
この記事をまとめると
■新型ムーヴ最大の特徴は歴代初のスライドドアを採用したこと
■筆者はターボとNAを乗り比べてから購入することを推奨している
価格と全高を抑えたムーヴに待望のスライドドアを採用!
飛び道具はないけど、スライドドアはある! スーパーハイト系モデルに乗って「ここまで天井が高くなくてもいいんだけどな」と思う方、そろそろ(クルマの)天井は下げて軽カーライフの質を上げようという方には7代目新型ムーヴの登場は朗報といえそうだ。走行性能にも磨きがかかるスライドドアを採用した手頃な価格のハイト系軽自動車の登場を、「これを待ってました!」という方も多いのではないか。
この数年、さまざまな車両の新規投入が途絶えてしまっていたダイハツが7代目となる新型ムーヴの販売をスタートした。
全長3395mm×全幅1475mmというコンパクトな軽自動車である新型ムーヴはやはり街なかを走っていて楽ちん。「ちょっとそこまで」という移動の手軽さは一度味わってしまうと離れられないのではないか。リピーターも多いムーヴはこの新型の開発に際し多くのユーザーの声を集め、軽自動車の“ド真ん中”をいく傑作を完成させたといえそうだ。
まずはスライドドアの採用だ。いまの軽自動車の主流は子育て世代を中心に人気のあるスライドドア付きスーパーハイトモデルだ。すると価格は200万円代をくだらない。スライドドアは広いドア開口部、狭い場所でのドア開閉のストレスの軽減など、荷物の出し入れや乗り降りのしやすさが魅力。さらに小さな子どもが立ったまま着替えができるなどの理由から、スーパーハイト系モデルが子育て世代の支持を集めている。その一方で、「ここまで天井高がなくても……」という方も多く存在していたそうだが、スライドドアは選べない……(残念)。
ダイハツでは軽自動車ユーザーのニーズと価格のひとつの目安を150万円あたりと考えている。そこで前述のような運転がラクな軽自動車で性能と装備、そこそこの機能も付いて価格も手頃と思える“価格”が150万円あたりらしい。新型ムーヴはダイハツがメイングレードとする“X”グレードをギリ150万円を切る価格とし、ハイト系軽自動車としては初となる(のではないかしら)スライドドアを全車の左右ドアに標準採用したのだ。
新技術の採用はないけれど、その分、既存技術や設計思想を取り入れることで走りも洗練され、最新のスマートアシスト“スマアシ”を搭載するなど装備にも妥協はない。
箱感を感じさせないデザイン!
グレード展開は新たに4グレード展開とし“カスタム”が廃止された。NAエンジン搭載モデルにはメイングレードの“X”と、より装備を充実させた“G”、法人需要などを考慮した装備もシンプルな“L”がある。ターボエンジン搭載車は“RS”の1グレード。駆動方式は全グレードで2WD/4WDが選べる。
カスタムの廃止についても新型ムーヴの新しい価値の提案といえそうだ。初代ムーヴが登場した30年前はミラとムーヴの2車種のラインアップだったけれど、いまでは5車種に増え、さまざまなニーズに各モデルが応えられるようになったとダイハツの開発陣はいう。また、新型ムーヴのターゲット層を30年前に子育て世代だった大人たちと明確にし、開発が進められたそうだ。でもちょっと物足りないという方にはディーラー/メーカーオプションを組み合わせて選べる「アナザースタイル」(デザインパッケージ)がある。ちょっとイカツイ系の“ダンディスポーツ”ときれい目オシャレ系の“ノーブルシック”が用意されている。
「スライドドアを採用するとどうしてもハコ型の印象が強まってしまう」というデザインのポイントは止まっていても“ムーヴ感”を表現することだったそうだ。Aピラーを傾斜させ、ヘッドライトから後端に続く伸びやかなショルダー下のライン、さらにリヤエンドのガラスの垂直尾翼のようなアクセントも効果的だと思った。
Aピラーを寝かせると左右の視界は広がるけれどピラーの位置が右左折時の死角を生む可能性があるため、Aピラーには有るとなしとでは大違いな細いガラスも採用されている。カメラに頼らずとも十分な視界確保されたリヤガラスもしかり、リアルな視界の確保もぬかりはない。
インテリアは機能性を重視。ディスプレイオーディオのタイプにかかわらず、日常に必要な物理的なスイッチをわかりやすく配置し、グレードによってほかの装備は個々に選べるというのもより手ごろかつ堅実にクルマ選びをしたい方にはありがたいのではないか。小さなスペースに多くの収納、便利なシートアレンジを詰め込む手法も魅力。軽自動車のお得感はこのスペースのなかにもある。
