賃貸経営において、ときに家賃滞納が発生してしまうときがあります。そもそもなぜ、家賃滞納は起きてしまうのでしょうか。不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士が、家賃滞納の理由と防止法、さらに万が一家賃滞納が発生してしまった時の対処法を解説します。

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家賃滞納が発生する主な原因

家賃滞納は、賃貸不動産のオーナーにとって非常に頭の痛い問題の一つです。

では、そもそもなぜ家賃滞納が発生してしまうのでしょうか? 家賃滞納の原因となるパターンのうち、代表的なものを見ていきましょう。

うっかりミス

うっかりミスは、家賃滞納の主な原因の一つです。振込手続きをうっかり忘れて期日を過ぎてしまったり、口座振替の日にうっかり引き落とし用口座の残高が不足していたりするケースなどがこれに該当します。

うっかりミスは、家賃の支払いを口座振替やクレジットカードでの自動引き落としとすること、引き落とし日を事前に掲示板などリマインドすることなどで、ある程度防ぐことが可能です。

ただし、賃貸不動産オーナー側が支払期日に家賃が振り込まれていないことに気づかず長期間放置してしまった場合には、「少しくらいなら遅れてもよい」との誤った認識を入居者に持たせ、モラルの低下へとつながる恐れがあります。支払期日までに入金が確認できない場合には、速やかに対応するようにしましょう。

急な入院など不測の事態

ケガや病気などによる急な入院により、家賃が支払われない場合があります。病状などによっては、入居者本人と連絡が取れない場合もあるでしょう。このような場合に備え、万が一の際に連絡が取れる親族などの連絡先をあらかじめ確認しておくと安心です。

親族が保証人となっていない場合であっても、家賃を立て替えて支払ってもらえる可能性がある他、長期の入院などであれば賃貸借契約の解除などの相談が可能となるためです。また、家賃の支払いを口座振替やクレジットカードでの自動引き落としなどとしておくことで、入院中であっても家賃の支払いが滞ることをある程度防止することができます。

お金がなくて支払えない

家賃滞納の3つめのパターンとして、お金がなくて支払えないケースがあります。入居時には財務状況に問題がなかったとしても、入居後に退職をしたり仕事が減少したりして支払いが難しくなったような場合がこれに該当します。

特に、昨今の新型コロナ禍では、収入状況が大きく変わってしまい家賃の支払いが難しくなってしまった人も少なくありません。この場合は、滞納が長期化するおそれがありますので、家賃の低い他の物件への引越しを促すなど、早期の対応が必要です。場合によっては、生活保護など公的な支援制度を紹介するなどの対応が必要となることもあるでしょう。

支払う気がない

家賃滞納のうち、もっとも厄介ともいえるのが、そもそも支払う気がないというケースです。家賃の支払いが遅れても追い出されることまではないと安易に考えていたり、家賃滞納に対して開き直っていたりと、そのパターンはさまざまです。この場合は改善の見込みが薄いため、滞納の長期化や他の入居者への悪影響を防止するためにも早期に法的手続きを検討しましょう。

家賃滞納を防止するための方法

家賃滞納は、事前に対策をすることである程度防止することが可能です。賃貸不動産オーナーが取り得る家賃滞納の防止策には、次のものがあります。

入居時の審査を厳しくする

過去の滞納歴を確認したり収入証明を厳格化したりするなど、入居時の審査を厳しくすることが家賃滞納の防止策の一つです。

入居を希望してくれたにも関わらず、審査の厳しさから入居ができない人が生じる可能性はありますが、ある程度厳しいふるいにかけることで、入居後に家賃滞納などのトラブルが発生する可能性を低くすることができます。

ただし、築年数が古かったり交通の便が良くなかったりとあまり優位性のない物件で審査を厳しくし過ぎてしてしまえば、入居者が集まらず収益性が低下してしまうおそれがありますので、入居者確保とのバランスを見ながらの検討が必要です。

滞納時には厳しい対応を取ることを契約時に説明する

入居の際に、万が一滞納した際には厳しく対応することを説明しておくことも、滞納を防止する方法の一つです。特に、入居者が若い場合などには、安易な考えから滞納をしてしまう可能性があります。

滞納したら厳しい法的対応を取る旨をあらかじめ伝えておくことにより、家賃滞納の抑止力となる効果を期待できるでしょう。

保証会社を利用する

万が一の家賃滞納に備えて、保証会社を利用することも検討しましょう。親族に保証人になってもらうことも一つですが、家賃滞納に対するモラルの低い入居者の親族は同様に滞納を重く捉えていない可能性もあり、親族からの支払いが期待できない可能性もあるためです。

その都度の振り込みではなく口座振替やクレジット自動引き落としとする

家賃を毎月の振り込みとすれば、うっかりミスによる期日超過が起きやすくなります。 その都度期日超過の連絡をすることにも、手間が掛かるでしょう。手続きを忘れてしまったことによる期日超過を防止するため、家賃の支払いを口座振替やクレジットカードによる自動引き落としにしておくと安心です。

引き落とし日の前に掲示物などで注意喚起をする

家賃の支払いを口座振替としても、引き落とし日に口座残高が不足していては支払いを受けることができません。

これは、給与などの入金口座と家賃の引き落とし口座が別にしている入居者が、引き落とし口座にお金を移すことを忘れてしまった場合などに発生する問題です。残高不足を避けるため、引き落とし日の前に、掲示物などで引き落とし日を注意喚起するとよいでしょう。

少しでも遅延が生じたらすぐに対応する

たとえ数日であっても家賃の支払い遅延が発生した場合には、すぐに対応しましょう。 最初はうっかりミスによる期日超過であったとしても、賃貸物件オーナーから長期にわたって何の連絡もなければ、入居者のモラルが低下してしまう可能性があるためです。

