
この記事をまとめると
■全日本ラリーに出場する小川由起選手は仕事・子育て・ラリーと精力的に活動中
■ドライバーとコ・ドライバーの両方をこなす実力派で着実に成長している
■実力も確かで今後の戦績にも期待だ
マルチすぎる活躍を見せる女性ドライバー
全日本ラリー選手権では近年、女性ドライバー/女性コ・ドライバーが最前線で活躍している。彼女たちの多くは仕事、あるいは仕事をしつつ主婦として家事をしながら、時間を調整して国内最高峰のラリーシリーズにチャレンジしているが、そこに「子育て」を加えたママさん選手も奮闘していることをご存じだろうか?
チャンピオン経験もあるベテランドライバー、曽根崇仁選手のコ・ドライバーとして、JN-3クラスにトヨタGR86で挑む小川由起選手は、オーダーメイドのインソールの販売を手がけながら、3児の母として家事と育児を実施するなど、まさに「三足のわらじ」状態で活動している。
ちなみに、小川選手はTGRラリーチャレンジにドライバーとしても参戦しており、全日本ラリー選手権の第1戦「ラリー三河湾」と第4戦「モントレー」にはトヨタ・ヤリスを武器にドライバーとしてJN-5クラスに参戦。モントレーではクラス6位入賞を果たすなど、マルチな才能を見せている選手だ。
というわけで、7月4~6日、北海道虻田郡ニセコ町を舞台に開催された第5戦「ARKラリー・カムイ」で、三足のワラジを履く小川選手を直撃。ラリー活動はもちろん、仕事や家庭の話についても根掘り葉掘り聞いてみた。
小川選手の素顔に迫る
──まずはラリー活動の話からお聞きします。ラリーを始めたのはいつからですか?
小川選手:2021年の11月に開催されたTGRラリーチャレンジの富士山裾野がデビュー戦になります。当時は病院のチームでラリー活動をしていて、ドライバーとして参戦していました。
──きっかけは何だったんでしょう?
小川選手:もともとはクルマが好きで、S15のシルビアを買ってドリフトをしていたんですよね。でも、クルマを壊したこともあったし、子どもができたこともあって、それどころじゃなかったんですけど、3人目の子どもができて落ち着いたときに競技をやってみたいと思うようになりまして。ちょうどそのころ、ラリー活動をしている病院の理事長から声をかけていただいて、2021年のデビュー戦につながりました。
──なるほど。仕事関連の話はのちほどおうかがいするとして、その後はしばらくドライバーとしてラリー活動をしていたんですか?
小川選手:病院のラリーチームの方針として、女性ドライバーを起用していたんですけど、なかなかドライバーをやりたい人が出てきませんでした。しばらくして、ドライバーをやりたい女の子がでてきたので、それに合わせてコ・ドライバーとして活動することにしました。
──現在、全日本ラリー選手権にドライバーとしても、コ・ドライバーとしても出場していますが、全日本のデビューはいつだったんですか?
小川選手:2024年のラリー・ハイランド・マスターズです。ドライバーとしてトヨタ・ヤリスのCVTでJN-5クラスに参戦しました。
──今年は曽根選手のコ・ドライバーとして、GR86でJN-3クラスに参戦しながら、開幕戦のラリー三河湾と第4戦のモントレーは、ドライバーとしてもヤリスでJN-5クラスに参戦していますが、ドライバーとコ・ドライバーで役割が違いますよね?
小川選手:ドライバーはドライビングに集中しなければいけないし、コ・ドライバーはドライバーがいかに気もちよくスタート地点に立ってストレスなく走れるようにラリー全体をコントロールしなければいけないですからね。運転をするのはドライバーですが、ドライバーを勝たせるのも、クラッシュをさせるのもコ・ドライバーの影響が大きいので、個人的にはコ・ドライバーのほうが責任は重いと思っています。
──確かにコ・ドライバーもミスはできませんよね。
小川選手:ドライバーのメンタルにも影響してきますからね。たとえばうまくマネジメントできてなくて、ギリギリのタイミングでSSのTCに到着したとしますよね。そういった焦らせてしまう状況を作っただけでタイムに影響してくる。ラリー競技ではドライバーだけがフォーカスされることが多いけれど、ドライバーだけが優秀でも勝てない。ドライバーとコ・ドライバーの両方をやるようになって、そう思うようになりましたね。
──シーズン中にコ・ドライバーとして参戦しながらドライバーとしてもスポット参戦していますが、やっぱり大変ですか?
小川選手:頭をドライバーからコ・ドライバーに切り替えるのが大変ですね。私がドライバーとして作るペースノートと曽根選手のペースノートは表現が違うので、コ・ドライバーとして参戦するときは曽根選手のペースノートに頭を切り替えて、リーディングのタイミングも変えています。
──なるほど。逆にコ・ドライバーとして参戦しながら、ドライバーとしても参戦することで、相乗効果みたいなことはあるんでしょうか?
