政治不信とメディア不信が渦巻く中でテレビ各局は参院選特番(7月20日)を放送した。

各局の選挙特番を徹底比較したテレビディレクターの鎮目博道氏は、取材姿勢や演出、参政党神谷宗幣代表とのやりとりなど、大きく4つのポイントに絞って各局を評価する。

結論として「地味だが実直」なテレ東に軍配が上げられた。その評価の裏にあるテレビ報道の未来像を考える。

●4つのポイントを比較していく

今回の参議院議員選挙選挙特番でまず感じたのは、各局の「安全運行」だった。

ここのところの政治不信とメディア不信の高まりの中で、選挙特番の「正解」に確信を持てず、若干おっかなびっくりになりながらも、それなりに手堅く作られた番組が並んだ。

では、これまでよりつまらなかったのか、とは一概に言えない。これまでの定番だった「タレントやゲストが政治家に噛みつくスタイル」でショーアップされた番組と比較して、見劣りする内容ではなかったのではないだろうか。

視聴率狙いの過剰演出が随所でまだ見られたものの、真摯なコンセプトや努力を感じた。これからの「選挙特番の未来」への可能性を感じられる番組が多かったと思う。

この記事では、選挙特番の評価ポイントを大きく4つに絞って各局を比較する。

(1)取材態勢と情報の密度の濃さ
(2)演出が的確で時代に合っているか
3)参政・神谷宗幣代表への質問のクオリティ
4)石破茂総理への質問のクオリティ

●取材態勢と情報の密度の濃さ

残念ながらどこもそれほど「素晴らしかった」という局はない。20時ちょうどに「情勢予測」を出すのが各局の定番となっているが、どの局もあまり正しくなかった。

「自公が過半数を割る」ということは各局正しかったものの、自公あわせての獲得議席数の予測は各局が「40~41議席」と予測して、実際の獲得議席数である47議席とは大きく異なるものだった。

この数字をもとに「与党の歴史的大敗」として選挙特番を進行していくのは、視聴者に誤解を与えるものだったと指摘されても仕方がないレベルの誤りと言えよう。

唯一NHKは間違っていなかったが、予測のレンジが「32~51議席」とあまりにも大きく、これを紹介する意味合いが薄かったし、若干腰が引けているようにも見えてしまった。

出口調査の難しさはあるだろうが、各局ともに選挙取材の精度の低さが課題ではないだろうか。

というのも、筆者は今回の選挙報道に臨む各局の姿勢に、それなりの期待を持っていた。複数の局の報道関係者から事前に「今回は覚悟を決めて、力を入れている」という話を聞いていた。

選挙戦の密着取材のクオリティは、各局ともに上がっていたと感じる。特にTBS系列では、老舗の地方局が多いこともあってか、きめ細やかな密着をおこなっている印象を受けた。

映像取材を頑張ったのだから、情勢調査も一層頑張ってほしい。

今回の選挙では、NHKと読売新聞、日本テレビが出口調査でタッグを組んだ。経費削減が主な理由だったようだが、今後は各メディアで協力し合うことも考えてよいのではないか。

●ファクトベースを選んだのは「NHKと民放3局」

続いて「演出が的確で時代に合っているか」は、各局ともまだまだ課題が残るものだった。

TBSは「ネット依存が高い若年層にも見てもらえる内容」を作ろうとして頑張っていた印象だ。選挙情勢の分析専門家をスタジオに呼んだり、候補者ごとに注目キーワードをわかりやすく提示したり、さまざまなデータを盛り込む工夫が効果的だった。

