
「はっきり申し上げると、われわれは日本市場ではまだまだ『挑戦者』の立場だ」「顧客企業にモノ(製品)を提供するのか、価値を提供するのか。わたしは『価値を提供したい』と思っている」
Lenovoブランドのデータセンター製品(サーバーやストレージなど)を提供するレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(LES、レノボES)。今年(2025年)3月から同社 社長を務める張磊(チョウ・ライ)氏が、事業方針などを記者向けに説明した。その中で繰り返し強調したのが、製品やテクノロジーそのものではなく“ビジネス価値を提供していく”という方針だ。
グローバルのレノボでは、データセンター製品事業(ISG:Infrastructure Solutions Group)における売上が前年比63%増と非常に大きく伸び、過去最高の売上高を記録している(2024/25年度)。しかし張氏は、日本のLESは「その伸びを追いかけている立場だ」と表現する。
張氏は、これから日本市場において、何を強みとして、どのような方向性でビジネスを展開していくのかを率直に語った。
「レノボの良い製品、良い技術が日本企業に伝え切れていない」
張氏のIT業界におけるキャリアは30年以上に及び、うち25年間は日本でビジネスに携わってきた。前職は、インテル日本法人で執行役員 インダストリー事業本部長を務めた。「簡単に言うと、日本で25年間、ずっとユーザー企業と付き合ってきた」と自己紹介する。
張氏は、“ポケットからクラウドまで”(モバイルデバイスからサーバーまで)の製品を扱うレノボグループにおいて、近年は特に、サーバー、ストレージ、プロフェッショナルサービスの売上が伸びていると説明する。
レノボのサーバー製品(「ThinkSystem」「ThinkAgile」など)は、第三者機関による各種評価やベンチマークで高い評価を得ている。そうしたこともあって、グローバルのISG事業(サーバービジネス)では大きな成長を遂げているが、日本市場ではまだ十分に成長できていない。「もっと成長できる余地がある」というのが張氏の見方だ。
張氏は、LESが日本市場で伸び悩んでいる背景には、LESと顧客企業の間に“ギャップ”があるためだととらえているようだ。
「レノボは、非常に良い製品と良い技術を持っている。ISGが(前年比60%を超える)高い成長をしているのはその証拠だと思うが、日本ではそれ(製品力や技術力)がお客様にご紹介できていない。伝え方をもっと改善しなければならない」(張氏)
顧客企業のビジネス課題を理解し「価値」を提供していく
LESの競合優位性について、張氏は、グローバル規模の研究開発から生まれる「イノベーション(テクノロジー)」に加えて、海外の生産拠点から届いた製品を国内(米澤事業場)で原則全品検品する「品質への探究」、専任エンジニアから高度なサポートが受けられる「サービスと統合された製品」の3つを挙げる。
特に、3つめの「サービスと統合された製品」が、張氏の強調する「製品ではなく価値の提供」という方針につながっているという。
「LESとしてお客様に何を提供するのか、モノ(製品)を提供するのか、価値を提供するのか。わたしは価値を提供したいと思っている。つまり『すごく先進的な技術(製品)だから買ってください』ではなくて、『お客様にはこういうビジネスの問題がある、この製品がそれを解決します』という価値だ」(張氏)
ただし「価値を提供する、と言うのは簡単だが、実現するのはすごく難しい」とも語る。前述したように“これまで25年間、ずっと日本のユーザー企業と付き合ってきた”張氏らしく、「そもそも顧客企業のビジネスが分からなければ、そうした価値は提供できない」と断言した。
それではLESは、どのように顧客企業のビジネス課題を理解していくのか。その答えとして、張氏は、レノボのプロフェッショナルサービスや、ユーザーコミュニティを通じた「顧客企業とのディスカッション」をさらに重視していくと述べた。
もっとも、製品のパフォーマンスや価格などとは違って、こうした“強み”は数字では表せない。その強みをどう日本企業に伝えていくつもりか、という質問に対しては「実績で示すしかない」と答えた。
「『お客様中心』という方向性を示していきたい。本社からは、もちろん製品を売ることへの期待もあるが、それ以上に『日本のユーザー企業が何を必要としているのか』、お客様からのフィードバックを集めることを求められている。世界をリードする日本企業が多くいるなかで、そうした企業が本当に欲しいと考えるものを、製品開発の部隊に伝えるのも、われわれ日本のチームの大きな仕事だ」(張氏)
もはやAI/GPU用途だけにあらず、「最大40%省電力」の水冷サーバーが標準に
レノボの持つ高度なテクノロジーのサンプルとして、張氏が取り上げたのが水冷技術の「Neptune」と、AI推論処理にも対応するエッジサーバーの「ThinkEdge」だった。特にNeptuneについては、LESに入社してから詳細を知り、それまで持っていた水冷技術に対するイメージと大きく違ったことに「びっくりした」と語る。
エンタープライズ市場においてAI処理ニーズが急増するなかで、高発熱のAI/GPUサーバーを安定稼働させるための直接水冷(液冷)技術に注目が集まっている。Neptuneは、かつてIBMがメインフレームで実績を重ねた水冷技術をレノボが継承したものであり、すでに第6世代となっている。
Neptuneの特徴として、張氏は「CPUやGPUだけでなく、メモリ、電源まで水冷とすることで、サーバーを完全ファンレス化する」「冷却水は最高40℃まで対応し、水を冷やすエネルギーも削減できる」といった点を挙げる。これにより、サーバーの消費電力だけでも、最大40%を削減できるという。
かつてはスーパーコンピューター/HPC分野や、大規模なデータセンター事業者だけで導入されていた水冷サーバーも、現在は「ふつうのエンタープライズ」まで拡大していると、張氏は説明する。データセンター全体の大幅な消費電力削減が見込めることから、自社インフラを抱える金融や情報通信といったエンタープライズでは、“水冷サーバーを標準で採用する”方針の企業も出てきているという。
LESでは今後、国内における水冷周辺設備/機器(CDUなど)ベンダーとのエコシステムを強化するとともに、ユーザー企業における導入事例の公開なども積極的に進めていく方針だと述べた。

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