中小企業の経営者のなかには「うちのような会社は買い手がつかないだろう」と思い込んでいる人もいます。しかし実際には、事業に独自性や地域密着性があれば、十分に価値を持ち得ます。「後継者がいないなら廃業しかない」と考える前に、第三者への承継という選択肢を知っておくことが大切です。本記事では、銀行員として働いていた経験もある公認会計士税理士の岸田康雄氏が、中小企業の事業承継問題とその解決策としての「M&A」について解説します。

中小企業の事業承継問題とは?

日本全国の中小企業が直面している深刻な課題――それが「後継者不足」による事業承継問題です。経営者の高齢化が進む一方で、家業を継ぐ子どもがいない、あるいは継がないというケースが増え、やむなく廃業を選択する企業も少なくありません。

このような状況において、第三者への事業承継=M&A(企業の合併・買収)が注目されています。事業を継続し、雇用や地域経済を守る手段として、M&Aは有効な選択肢となりつつあります。

中小企業でも活用できるM&A

かつては「M&A=大企業のもの」というイメージが一般的でしたが、近年は中小企業の間でも活用が広がっています。

たとえば、後継者がいないが、地域にとって不可欠な存在である企業――そうした事業を他地域の同業者が引き継ぎ、地域インフラの維持と雇用の確保に成功した事例も少なくありません。

【事例紹介】地方のバス会社を救ったM&A

ある地方都市で、小規模ながら長年にわたり住民の「足」となっていたバス会社がありました。

2代目社長の高齢化と家族の事情から廃業も検討されましたが、他県のタクシー会社が事業を引き継ぐことになり、地域交通の空白が防がれたのです。

こうした事例は、M&Aが単なるビジネス上の手段ではなく、地域社会を守る仕組みとして機能していることを物語っています。

M&A仲介会社を選ぶ際のポイント

M&Aを成功させるには、信頼できる仲介会社の存在が欠かせません。仲介会社を選ぶ際は、以下の3点が重要です。

実績:どれだけの案件を手掛けてきたか

ネットワーク:地域や業界に対する深い理解と連携先の広さ

手数料の透明性:報酬体系が明確であるかどうか

特に近年は、M&A仲介業者の数が急増しており、なかには経験が浅かったり、報酬体系が不明瞭だったりする業者も見受けられます。

そのため、企業の設立年・担当者の経歴・報酬の内訳などを事前に確認することが、トラブルを防ぐうえでも非常に重要です。

専門性に特化した支援も増加

最近では、ヘルスケアや運送業など業種特化型の支援を行う専門サービスも登場しています。これにより、手数料を抑えながらも、業界特有の事情に即した質の高いサポートを受けることが可能です。

「自社にM&Aは無縁」ではない

中小企業の経営者のなかには「うちのような会社は買い手がつかないだろう」と思い込んでいる方もいます。

しかし実際には、事業に独自性や地域密着性があれば、十分に価値を持ち得るのです。

「後継者がいないなら廃業しかない」と考える前に、第三者への承継という選択肢を知っておくことが大切です。早めに情報を集め、準備を始めることで、より多くの選択肢が見えてきます。

「親族・従業員・第三者」――3つの承継手段を比較

事業承継には主に以下の3つの方法があります。

親族内承継:家族や親族に引き継ぐ

従業員承継:社内の信頼できる人材に引き継ぐ

第三者承継(M&A):外部の企業・個人に譲渡する

それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の状況や価値観に応じた最適な選択が必要です。

税務・法務・人材面などを含めて専門家に相談しながら、比較検討することが望ましいでしょう。

【相談のすすめ】事業承継は「いま」がチャンス

「まだ先のこと」「忙しくて考える余裕がない」――そう感じる方も多いかもしれません。

しかし、事業承継は早めの準備が最大の成功要因です。特に中小企業では、時間をかけて丁寧に引き継ぐことが必要とされます。

いますぐ行動を起こすことで、経営者自身はもちろん、家族・従業員・取引先、そして地域社会にとっても納得のいく未来をつくることができます。

岸田 康雄

公認会計士税理士行政書士宅地建物取引士中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

(画像はイメージです/PIXTA)