EVが“緑の地獄”を駆け抜ける日は近い?木下隆之が語るサーキットと電気自動車の進化【Key’s note】

EVがツーリングカーレースに登場する?

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が「Key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のテーマは「電気自動車(EV)がサーキットで存在感を示す日も近い?」。かつては街中を移動するのが精一杯だったEVは、今やレーシングステージへの扉を叩き始めています。

「緑の地獄」を全開で走るEVが続々と目撃されている

ニュルブルクリンクを全開で走れるようになったらEVを認めますよ」

かつて、自動車メーカーの幹部がこう言ったのを覚えています。

たしかに、10年ほど前のことだったでしょうか。そのころのEVは、今よりもずっと幼い存在でした。近距離をかろうじて移動するのが精一杯のクルマでした。ましてバッテリー容量不足に悩み、サーキットをアクセル全開で走れば、熱がこもりすぎて加速性能が急激に低下。そのため、1周20.8kmのドイツニュルブルクリンク(北コース)を全開で走り切るなんて、まるで夢のまた夢のような話だったのです。ですが……。

ニュルブルクリンクはガソリン車が全開で走りながらその限界を試す場所として、名を馳せています。市販車を鍛えるための「試練の地」です。

道は荒れ、急勾配のコースではエンジンもサスペンションも、もちろんドライバーも、限界を感じさせられます。「緑の地獄“Green Hell”」とも呼ばれるこのサーキットで、EVがフルスピードで駆け抜けることなど想像もつきませんでした。それこそ、EVの運命を決めるはずのバッテリーが爆発しそうな勢いです。

時は流れ、僕たちの想像を裏切るように、EVは確実に進化を遂げてきました。今ではニュルブルクリンクのテスト走行時間に、EVの姿が頻繁に見られるようになったのです。

EVがサーキットを全開で走る日も近い? Key’s note

無音のマシンが走る姿には圧倒される

ガソリン車のように「ドドドドドッ」とエキゾーストノートを響かせるわけではありません。いや、むしろ静かすぎて不気味なほどです。しかし、タイヤが摩擦を感じる音、スキール音を立てながら、無音のマシンが走る姿には、ある意味で圧倒されます。

そうです、EVはもう決して「トロトロ走るだけの電気自動車」ではないのです。重いバッテリーを搭載し、けっして軽いとは言えませんが、それでもその走りには一種の迫力が生まれています。

たとえ俊敏性に欠けるとしても、トロトロと這うように走ることはなく、むしろ一定の速さで周回している姿に、少し驚かされることもしばしば。

「あれ、意外に走れるじゃん?」

思わず呟いてしまう、そんな瞬間です。

そして、その進化を目の当たりにすると、かつての幹部の言葉がいよいよ現実味を帯びてきます。確かに、ニュルブルクリンクは簡単に攻略できるコースではありませんし、そこでレースが行われることも知っています。2025年のニュルブルクリンク24時間レースは盛況を極め、17のモデルが参戦し、総勢141台ものマシンがグリッドに並びました。

さすがに、ここでEVの姿を見ることはありませんでしたが、クラス区分や受け入れ体制が整えば、いずれEVも参戦する日が来るのではないかと感じます。

車重やバッテリーなど課題はあるがEVのレース参戦する日は近い

もちろん、現時点ではEVがフルスピードで走り続けるためには、さらなる技術革新が必要です。バッテリーの持ち具合や耐久性、さらに走行性能を考慮した最適化など、多くのハードルが存在しています。

しかし、それでも私は確信しています。

「EVがニュルブルクリンクのレースに出て、そのエンブレムが目立つ日もそう遠くはない」
進化したEVが、サーキットでその存在感を示す日を待ちながら、もう少しだけこの不気味な静寂に耳を傾けてみたいと思います。

そして、未来にはEVがエキゾーストノートを響かせる日が来ることを、私は心から期待しています。

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ニュルブルクリンクのテスト走行時間に、EVの姿が頻繁に見られるようになった