
日本弁護士連合会(日弁連)は7月24日、法務省「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の取りまとめを受け、取調べの録音・録画制度(可視化)を全事件・全過程へ拡大することなどを求める会長声明(渕上玲子会長)を発表した。
声明は、法改正のスピードがあまりにも遅いと指摘し、刑事司法に対する国民の信頼回復のため「速やかに法改正を実現することが必要」と訴えている。
●14年にわたる改革への道のりとなお残る課題「度重なるえん罪事件への反省を踏まえて重ねられた議論」に基づく取調べの録音・録画制度は、2016年の改正刑事訴訟法で導入された。
郵便不正・厚生労働省元局長事件や証拠改ざん事件を契機に、「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直し」を掲げて2011年に設置された法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の取りまとめを受けて成立したものだ。
しかし、全事件・全過程への録音・録画の義務付けには、捜査機関が「捜査上の支障その他の弊害が生じる場合がある」と反対した経緯がある。
これに対し複数の一般有識者委員が一致して、将来的な全事件の可視化に向けた道筋を明確にし、一定期間後に運用状況を検証し見直す手続きを盛り込むよう求めた結果、施行後の制度見直し規定が盛り込まれ、特別部会の取りまとめは全会一致で承認された。
●懸念された「弊害」は生じず、一方でえん罪は続発日弁連は、「少なくとも録音・録画義務の除外事由が設けられている現行法の下では、録音・録画の有用性を上回る弊害は生じないことが実証された」と指摘。その一方で、改正刑訴法施行後も、プレサンス事件や大川原化工機事件などのえん罪事件が次々と発生していることに言及した。
声明では、「陵虐行為や強制捜査の示唆により他人を罪に陥れる虚偽供述を強要する取調べ」や「黙秘権を行使する被疑者の人格権を侵害する取調べ」が次々と発覚していると指摘。録音・録画下ですら違法な取調べが行われ、無罪を主張する被告人を長期間勾留する「人質司法」も改められていないと批判している。
●全事件・全過程への拡大と刑事司法制度の抜本的改革を日弁連の声明は、協議会の取りまとめが「改正刑訴法の趣旨が十分に達成されている状況にあるとは言えない」と認識した上で、「政府において、取調べの録音・録画の対象範囲の拡大を含む制度改正や運用の見直し、その他刑事手続における新たな制度の導入について、新たな検討の場を設けて、具体的に検討を行うなど、所要の取組を推進することを強く期待したい」としたことを評価している。
声明は今後設置される新たな会議体において、えん罪防止のため以下の制度設計を進めるよう求めている。
1.取調べの録音・録画制度の対象の全事件・全過程への拡大
2.供述しない意思を明らかにしている被疑者に対する取調べの規制
3.弁護人を取調べに立ち会わせる権利の保障
4.「人質司法」の解消
5.迅速な証拠開示を受ける権利の保障
特に取調べの録音・録画については、「供述を客観的に記録する有用性が明らかになる一方で、それを上回る弊害は生じないことが実証されている」として、被害者を含む参考人についても「現行法と同様の供述者の意思に基づく除外事由を設け、それを適切に運用することを前提に、原則として全ての被疑者及び参考人の取調べの客観的な記録を義務付ける法改正が行われるべき」と主張している。
●法改正の遅さを強く批判日弁連は、協議会が取りまとめまで3年の期間を費やし、特別部会の設置からは14年もの歳月が経過していることについて、「えん罪を防止するための法改正のスピードはあまりにも遅い」と強く批判している。
声明の結びでは、「刑事司法に対する国民の信頼をこれ以上失わないようにするためにも、今後、速やかに法改正を実現することが必要である」と訴え、改革の加速を強く求めている。

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