
「夫が既婚者向けのマッチングアプリに登録していました」。ある女性から、そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
一般的に、既婚者向けマッチングアプリは「相談できる相手や癒される相手を探せる」と説明されていますが、実際には不倫のきっかけになるケースも少なくありません。
この女性は、現時点では離婚を考えていないものの、夫が再びこうしたアプリを利用した場合に備え「再び登録したら不倫とみなす」という内容の誓約書を作成したいと考えているといいます。
では、既婚者向けのマッチングアプリへの登録は、不貞行為にあたるのでしょうか。また、夫婦間の「誓約書」にはどの程度の法的効力があるのでしょうか。男女問題にくわしい︎古関俊祐弁護士に聞きました。
●アプリ登録だけでは「不貞行為」にあたらない──このようなアプリに登録したことで、妻が精神的苦痛を受けた場合、夫に慰謝料を請求することは可能でしょうか。
法律上の「不貞行為」とは、配偶者などパートナー以外の人と肉体関係(性的関係)を持つことを指します。そのため、既婚者であってもアプリに登録したり、異性とメッセージをやり取りしただけでは「不貞行為」には該当しません。
アプリへの登録だけでは不貞行為とならないため、慰謝料を請求するのは基本的に難しいといえます。
ただし、たとえば過去にアプリで知り合った人と会った経験があり、再三にわたって「やめてほしい」と伝えていたなど、これまでの経緯によっては、登録行為自体が夫婦間の信頼関係を著しく損ねると判断され、慰謝料が認められる余地もあるかもしれません。
●誓約書に「法的効力」はある?──妻は「女性と連絡先を交換する」「女性がいる飲み会に参加する」「女性と2人きりで会う」「マッチングアプリに登録する」といった行為を不倫とみなし、これらを禁じる誓約書を夫に署名させようとしています。夫婦で合意した場合、こうした誓約書に法的効力はあるのでしょうか。
過去にアプリ利用をめぐってトラブルがあった場合には、こうした誓約書が法的効力を持つ可能性があります。
ただ、単に連絡先を交換したり、女性もいる複数人での飲み会に参加するなど、日常生活や仕事の延長で起こりうる行為まで全面的に禁止するのはやりすぎでしょう。一方で、異性と2人で会う、アプリに登録するといった行為は、配偶者として許容されなくても仕方がない範囲と考えられます。
また、誓約書に法的効力があったとしても、違反した際に数百万円単位の高額な慰謝料を請求できるわけではありません。違反による慰謝料としては、せいぜい数十万円程度にとどまると思います。
●信頼関係の再構築がカギ──マッチングアプリ利用によって不信感が生じてしまった夫婦が、関係を修復して離婚を回避するにはどうすればよいのでしょうか。
アプリの性質上、利用者に悪気がない場合もありますが、他の異性に癒しや刺激を求める時点で、パートナーを深く傷つけることになります。
もし登録がバレてしまった場合には、言い訳をせずに誠実に謝罪し、対話やデートの時間を重ねることで信頼関係を再構築していく努力が欠かせません。
運命的な出会いを経て一緒になったパートナー同士です。アプリや他の異性に頼らずとも、自分の心の持ち方次第で、かつて感じたドキドキ感や癒しを取り戻すことは十分に可能だと思いますよ。
【取材協力弁護士】
古関 俊祐(こせき・しゅんすけ)弁護士
江戸川区出身。2009年3月、中央大学法学部卒業。2011年3月、明治大学法科大学院修了。 同年9月、司法試験合格。2012年12月、弁護士登録(東京弁護士会所属)。2017年、新小岩法律事務所開設を経て弁護士法人HAL代表弁護士に就任。
事務所名:弁護士法人HAL秋葉原本部
事務所URL:https://hallaw.jp/

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