また、家賃の滞納が長期化して滞納額がかさんでしまえば、法的手段を取ったとしても全額の取り立てが難しくなるリスクもあります。

家賃滞納の長期化を防止する初期の対応方法

家賃滞納の長期化を防止するために、賃貸物件オーナーはまず次の対応を取りましょう。

入金状況をこまめにチェックする

家賃滞納への対応は、初動が非常に重要です。 そのため、支払い遅延が生じたらすぐに気づけるように、家賃の入金状況をこまめにチェックするようにしましょう。

遅延が生じたらすぐに口頭や文書で連絡をする

家賃の支払い遅延が生じたら、できるだけ速やかに口頭や文書で入居者へ連絡をします。 遅延理由がうっかりミスであった場合などには、すぐに支払ってくれるでしょう。この段階ですみやかに対応をすることで、入居者にとって緊張感が生じ、以後の支払い遅延や滞納を防ぐことへとつながります。

家賃滞納が改善されない場合の対応方法

口頭や文書で複数回連絡をしても家賃滞納が改善されない場合には、次の方法を検討しましょう。おおむね3ヶ月間の滞納が法的手段を取る目安となりますが、弁護士への相談などはこれに先行しても構いません。

弁護士へ相談する

賃貸物件オーナーなどからの口頭や文書での連絡によっても滞納が解消されない場合には、弁護士に相談してください。早期に弁護士に相談することで、この先の対応の選択肢が広がります。

内容証明郵便を送付する

内容証明郵便とは、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを日本郵便株式会社が証明する制度です。

送った文書の記録が残るため、法的手段を取る際の証拠として活用できます。また、入居者の多くは内容証明郵便を受け取り慣れていませんので、内容証明郵便が届いた時点で心理的に負担を感じ、滞納分の家賃を支払ってくれる効果も期待できるでしょう。

内容証明郵便には、主に次の事項を記載します。

・賃貸借契約の特定:どの賃貸借契約についてのことであるのかを明記します。当事者の氏名の他、対象となっている物件や契約日などを記載しましょう。 ・滞納している家賃の特定:何年何月分の家賃であるのかを明記します。滞納額の総額も記載しましょう。 ・滞納分の家賃を指定の期日までに支払うべき旨:おおむね1週間程度先の日にちを期日とすることが一般的です。 ・賃貸借契約を解除する旨:期日までに滞納分の家賃が支払われない場合には、賃貸借契約を解除する旨を記載します。

なお、内容証明郵便は賃貸不動産オーナー名義で差し出してもよいですが、弁護士名義で差し出すことによって、より法的手段への本気度を感じさせることができます。

また、内容証明郵便は内容の証拠が残るため、万が一賃貸物件オーナーにとって不利なことを書いてしまえば、入居者側からその穴をつつかれかねません。こういった理由から、内容証明を送付する前に弁護士へ相談した方がよいでしょう。

法的手段を取る

内容証明郵便を送付してもなお滞納が解消されない場合には、法的手段を講じます。法的手段の選択肢については、次で詳しく解説します。

家賃滞納への法的手段には次の3つの方法がある

家賃滞納への法的手段としては、主に次の3つが存在します。それぞれ一長一短がありますので、不動産法務に詳しい弁護士へ相談をして最適な手段を検討しましょう。

少額訴訟

少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限って利用することができる特別な訴訟手続きです。

1回の期日のみで審理を終えて判決をすることを原則としています。一般的にイメージする法廷などではなく、裁判官とともにラウンドテーブルに着席する形式で審理が進められます。判決書や和解調書にもとづいて、強制執行を申し立てることが可能です。

支払督促

支払督促とは、金銭の支払など限られた効果を求める場合に限って利用することができる簡易的な手続きです。書類審査のみであるため、訴訟の場合のように審理のために裁判所へ出向く必要はありません。

入居者側が支払督促を受け取って2週間以内に異議を出さず、請求に理由があると認められれば、裁判所から滞納をしている入居者に対して仮執行宣言の付いた支払督促が発せられます。賃貸物件オーナーは、この仮執行宣言付き支払督促にもとづいて強制執行の申立てをすることが可能です。

明け渡し訴訟

明け渡し訴訟とは、賃貸借契約の終了などを理由として、入居者に建物から立ち退いてもらうための訴訟のことです。家賃滞納によって賃貸借契約を解除したにも関わらず、入居者が部屋から出て行かないからといって、賃貸物件オーナー自らが勝手に鍵を変えたり入居者の家具を運び出したりすることはできません。

日本の法令では、自力救済は禁じられているためです。勝手に荷物を運び出すなどの行為をしてしまえば、むしろ賃貸物件オーナー側が損害賠償請求などにより法的責任を追求されてしまいかねません。

そのため、自ら立ち退かない入居者に出て行ってもらうためには、明け渡し訴訟を行うことが必要です。ただし、訴訟で明け渡しが命じられたからといって、すぐに強制執行ができるわけではありません。

訴訟で明け渡しが命じられてもなお入居者が居座る場合や、荷物を置いたまま行方不明になってしまった場合などには、裁判所に対して改めて明け渡しの強制執行を申し立てることが必要です。

これが認められれば、ようやく強制執行をしてもらうことが可能となります。明け渡しの強制執行までには時間がかかるため、できるだけ任意で立ち退いてもらうよう交渉しましょう。

◆まとめ

家賃滞納は、賃貸物件オーナーにとって非常に悩ましい問題です。 できる限りの予防策を講じ、家賃滞納が起きないように対策をしておきましょう。また、家賃滞納が生じてしまった際には、できるだけ早期に対応をすることが重要です。

森田 雅也

Authense法律事務所 弁護士  

(写真はイメージです/PIXTA)