
2025年7月16日、ニューヨーク州ロングアイランドに住む男性が、妻の付き添いで入ったMRI室で装置に吸い込まれるという事故が起きた。
報道によると、この男性はウエイトトレーニングで使うチェーンを首の周りに巻いたまま、MRIのある部屋に入り、作動中の装置に近づいたという。のちに男性は死亡した。
現在警察が捜査中だが、MRIが作動中にもかかわらず、男性を装置に近づけた検査技師の責任が問われる事態になりそうだ。
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妻の付き添いでMRI室に入ったの男性
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事故が起きたのは、ロングアイランドのウェストベリーにある「ナッソー・オープンMRI(Nassau Open MRI)[https://nassauopenmri.com/]」という、MRI検査を専門に行うクリニックである。
死亡したのはキース・マカリスターさん(61)。この日彼は、妻のエイドリアン・ジョーンズ・マカリスターさんの膝の検査のために、同クリニックを訪れていた。
検査が終わった時、エイドリアンさんは検査技師に、夫を呼んでくれるように頼んだ。彼女はいつも、夫に寝台から起き上がるのを助けてもらっていたのだ。
私は「キース、ちょっとこっちに来て、手を貸して」と夫を呼びました。すると検査技師が夫を招き入れ、冗談を言い合いながら寝台に近づいてきました
夫は検査技師と談笑しながら、エイドリアンさんが横たわっている寝台に近づいてきたという。

作動中のMRI装置に吸い込まれて死亡
だが次の瞬間、キースさんは強い力で引っ張られ、MRI装置の中に吸い込まれて、機械に激突してしまったのだ。
エイドリアンさんは、当時の状況を次のように語っている。
私は機械が彼を掴み、勢いよく中に引きずり込んだのを見ました。彼は私の腕の中で力尽きてしまいました
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彼女と検査技師は、必死になってキースさんを機械から引きはがそうとしたが無理だった。操作技師に機械を止めるよう叫び、何とかしてくれるよう懇願した。
だが懸命の努力もむなしく、キースさんはエイドリアンさんの腕の中で動かなくなったという。
眠れないの。ほとんど食べることもできなくて。まだ信じられない。あの出来事をどう受け止めればいいのか、頭の中が混乱しっぱなしなの。
彼は私に手を振って別れを告げた。そして彼の身体から、力がスーッと抜けていったのよ
当初、報道ではキースさんが無許可でMRI室に侵入したと伝えられたが、エイドリアンさんによるとこれは誤りで、彼女に頼まれた検査技師が招き入れたというのが真相とのこと。
キースさんはエイドリアンさんの願いもむなしく複数の心臓発作を起こし、翌日の午後に息を引き取った。
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首の周りに9kgものチェーンを巻き付けたまま入室
実はこの日、筋トレが趣味のキースさんは、首の周りになんと重さ約9kgものウエイトトレーニングのチェーンを巻き付けていたという。
そして検査技師は当然、キースさんがMRI室では厳禁の金属製品を身に着けている状況を目にしていた。
にもかかわらず、彼はキースさんを止めるどころか、一緒に笑い合いながらMRIに向かって歩いてきたというのだ。
エイドリアンさんによると、キースさんがチェーンを身に着けたままこのクリニックに来たのは初めてではないそうだ。
検査技師は以前にもこのチェーンを目にしていただけでなく、「大きなチェーンですね」などと、キースさんと会話さえしていたという。
チェーンの写真などは公開されていないが、おそらくはこんな感じのチェーンだったのではないだろうか。
超強力な磁石を使うMRI室に金属は厳禁
ご存じの通り、MRIとは「磁気共鳴画像法」とも言い、強力な磁石と電磁波で磁場を発生させ、身体の断面を画像にする装置である。
空気や骨などに邪魔されないため、X線を使うCTよりもさらに詳細で鮮明な画像が得られるのが特徴だ。
横に輪切りにした画像だけでなく、縦や斜めなど、自由な角度で体内を「切り取る」ことができるほか、造影剤なしでも血管の立体的な画像が撮れる。
検査の際は狭いトンネルのようなところに入り、カンカンカンというやかましい騒音に耐えなければならない。
また、超強力な磁石を使った検査なため、磁石と引き合う金属製品を身に着けていると、機械に引き寄せられて貼りついてしまう。
これまでにもSWATがライフルを持ち込んだり、弁護士が銃を持ち込んで爆発させたりと、無知による事故は繰り返し起きているが、今回はとうとう命にかかわる事態となってしまったわけだ。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の放射線・生体医用画像学部では、MRI装置の潜在的な危険性に関する報告書の中で、次のように指摘している。
MRIシステムの静磁場は非常に強力です。たとえば1.5T(テスラ)の磁石は、地球の自然な磁場のおよそ2万1千倍の磁場を発生させます。
それにより、磁性金属製の物体が、「空中を飛び回る飛翔体」になる可能性もあるのです。
ペーパークリップやヘアピンのような小さな物体でさえ、MRIの磁石に引き寄せられると、時速約64kmに達することがあり得ます
MRIの磁石がもたらす危険は、飛散する金属製の物体だけではない。クレジットカードの情報を消去したり、スマートフォンを破壊したり、ペースメーカーを停止させたりする恐れもあるのだ。

現在警察が捜査中
自分も何度かMRI検査を受けたことがあるが、金属を身に着けていたり身体に入れたりしていないか、事前に必ず確認されるはず。
アクセサリーやペースメーカーはもちろん、人工内耳・中耳などの治療器具を埋め込んでいる場合は検査ができない。さらに入れ墨やアートメイクもNGだ。
今回、技師はキースさんがチェーンを首に巻いているのを見ていたにもかかわらず、なぜ一緒にMRI装置のほうへ歩いてきたのだろうか。
現在、この件については警察が捜査を開始しているが、詳細についての発表はまだ行われていないようだ。
検査技師がチェーンに気づいていたにもかかわらず、キースさんをMRI装置に近づけたなら、技師本人やクリニックの責任も問われる可能性があるとのこと。
事故の舞台となったナッソー・オープンMRIは、いまだに沈黙を守っているそうだ。同クリニックのホームページには、次のように書かれている。
私どもは紹介医や患者様から、親切なサービスと臨床精度において高い評価を得ています。当社の高品質な最先端技術は、患者様と医師の皆様に、さらなる快適さとサービスをご提供します

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