
重要な経済指標として知られるGDP(国内総生産)ですが、何を示しているデータで、どのようなことがわかるのか、正確に知っている人はあまり多くないようです。GDPの基本的な考え方について、経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。
GDPは「国内で生み出された付加価値の合計」
GDP(国内総生産)という言葉はよく聞きますが、それが何なのかを知っている人は意外と少ないかもしれません。ひとことでいえば「国内で生み出された付加価値の合計」なのですが、それではわかりにくいですね。
【例】
自動車部品メーカーに「御社が作った物(財およびサービス、以下同様)は?」と聞いたら、「30万円の部品です」と答えました。
そこで自動車会社に聞いたら、「100万円の自動車を作りましたが、30万円の部品を仕入れたので、わが社が生み出した価値は70万円分です」と答えました。
自動車販売会社に聞いたら、「わが社は何も作っていませんが、営業職員がパンフレットを持参して顧客を訪問したことで、100万円の自動車が120万円で売れたので、わが社は20万円分の価値を生み出したと考えています」と答えました。
もし、日本に上記の3社しか存在しないとすれば、日本のGDPは、3社の生み出した価値(付加価値と呼びます)の合計である120万円ということになります。3社の売り上げ合計よりはるかに小さいですが、売り上げ合計には同じものが2回も3回も足されているので、それを取り除いた結果だというわけです。
以上がGDP統計の作り方ですが、じつは、GDP統計の作り方はあと2つあります。
ひとつは、消費者に聞くことです。「車を買いましたか?」「はい。120万円の車を買いました」と答えたなら、GDPは120万円と考えてよさそうですが、もちろんさまざまな調整が必要です。消費者のみならず、タクシー会社が自動車を買った分も含める必要があります。自動車を作ったけれども輸出したという場合には、消費者等に聞くだけでは足りないので、税関に輸出額を聞く必要があります。消費者が輸入車を買った場合には、それはGDP統計に加えてはいけませんから、税関に輸入額を聞いて差し引く必要があります。あとは、作ったけれども売れ残っている自動車があるか、自動車会社と販売会社に聞く必要がありますね。
GDP統計のもうひとつの作り方は、労働者に給料を聞き、会社に利益を聞いて合計することです。売上金額から仕入額と支払い給与額を差し引いたものが利益ですから、給料と利益の合計が売上マイナス仕入れ、つまり付加価値と等しくなる、というわけですね。
経済規模の比較でわかる「国力」と「豊かさ」
GDPは、国際比較されることが多いデータです。「日本は世界〇位の経済大国だ」「中国の経済規模は日本の〇倍だ」という話を聞いたことがあると思いますが、これはGDPの大きさを比べているのです。各国のGDPは、自国通貨建てで発表されているので、それを米ドル建てに換算して比較するのが普通です。
GDPが大きい国は、世界経済において重要である、と考えるのが自然でしょう。たとえば米国や中国の景気が悪くなると、輸入が減って日本等々の景気も悪くなる、といったことで、米国や中国の景気は注目度が高いわけです。
もっとも、経済規模が大きくても鎖国をしている国があれば、その国のことはあまり気にしなくてもいいかもしれませんし、経済規模は小さくても世界の貿易に占める重要な役割を果たしている国などがあるかもしれません。ケース・バイ・ケースでしょう。
GDPの国際比較には、1人あたりのGDPも用いられます。「中国のGDPは日本より大きいけれど、中国の人口は日本よりはるかに多いので、1人あたりGDPは日本の方が大きい」といった具合です。
1人あたりのGDPが大きいということは、国民が豊かに暮らしていると考えてよさそうです。消費者が多くの物を買っている、ということだからです。もっとも、これにも例外があり、王様が贅沢をしているけれど、庶民は貧しく暮らしている、という場合もあるので、要注意ではあります。
経済成長率には「名目」と「実質」がある
GDPを他国と比べるのではなく、過去の自国と比べる場合も多いです。前年のGDPと比べて「経済成長率」を求めるのです。単純に前年のGDPで割った値のことを「名目経済成長率」と呼びます。そこから物価上昇率を差し引いた値を「実質経済成長率」と呼びます。
GDPが増えた原因が物価の上昇であるならば、生産量は昨年と同じですから、あまり大きな意味はないでしょう。一方で、実質経済成長率が高ければ、国内で生産された物の量が増えているということですから、望ましいことだといえるでしょう。そこで、単に「成長率」という場合には実質経済成長率を指すのが普通です。
長期的に経済成長率が高ければ、国内で生産される物の量がどんどん増えていくわけですから、国民生活が飛躍的に豊かになっていくと考えてよいでしょう。高度成長期の日本では、20年近くにわたって高い経済成長率が続き、国民生活が大いに改善したわけです。
成長率が高いと「景気回復中」
短期的な経済成長率も注目されますが、それは景気を考えるうえで重要だからです。短期的な経済成長率が高いということは、昨年より生産量が増えたということですから、おそらく企業が売れると考えて増産したのでしょう。成長率が高いということは、企業の売り上げが増えている、つまり景気がいい方向に向かっている、ということを示唆しているのです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家

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