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夢にまで見たタイプR 欧州では生産終了へ

筆者(英国人)は、とても幸運な子供だった。家族は5軒の住宅が建ち並ぶ、袋小路の端っこに住んでいた。

寝室の窓からはそれぞれの家と、5台のクルマが見えた。10歳で運転免許証を持っているという空想の世界で、5台の中から好きなクルマを選ぶことができた。

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ホンダシビック・タイプR(FN2)

お気に入りは、いつも隣人が乗って帰ってくるクルマだった(自分のパパには申し訳ないけど)。隣人はホンダディーラーで働いていて、初めて彼のFN1型シビックを見たときのことを今でも鮮明に覚えている。

未来的な、宇宙船を彷彿とさせるシルエットの「すごい!」という感動を、地味なグレーの塗装が台無しにしていたが、フォード、ヴォグゾール、フォルクスワーゲンのライバル車と比較すると、その魅力は絶大だった。

筆者はすっかり夢中になり、執着心が芽生えた。ポスターを貼り、同乗を頼み、YouTubeという当時流行り始めていたウェブサイトでホンダの動画を延々と観ることに時間を費やした。そこで、もっと刺激的なタイプRバージョンの存在を知った。

20代半ばになり、ついにその欲求を満たすだけの資金力を手に入れた。リースが終了するボルボV40ディーゼルを手放し、シビック・タイプRを購入することに決めた。具体的に言えば、FN2だ。そう、UFOが欲しかったのだ。

そして、これまで数えきれないほど雑誌で読んだり、観たり、夢見たりしてきたが、第一印象はその期待を裏切らなかった。大きく魅力的なスターターボタン、分割されたダッシュボード、そして素晴らしく快適な赤いバケットシート。乗る人を特別な気分にさせ、夢中にさせるために作られたクルマだった。

とにかく運転したい、それも思いっきりハードに運転したいと思った。しかし、残念ながら、ポスターでは見ることのできない欠点も明らかになった。サスペンションが硬すぎ、トランスミッションは少しギクシャクして、金属製のシフトレバーの上部は季節によって冷たすぎるか熱すぎるかのどちらかだった。

しかし、筆者にとって致命的な欠点は、2.0L 4気筒エンジンの低回転域のトルク不足だった。それが、3年後に売却し、今も所有しているBMW Z4に買い替えた主な理由だ。

それでも、ホットなシビックへの愛は決して薄れることはなかった。ロックダウン期間中、クリスハリス氏がFK8に乗り、日本のエビスサーキットでレクサスLC 500に果敢に挑む動画を観た。筆者にとって、まさに最高のタイプRだった。派手なリアウィング、張り出したノーズ、大きなレッドキャリパー、320psのパワー。どうしても欲しかったが、その価格は手の届かないものだった。

モデルチェンジで、比較的おとなしいFL5に置き換えられたときは、本当に残念だった。もはや、ティーンエイジャーの部屋の壁に貼るためのホットハッチではなく、本格的なドライバー向けのスポーツカーになっていた。

筆者は購入意欲をそそられなかった。しかし、実際に運転してると、印象は一変した。FN2に求めていたものがすべて備わっていた。速く、力強く、魅力的で、楽しい。確かに、先代モデルのような派手さはないが、写真で見るよりも実物ははるかにアグレッシブだった。リアウィングは隣に立つと滑稽なほど巨大だ。

ホンダは電動化計画を進める中、英国でのタイプRの販売を中止し、28年間の生産を記念した限定モデル『アルティメット』でその歴史に幕を閉じる。

ジウジアーロ風のウェッジシェイプを採用した0シリーズ・サルーンのホットバージョンが、ラインナップに登場する余地があることを願っている。

これまでのモデルより静かになるのは確実だ。もちろん、大きく、重くなるだろう。しかし、赤い『R』バッジを付けるモデルは必ずその名に恥じない性能を備えなければならない。そのことをホンダもよく知っている。だから、素晴らしいものになることは間違いない。


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