小川選手:曽根選手のコ・ドライバーをやったことでドライバーとしても劇的に速くなってきましたね。ここまで突っ込んでいいんだとか、コーナーの侵入速度が上がってきました。
──逆にドライバーとしての経験がコ・ドライバーに活かされたりするんですか?
小川選手:ドライバーの気もちがわかるので、ドライバーの気もちに寄り添って共有しています。曽根選手が大船に乗った気もちで戦えるように心がけていますね。
──ところで、小川選手は普段の仕事は何をやっているんですか?
小川選手:いまはオーダーメイドのインソールの販売をしていますが、もともと介護士の資格をもっていたので、ラリーを始めたきっかけとなる病院のラリーチームには、フットケアアドバイザーとしてその病院と関わっていました。ドクターや看護師、理学療法士に足のケアの仕方などを指導していましたね。いまは自分の店舗をもっているので、ラリー活動のためにスケジュールを調整しながら仕事をしています。
──すごいですね。で、家に帰れば3児のママさんですよね? ラリー期間中、子どもたちはどうされているんですか?
小川選手:夫が面倒をみてくれますし、土曜日と日曜日は夫の両親もサポートしてくれているので助かっています。
──普段はママとして主婦と育児もやっているんですよね。大変ですよね?
小川選手:大変だと思ったら大変ですが、気のもちようですね。
──仕事や主婦&ママをやりながら、ラリー活動を続けるのはハードだと思うんですけど、ラリー競技の魅力はなんですか?
小川選手:やっぱり、チーム競技というところですかね。ラリー競技ではドライバーやコ・ドライバーに加えて、メカニックやいろんな手伝いをしてくれるサービス員も必要で、誰ひとり、欠けることはできないんですけど、みんなが仕事をして、それで完走できたときの達成感はほかに変えがたいところがあります。結果がよければ涙が出るくらい嬉しいし、僅差で負けたら悔しい。そういった部分が面白いですね。
──ふむふむ。そのほかに魅力はありますか?
小川選手:私は硬式テニスでインターハイに出たりしていたんですけど、テニスではラケットやガットのポンド数や貼りかたを変えたりするんですよね。そういったデータを取りながら試合をしていくんですけど、ラリーもタイヤや足まわりなどセッティングが幅広いですよね。そういったものを使って競技をするところも魅力的です。ドライビングだけでなく、クルマのことを理解した上で、セッティングを考えていくところが面白い。あとは成長していくことが目に見えてわかるところですね。大人になって成長することはあまりないけれど、ラリーでは着実に成長していけるので、そういったところも面白いですね。
以上、簡単に小川選手を直撃してみたが、小川選手は若いころの藤原紀香さんを彷彿とさせるような美人さん。しかもシュッとしている小川選手は以前、キャンギャルとしても活動していたらしく、なかなかのマルチタレントぶりである。
経験を重ねて確かに実力を伸ばす
もちろん、ラリー競技の実力もまずまずで、ドライバーとして参戦した全日本ラリー選手権の第4戦・モントレーでは前述のとおり6位入賞を果たしたほか、コ・ドライバーとしても第2戦「ツール・ド・九州」で3位、第3戦「ラリー飛鳥」で2位に入賞。
さらに「レグ1のSS7でコースアウトしたり、レグ2のSS8でインカムに不具合があったりと波乱万丈でしたが、なんとか完走することができました。SS8は大声でリーディングしましたが、なんとかタイムロスを少なくすることができました」と小川選手が語るように第5戦のラリー・カムイでも3位でポディウムフィニッシュを達成している。
「昨年のラリー・ジャパンで勝田範彦選手のグラベルクルーとして小川選手と組んだんですけど、そのときにすごいな、と思いまして、それで今年は正式にコ・ドライバーを小川選手にお願いしました。インカーの映像や過去のペースノートをチェックしたりと事前の予習も熱心ですし、リーディングのタイミングもバッチリです。本当に走りやすいように助けてもらっています」と語るのは小川選手とコンビを組むベテランドライバーの曽根選手。
さらに曽根選手は、「小川選手はドライバーとしても伸び代が大きい。ラリー経験はわずか4年ですが、実戦の数が多くて、完走率も100%ですからね。きちんとコントロールできているということなので、今後はもっと成長できると思います」と期待を寄せる。
「ハイスピードのグラベルラリーでかなり刺激を受けましたし、トラブル対応の経験にもなりました。レグ2のセカンドループではラリー北海道に向けたセッティングを試すことができたので、次戦が楽しみです」と語っているだけに、9月5~7日、北海道帯広市を舞台に開催される全日本ラリー選手権第6戦「ラリー北海道」でも小川選手&曽根選手の動向に注目したい。

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