徐々に日本語で話しかけてくれるようになり、日本語で会話をしながら取材ができるようになっていきました」と、助けられたそうだ。
この背景には、和真さんの積極的な姿勢も。「子どもたちに“正しい日本語を身につけてほしい”と敬語や丁寧な言葉を使って話しかけていました」と、コミュニケーションを取っていた。
子どもたちの明るい性格に、「私もレギナちゃんとマトヴェイくんに救われた部分が大きいです」という蔵本P。「とにかく笑わせてくれるんです。戦争に巻き込まれた人々が“子どもは希望”という言葉を使われることが多いと思うのですが、まさにその通りだと実感しました」という。
それゆえ、「この子たちが少しでも幸せになってほしい。お母さんのマーヤさんにとっても、アナスタシアさんと和真さんにとっても、そして私たち取材者にとっても、ということは視聴者にとっても、“子どもの成長が希望”なのだと思います」と強調した。
●母親に感じた強い意志「いつか必ずウクライナに帰るんだ」
一方で、日本語にも文化にもなじめない日々が続く母・マーヤさん。「なかなか思いや本音を聞き出すというのが難しかったです」(草なぎD)、「通訳の方に間に入ってもらってのインタビューでは、どうしてもマーヤさんも硬くなってしまいます。関係性を築くのが難しかったですね」(井本)と苦戦を強いられたが、「仕草や表情から、マーヤさんの本音をくみ取るように取材を続けました」(蔵本P)と、寄り添ってカメラを回した。
これまでのシリーズで、危険なウクライナに戻りたい意向を何度も示し、実際に一時帰国もしたマーヤさん。SNSでは、その思いに共感できない投稿も目立ったが、草なぎDは「もし自分が母国を離れて3年も子どもに教育を受けさせていたら…と想像すると、彼女の焦りや葛藤も理解できる気がしました」という。
マーヤさんが子どもたちに、ウクライナの歌のレッスンを必ずリモートで受けさせていた姿に、「“子どもたちに故郷を忘れさせない、いつか必ずウクライナに帰るんだ”という強い意志を感じました」という井本D。また、「日本に避難させることができなかった、マーヤさんの兄で障害のあるジェニャさん(60)や、彼の面倒を見ている義母のサーシャさん(81)への申し訳ないという気持ちも強く感じました」と受け止める。
今回の放送では、ジェニャさんが失踪してしまう場面も。「ジェニャさんが“自分が家出をすれば、マ-ヤが帰ってくると思った”と話していたというのを聞いて、マーヤさんの帰りを待つジェニャさんもつらい思いをしているというのが強く響きました」と心を痛めた。
○回答に窮した和真さんからの質問
シリーズ最新作となる「たどりついた家族4」では、ジェニャさんの件に加え、生活の支えであった財団からのウクライナ避難民への支援金が、3年を機に打ち切られることになり、帰国を模索するマーヤさんに対し、アナスタシアさんと和真さんが必死に引き止めようとする。繰り返される家族会議の中で、それぞれの思いがすれ違う姿に、井本Dは「取材していても心が苦しくなりました」と打ち明ける。
特につらかったというのは、それまで和真さんとマーヤさんの間で通訳に徹し、自分の思いを表に出してこなかったアナスタシアさんが、家族会議で感情を爆発させた場面。「以前、彼女は“マーヤだけが帰国して、子どもたちを夫婦2人だけで育てるのはとても大変なので難しいと思う”と話していました。その覚悟を持った上で、母を説得する姿に胸を打たれました」(井本D)
マトヴェイくんと同じくらいの子どもがいる草なぎDは、和真さんに「命の危険があっても、子どもをウクライナで育てたいというマーヤの気持ち…私は子どもがいないから、マーヤの真意は分からないけど、草なぎさんは分かりますか?」と聞かれたことがあったのだそう。
これに対し、「うまく答えることができませんでした。和真さんが、レギナちゃんとマトヴェイくんを本当に自分の子どものように大切にしていたことを知っていたので、和真さんの立場に立つと、帰国は危険だと思いながら取材していましたが、父親としての視点で問われると、マーヤさんの気持ちも理解できる部分があり、本当に難しい選択だと思いました」と痛感する。
蔵本Pは「ぶつかり合う大人たち。その一方で、幼いレギナちゃんとマトヴェイくんは、お母さんの思いに引っ張られるのは当然。仲の良い家族が戦争によって引き裂かれていきました。誰が正しいかということでないと思うんです。家族にもそれぞれの価値観がある。ただ、その違いを簡単には受け入れられない状況に追い込まれてしまった。命に関わる問題ですから」と、戦地から遠く離れた日本における悲劇を実感した。
●“家族”のほほ笑ましいシーンも存分に
そんな今作について、草なぎDは「初回から一貫しているテーマですが、“戦争の被害者は私たちの身近にいる”、“戦争は隣にある”ということ。遠い国で起きている戦争でも、実はすぐ近くに、その影響を受けて苦しんでいる人がいるかもしれないということに、思いを馳せてもらえたらうれしく思います」と紹介。
蔵本Pは「私は取材を通じ、“人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である”というチャップリンの言葉がふと頭に浮かびました。私が見たものは、最初は逆でした。俯瞰で見ると戦争という悲劇が起きている。だけど、戦争で巻き込まれた家族を取材し近くで見ると、子どもたちを中心に日々の暮らしには笑いがあふれていました。ずっとそうであってほしかった。ただ、『たどりついた家族4』では、視点が俯瞰に引き戻され、戦争という悲劇をはっきりと突き付けられました」と予告する。
井本Dは「見ている人に、日本に避難してきたマーヤさん一家が、悩み、ぶつかり、時には悲しんだりする様子を通して、戦争という大きなテーマをより身近に考えてもらえればいいなと思います」とする一方、「重いテーマの番組ですが、“家族”のほほ笑ましいシーンもたくさん描かれているので、ぜひ気を張り過ぎず、今そこにある現実として見ていただけたらうれしいです」と呼びかけた。
(中島優)

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