ただ、候補者の「一行情報」的なものは、「どんなおにぎりが好きか」とか「手のひらが柔らかい」などと、何の意味があるのかよくわからない内容が多かった。

日本テレビ、テレビ朝日テレビ東京は、出演者の構成で時代に合わせようとする姿勢が感じられた。

日テレテレ東はゲストの数を最小限に絞り、若年層に限った印象で、自局の記者・報道関係者のみでファクトベースの解説に努めた。

テレビ朝日に至っては、大越健介キャスターの手腕もあるのだろうが、ノーゲストという振り切りっぷりだった。

筆者の考えでは、これだけネット上にさまざまなオピニオンが溢れる現在の状況を踏まえると、強烈なオピニオンを持つゲストを呼んで構成する番組よりも、テレビにはファクトベースの報道が求められているのが現在の潮流だろうとみている。

そういう意味では、NHKと民放3局(日テレテレ朝テレ東)が今回はその路線を選んだようだ。

それと対照的に、フジテレビは橋下徹・金子恵美の2人の論客を呼び、TBSは爆笑問題太田光をスペシャルキャスターを立てる「オピニオンベース」とも見える路線を選んだ。とはいえ、いずれの局もそれなりに抑制を効かせた内容だった。

太田氏は残念ながら質問が長くて自分の意見表明になってしまい、先方の答えが短くなってしまうのだが、それでも随分自制されていたようだ。

TBSは前述したようにデータ分析も豊富だったし、フジテレビはテーマ曲としてMrs. GREEN APPLEの曲を使ったほか、わかりやすいVTRを多用して若者にも関心を持ってもらおうとしているようだったが、VTRの編集センスは各局ともまだ古臭いBGMや効果音とテロップで「昭和っぽさ」を感じさせた。

どこの局も若者に喜んで見てもらえるような番組ではなかった。それは残念な現実と言わざるを得ないだろう。

参政党神谷宗幣代表への質問で冷静だったアナウンサーは

躍進した「参政党」の神谷代表への質問は、各局ともそれなりに頑張っていた印象だ。

個人的にはテレビ東京が最も良かったのではないか。冷静かつポイントをしっかり押さえた鋭い質問を、礼節を守りながら適切に投げかけていた。

テレビ朝日大越健介キャスターはさすがに質問が上手で、「ポピュリズムではないか」と厳しく迫る姿勢には素晴らしいものがあったが、若干エキサイトしている感じが否めず、「感情的な追及だ」という反発も招きそうだ。

日本テレビの藤井貴彦アナも素晴らしかった。「核武装は安上がりという言葉を安易に使わないでほしい」という発言は賛否両論のようだが、唯一の被爆国で取材をしてきたメディアとして当然の思いだろう。私は日テレの報道局の気概のようなものを感じて感動した。

フジテレビの橋下徹氏の質問も鋭かった。そして、TBSの太田光さんの、報道特集と女性アナウンサーを庇う姿勢も素晴らしかったが、残念ながら全体的に見た時に「TBSは参政党にうまく乗せられてイメージアップに貢献した」という印象を持った視聴者も多いのではないだろうか。これは明らかに報道機関として得策ではないだろう。

●石破総理への質問「どれもおもしろくない」→そもそも石破総理のトークがつまらない

そして最後に「石破総理への質問」だが、これはどの局の中継もまったく面白くなかった。

これはむしろ「石破総理のトークが圧倒的につまらない」ということで、どうやっても面白くしようがなかった、と捉える方がよいのかもしれない。むしろそのあたりにも「自民大敗の一因」はあるのではないか。

4つのポイントを踏まえて総合的に検討すると「地味だが実直に伝えた日テレテレ朝テレ東」に軍配をあげたい。

個人的にはテレビ東京が最も良かった。池上彰さんが出演してくれなかったことをうまく捉えて若返りを果たし、基本に忠実に選挙報道をしたのだろう。放送時間は他局より短かったが、むしろそれでいいのではないか。

選挙特番はその宿命として、放送時間が無駄に長くなってしまう。長すぎる尺を過剰演出で埋めて視聴率を取ろうとするより、基本に忠実にファクトベースでコンパクトに伝えることの方が、今後の在り方として正しいのではなかろうかと強く感じた。

ファクトかショーか? 「政治とメディアW不信時代」の参院選特番でテレビ各局が示した“未来像”