7月20日投開票の参議院選挙で、「日本人ファースト」を掲げる参政党が躍進した。

フランスでは極右政党が支持を集め、大統領の有力候補にまでなりました。現在の日本の一部にも重なる状況があるように感じます」

そう語るのは、上智大学総合グローバル学部の稲葉奈々子教授(国際社会学)だ。

日本社会にこれからどのような変化が起こるのか──。その手がかりを探るため、一足先に極右化の進んだフランス社会の動向を聞いた。(福原英信)

大統領候補に名が挙がる「極右政党」

──参政党神谷宗幣代表は7月3日の記者会見で「親和性が高い他国の政党」を尋ねられ、アメリカ共和党の保守派、ドイツ極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」、そしてフランスの「国民連合(RN)」を挙げました。RNはどんな政党ですか?

RNは、移民排斥を掲げるフランスの極右政党です。1972年に「国民戦線」として設立され、初代党首のジャン=マリ・ルペン氏は「ナチスのガス室はなかった」など、歴史修正主義的発言を繰り返してきました。

2011年に三女のマリーヌ・ルペン氏が党首に就任すると、反ユダヤ主義やEU離脱といった過激な主張を抑え、「脱悪魔化」と呼ばれる方針を展開し、党勢拡大を図りました。

極端な物言いを避け、フランス人のアイデンティティに訴える戦略で支持を広げ、大衆の間にも浸透していきました。

2018年には党名を「国民連合(RN)」に改め、2022年の大統領選挙の決選投票では2位となり、「マクロン退陣後は、ルペン氏が次の大統領になるのでは」とまで言われています。

ただし、2024年の国民議会選挙の第一回投票では最多得票を得ましたが、決選投票で3位に終わりました。

●移民排斥が支持されるようになった背景

──フランスで極右政党が広がった過程を教えてください。

古くは1990年代から、一部の移民家族が一夫多妻で家族手当を「不正」に多く受給しているとの主張がされ、法改正の動きが起きました。

やがて、「フランス人は(移民から)フランス固有のアイデンティティを守る権利がある」として「差異への権利」が、新右翼と言われる知識人によって主張されるようになりました。

2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、ムスリム移民=テロリストという認識が強まり、移民2世への排斥が進みました。

2005年には当時内務大臣だったサルコジ氏が、移民2世の多く居住する郊外の団地地区で、「この地区をケルヒャー(高圧洗浄機)で洗浄する」と発言し、物議を醸したことなどもありました。

さらに、2010年以降の緊縮財政や、2015年のシリアをはじめとし、中東やアフリカから多数の難民が欧州にわたってきた「難民危機」を経て、すでに定住している移民の社会統合を問題にする主張から、これからやってくる移民に対する国境管理厳格化の問題へと、「移民問題」の重点が変化していきました。

●日本とフランスに通じる構造的類似

──フランスで移民排斥が支持された背景は?

緊縮財政により社会保障費が削減されたことで生活が苦しくなる中で、移民は社会保障の不当な受益者だとして、人々の不満が移民に向けられるようになっていきました。

──日本と似ている点はありますか?

日本でも、小泉改革以降、社会保障費をはじめとする公共サービスの削減が続いています。

生活保護バッシングなどはヨーロッパではあまり見られない現象ですが、移民に対して社会保障費が使われることへの批判などが起きている点が似ています。

──逆に異なる点はありますか?

日本のほうがSNSとの結びつきが強いように感じます。たとえばX(旧Twitter)の利用率は日本が非常に高く、SNSを通じた政党活動の影響力はフランス以上ではないでしょうか。

●「シンボリックな変化」が起こる

──今回、参政党が躍進しましたが、フランスで極右政党が勢力を伸ばしたときはどんな変化がありましたか?

フランスでもそうでしたが、今回の参院選の結果で、生活がすぐに変わることはないと思います。政治家が変わったからといって、行政の方針が急激に変化することはないです。

ただし、2010年にイスラム教徒の女性が「ブルカ」(顔や身体を覆う衣装)を公共の場で着用することを禁じられる法律が成立するなど、シンボリックな変化はありました。

日本でも、文部科学省が今年6月、次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)の研究奨励費の対象から留学生をはずし、日本人学生のみを支援する方針を決定しました。

留学生がこの制度で支援を受ける学生の4割を占めることを問題視する議員による国会での質疑を経て制度の方針が突然変更されるという、異例ともいえる展開でした。

本来、国籍に関係なく研究が優秀であれば選ばれる制度で、国籍によって制限を設けることは差別です。

国家財政の赤字削減に寄与するほどの金額ではありませんから、排外主義的なシンボリックな意味合いのほうが強いと思われます。

すぐに生活に関わることが変わるのではなく、こうしたシンボリックな変化が起こってくるのかもしれません。

参政党の躍進は何を示すのか? 極右化「フランス」との共通点、上智大・稲葉教授「シンボリックな変化が起こる」