
参院選を理由とした政治不安や財政赤字拡大懸念から、一時149円台にまで上昇した先週の米ドル/円。蓋を開けてみれば連立与党の過半数割れとなりましたが、この「政治不安」に起因した「円売り」は今後も続くのでしょうか。今週のドル円相場の動きについて、マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏が予想します。
7月22日~7月28日の「FX投資戦略」ポイント
<ポイント>
・先週の米ドル/円は一時149円台まで上昇した。20日の参院選を受けた日本の政治への不安や財政赤字拡大の懸念が円売りの理由とされる。
・ただこのような日本の政治要因を理由とした円売りにも違和感あり。参院選は連立与党の過半数割れとなったが、日本の政治不安の円売りが続くかは微妙ではないか。
先週の米ドル/円…日本の政治要因を材料に円安149円まで拡大
先週の米ドル/円は一段と上昇し、一時149円台を記録しました(図表1参照)。トランプ前大統領がパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の解任を検討しているとの報道があり、FRBの独立性を巡る懸念から米ドルが売られる場面もありました。
しかし、米ドル/円の安値は146円台にとどまり、全体的には米ドル高・円安基調が継続しました。
ただし、こうした米ドル/円の上昇は、日米の金利差(米ドル優位・円劣位)からは大きくかい離したものとなっています。
米ドル/円は7月3日に発表された米6月雇用統計が予想外に強い結果だったことをきっかけに一段の上昇が始まりましたが、その間も日米の金利差は一進一退が続きました(図表2参照)。

先週にかけての米ドル/円の上昇は、金利差ではなく日本の金利上昇と連動したようにもみえます(図表3参照)。
そう考えると、この米ドル高・円安の動きは、参院選で消費税減税などを主張した野党の勢力拡大が、財政赤字の拡大懸念を呼び、債券価格の下落につながった結果円安になるという「悪い金利上昇」だったということになるのでしょうか。

「円売り」を引き起こした“もう1つの要因”
もしも財政赤字拡大を懸念した日本からの資金流出ということであれば、円安だけではなく株安にもなりそうです。しかし、最近にかけての日本株は上値の重い展開が続いたものの、必ずしも大きく下落したわけではありませんでした(図表4参照)。
したがって、先週にかけての米ドル高・円安は、政治不安に起因する円売りではないように思います。

ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、買い越しが一時17万枚以上と空前の規模に拡大しましたが、6月以降は縮小傾向が続き、先週は10万枚まで縮小しました(図表5参照)。

したがって、先週149円台まで米ドル高・円安となった背景は、このような“買われ過ぎ”修正にともなう円売り、米ドルの買い戻しが米ドル/円を下支えするなかで、日本の参院選の結果を受けた政局不安などを手がかりに米ドル買い・円売りを試す動きが続いたというのが、基本的な見方でしょう。
米ドル/円は、4月のいわゆる「関税ショック」以降、142~146円をコアレンジとした展開が2ヵ月以上と長く続きました。しかし、先々週それを“上放れ”ました(図表6参照)。
この結果、テクニカルに米ドル上値、円下値を試しやすい状況となっており、そういったなかで日本の政治要因が材料視されたということではないでしょうか。

投機筋の「円売り」継続見込み…「為替介入」の可能性はあるか
ところで、先述したように、CFTC統計の投機筋の円買い越しは、過去最高の17万枚から先週は10万枚まで縮小したものの、円が低金利であることから本来は買いには不利であるといえます。
さらに、2024年までの買い越し最高値である2016年の7万枚をいまだ大きく上回っていることなどを考えると、円はまだ“買われ過ぎ”であると考えられます(図表7参照)。
したがって、その修正にともなう円売りが続く可能性が高いことから、米ドル/円は下値が限られ、上値を試す状況が今週も続きそうです。

その一方で、最近の円売りの口実となっている日本の政局不安や財政赤字拡大の懸念は、日本株が大きく下がっているわけでもない状況下、違和感をおぼえます。
最近、政府高官が「投機を含めて、為替市場の動きを憂慮している」と発言しているように、債券や株式相場に比べて、日本の政治要因を受けた為替市場の反応は過剰な面があるのではないでしょうか。
「為替介入」の可能性はあるか?
では、このまま過剰反応の円安が続いた場合、円安阻止のために「為替介入」が行われる可能性はあるのでしょうか。
日本の通貨当局が円安阻止のために2022、2024年に行った為替介入には、下記のような共通点があります。
1.米ドル/円が前回の高値を更新する
2.5年MA(移動平均線)を2割以上上回る
3.120日MAを5%以上上回る
など
これを参考にすると、5年MAかい離率などで見る限り、米ドル/円が150円を上回った程度では米ドル売り介入を行う条件には達しないでしょう。しかし、ユーロ/円が175円を上回り、2024年7月に記録した前回の高値を更新すると、ユーロ売り・円買い介入の条件を満たすことになります(図表8、9参照)。


日本の為替介入は、これまでは米ドル/円が大前提であり、ユーロ/円などの介入はあくまでその補助的な位置づけでした。
しかし、トランプ政権は前バイデン政権と異なり、非関税障壁である“行き過ぎた円安”を容認しない姿勢であるとみられていることから、円安再燃への当局の対応も注目したいところです。
以上を踏まえ、今週の米ドル/円は「146~151円」と予想します。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
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