地名の由来は、そのエリアの地形や歴史、人名など、さまざまな要素によって決まります。自分が暮らしている場所や普段よく訪れる場所の地名の由来を調べてみると、“思わぬ発見”があるかもしれません。今回、『47都道府県の怖い地理大全』(彩図社)より一部を抜粋し、東京は「池袋」に隠された過去の悲劇と、関東のなかでも特に水害に気をつけておきたいエリアを紹介します。

大人気の街「池袋」の“暗部”

池袋といえば、東京都でも指折りの繁華街だ。新宿、渋谷に次ぐ3番目の副都心であり、若者や女性から人気を集めている。

だが、人気があることと地理的な安全性は別問題だ。

池袋は洪水の危険地帯ともいわれている。池袋駅東口にある「いけふくろう像」の文によると、地名の由来は「盆地の窪地に多くの沼地があったこと」であるという。

元池袋史跡公園の「池袋地名ゆかりの池」という碑石を要約すると、「かつてこのあたりにあった多くの池が地名のおこり」となる。池からの流れは弦つる巻まき川がわを形成し、村々の用水にもなったようだ。

これらの説が正しいなら、池袋は池を埋め立てた地形ということになる。

「池」は湿地、「袋」は袋状の窪地を意味する。これらの字も、過去の水害多発を連想させる。

ただし、現在の池袋駅は標高約33メートルの高台にある。水害を連想させる地名がつけられているのは不自然だ。

ゆえに地名の由来となった土地は別にあるという説がある。有力候補は池袋駅北方の約2キロメートル地点、池袋本町3丁目の一帯だ。

このエリアには、池袋氷川神社が位置している。一帯は窪地になっており、かつては田園もあった。田園は遊水地としても機能していたという。

江戸時代には東西5町(約550メートル)、南北13町(約1,400メートル)の細長い村だったようだ。ここが、池袋という語が指す地形だったと考えられる。

旧池袋の池や河川は全て埋め立て・暗渠(あんきょ)化されたので、河川が氾濫して水害に至る可能性は低い。しかし集中豪雨によって浸水被害が生じる可能性はある。

豊島区洪水・内水ハザードマップによれば、池袋本町2丁目の東部から池袋本町3丁目の北部にかけては、最大3メートルほどの浸水が懸念されている。

池袋駅周辺においても、短時間の豪雨による地下街浸水が起きる場合があると考えられている。

こうした状況を前に、池袋駅地区は集中豪雨を想定した水害対策を、地下鉄及び地下街との共同で進行中だ。

「“山の手”だから水害に強い」は誤解?

JRの路線名でお馴染みの山の手はもともと、高台の地域を指す言葉だ。ならば山の手は、低地よりも水害に強いと思うかもしれないが、実はすべてがそうとは限らない。

例えば、1958年9月の狩か野の川がわ台風で、東京都は392.5ミリメートルという当時最大の降雨量を記録し、約48万戸が浸水した。このときは下町地域だけでなく、山の手に位置する世田谷区杉並区などでも浸水被害が多発した。

2000年以降に目を向けても、同様のことが起きている。2005年9月4日に猛烈なゲリラ豪雨東京都を襲い、山の手では地下街浸水などの被害が発生した。

高地であっても水害に遭うのはなぜか? 一つは、高地の中にも高低差があるからだ。

例えば標高30メートルの場所に住んでいても、周囲が40メートル以上あれば、浸水リスクは高まる。また河川沿いなど谷地に住んでいる場合、周囲から水が流入しやすいので水害に巻き込まれる可能性は高まる。

もう一つ、高度経済成長期の宅地開発も影響している。

山の手では、開発が進む過程で地面がコンクリート化した地域が少なくない。また、雨水を逃がす役割のある遊水地が住宅地となり、水路は暗渠(あんきょ)化した。そのせいで、山の手の中の低い場所に、水が集中しやすくなっているのだ。

以上に当てはまる典型的な地形が、武蔵野台地である。

武蔵野台地は、標高190メートルの青梅付近を頂点とし、平均標高は50から80メートル、末端部分は15メートルという高台だ。地盤は強固なので、災害に強い地域のように思える。

だが実際には、大きな水害がたびたび起きている。

同地は高低差があるために、いくつもの谷底盆地が形成されている。また、かつては中小河川が幾筋も走っていた。それらのほとんどは暗渠化されている。

水が流れやすいのに逃げ場がないため、浸水リスクが高いわけだ。

近年は河川周辺に調整池が設けられるなどして水害リスクを減らす試みが続けられているが、それでも短期的に水が集中する豪雨災害のときは、注意が必要だ。

地形ミステリー研究会 オフィステイクオー

(※写真はイメージです/PIXTA)