
経済的に困窮する子育て世帯を対象に実施された調査で、約9割が「物価上昇の影響で十分な食料を買うお金がない」と回答し、主食である米すら十分に確保できない実態が明らかになった。
子どもの貧困を研究する沖縄大学の山野良一教授は「食のクライシスに直面する子どもが急増している」と警鐘を鳴らしている。(福原英信)
●物価上昇を受け、水などで空腹を紛らわせている子どもも調査を実施したのは、公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」。同団体の「子どもの食応援ボックス」に申し込んだ住民税非課税世帯など、約8000世帯(子ども約1.4万人)を対象とした。
「子どもの食応援ボックス」は、給食のない長期休暇中に食料支援が必要な家庭に約10キロ・30品目の食料品などを無償で届ける事業だ。
申し込み世帯のうち、約91%が「物価上昇の影響で十分な食料を買うお金がない」と回答。約88%は2024年より悪化したと答えた。さらに1割は「水などで空腹を紛らわせている」とし、食のクライシスが子どもに深刻な影響を与えている実態が浮き彫りになった。
自由記述欄には
「食べ盛りの子達に必要な魚、肉もなかなか購入できず栄養面も心配です。夕食の後に必ずおなか空いたと言われ、心苦しくなります」
「母の食事を減らして、食べ盛りの子どもには少しでも栄養をとってもらってるが、親自身が体調を崩しそうで不安」
といった切実な声が寄せられた。
●5000世帯で「子どもが十分に食べられていない」また、約5000世帯が「子どもが十分な量の食事をとれていない」と回答。そのうち83%以上が「子どもの成長や健康に影響がある」と感じていた。
さらに約40%が頭痛・腹痛など体調を崩しやすくなる、約35%が空腹でやる気が起きない・集中できない、約32%が空腹でイライラしているなど、心身への悪影響が明らかになった。
「給食以外で十分なお米を食べられていない」とする世帯が約43%を超え、主食である米さえ満足に確保できていない実態が浮かび上がった。
「高校生の子どもが運転免許を取るためにアルバイトしたお金で、お米を買ってもらった」「米が高くなると、一気に食卓への影響が出ます。成長期の子どもが食べる量を減らし、瘦せていきました」という声もあった。
米の価格の上昇に対して、約26%が「費用が工面できず、食べる量を減らしている」とし、9%は「費用が工面できず、借り入れをして購入している」と答えた。
中には、「家賃の滞納につながってしまった」という回答もあり、米の高騰が家計全体を揺らがしている現状がうかがえる。
●「給食の無償化」こども家庭庁に近く提言へセーブ・ザ・チルドレンは調査結果を踏まえて、こども家庭庁に対して「公的な食料支援」「給食の無償化」などの提言を近く提出する予定だ。
給食が"命綱"になっている実態から、保育園・幼稚園から高校まで、誰もが安心して給食を食べられるよう「給食費の無償化」の必要性をうったえる。
調査に協力した東京都立大学の阿部彩教授は「いま最低限やるべきことは、一番厳しい子どもたちの状況をこれ以上悪くされないことではないか」と指摘。
そのうえで「児童手当の所得制限撤廃などの政策は、中間層以上の子育て世帯にしか便益をもたらさない。お腹を空かせた子どもを一人も作らない政策をすべき」とコメントした。
●沖縄大教授「将来に長く影響が続く可能性。公的な調査を」この調査に研究協力した沖縄大学の山野良一教授は次のように述べた。
「たった1年で子どもの食の質が低下している。子どもの貧困の調査に取り組む研究者にとっても『驚くべき結果』となっている。食のクライシスに直面している子どもが急増している。
子どもが自ら友人との付き合いの回数を減らしたという回答があるなど、子どもは自ら『我慢』をする状況になっている。保護者が無理をしている姿を子どもが察して、食事を我慢しているなど、子どもの権利が脅かされている実態がある。
今回の調査などから判明したように、直近の数年間で経済的に困難な子どもが置かれている環境が悪化している。
政府による全国規模の子どもの貧困に関する調査は、2021年に実施されたあとは実施されていない。子どもの貧困に対する関心が社会的に下火になる中で、自治体による調査も減少している。
米などの物価上昇がどのように、子どもや家族の生活に影響を与えているかを把握するために、公的な調査や、それに基づく政策が必要とされている。
子どもが食事をとれていないことで、子どもの成長や健康に影響を及ぼしているだけではなく、精神的に不安な状況に追い込むほどにまで影響しており、将来への子どもたちへの影響が長く響いてしまう可能性がある」

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