運転席は視界も良好、設計上もサポート性に優れるシートは光沢感のある糸を“横編み”した生地を採用し、この“横編みが座ったときの体重を包む込むように伸びることで座り心地とサポート性に優れている。
新型ムーヴはスライドドアの採用と走りの洗練がキーになっていると個人的には思う。 走行性能はムーヴのリピーターも常用コンパクトカーからのダウンサイザーも納得のできる仕上がりといえそうだ。
プラットフォームはタントやタフトに採用されるDNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を使い、動力や運動性能を進化させいる。
感動を覚えるレベルのNAモデルの進化っぷり
NAモデルは街なかを中心とする日常使いをするのにスムースで快適。14インチタイヤを履くNAは会場からの走り出しから思いどおりの動力が得られ、同乗していた編集者と「いいね」と声が漏れてしまった。都内の大通りで周囲の速度に合わせて走るのも自然で意のままであり、その上、乗り心地と静粛性も向上している。
快適さはそのまま首都高速に乗ってみても変わらない。ETCゲートを抜けた先の登坂路も、ふたり乗りのムーヴはトルクの物足りなさもなく本線に合流するあたりが日常の扱いやすさに力を注いだダイハツの意図が理解できるようだった。
乗り心地もよく荒目の舗装路面やつなぎ目段差も丸くソフトに通過する。エンジンの加速音も遠く、ペダルや車体から伝わる振動もかなり軽減されている。おかげで全体的にマイルドな印象で、それは走行性能全体の質の高さからくるもので誰もが運転しやすく快適に過ごせる質感に仕上がっている。より背も高く走行安定性を保つ走りと街乗りを意識してセッティングされたタントに対し、車体の収束性に優れる新型ムーヴの足もとはやや引き締められているのに、だ。
ターボモデルは15インチタイヤを履くRSグレードのみとなり、足まわりは専用チューニングが行われている。ダイハツが目指したのは「15インチタイヤを履いていることを感じさせない乗り心地」だという。高速道路の移動の多い方、多人数乗車する機会が多い方にはターボがおすすめだ。
NAモデルと同じコースを走ったが大通りに出たあたりでやはりターボはタイヤの転がり方=軽快さが勝る。NAが堅実な走りをする一方で、ターボはスイスイ感が違う。だからといって、たとえば街なかや高速走行時の再加速でターボが介入する際に感じる嫌な過給の盛り上がりも気にならない、マナーのよさまで制御されている。
足もとは若干引き締められている印象はあるが、快適さを損ねてはおらず、より力強い走りと直進/ランプウェイなどでのコーナーの安定感が高められている。開発者が説明するように15インチを感じさせない走りに仕上がっていた。
ここで軽量な軽自動車の乗車人数による印象の違いについて補足をしておきたい。じつは今回、動画の撮影もしているのだが、ターボモデル“RS”の撮影時は3人乗車だった。そこで得られた印象は路面や段差に対する当たりも大きめ。初めに乗ったNAの仕上がりのよさからターボへの期待が高まるなか、その印象は少々辛口なものになってしまったのだ。しかし、どうにも腑に落ちなかった。
改めてふたり乗車でターボ車を試乗した印象が前述の内容になる。ダイハツはふたり乗りで走行性能のセッティングを行っていることがわかった。
「車重が840〜850kgと軽量な軽自動車ではたとえば体重が60kgの乗員がひとり増えると約8%の重量増になります。普通乗用車が1200〜1300kgとすると4〜5%。ふたり乗りでセッティングを行っている軽自動車では1~2人乗りと3人乗りでは挙動に対する影響も乗用車に比べ大きくなります。ブレーキの制動も変わります」と開発責任者の方が教えてくれた。
より多人数乗車時の快適さを求めるなら常用ミニバンを選ぶほうがよさそうだ。とはいえ、絶対に常用ミニバンを選ぶべきというほど悪いわけではない。比べてみたらわかる違いを正直にお伝えしておこうと思ったのだ。購入前にはぜひNA/ターボを乗り比べ、ご自身のカーライフにどちらが合っているかを検討することから新型ムーヴ選びを楽しんでみてほしい。

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