台湾は、半導体産業をはじめとする先端技術分野で存在感を高め、アジア経済における重要な拠点となっています。日本企業にとっても、台湾との経済連携は年々強化されており、投資や税務面での関心が高まっています。本稿では、台湾の投資環境の概況から、法人課税の特徴、日本との租税取り決めの影響、移転価格税制や出張者に対する課税取扱いまで、台湾進出を検討する企業にとって実務上押さえておきたいポイントを『富裕層が知っておきたい世界の税制【大洋州、アジア・中東、アメリカ編】』を刊行した矢内一好氏が解説します。

台湾の投資環境

台湾企業の半導体分野などにおける活躍は著しいものがありますが、日本からの投資については、台湾の「外国人投資条例」に基づく許可が必要なものではなく、特段の規制はありません。 台湾のGDPは2023年に7,560億ドルで、アジア地域では中国、日本、韓国に次いで第4位です。主要産業は、電気・電子、化学品、鉄鋼金属、機械などが挙げられます。2023年の日台間の貿易において、日本は台湾にとって輸入相手国として第2位、輸出相手国として第4位となっています。

このような経済的側面および過去の政治的状況などを踏まえ、2015年11月には、日本と台湾の間で実質的な租税条約に相当する「日本・台湾民間租税取り決め」が締結されました。これに基づき、2016年度税制改正により、日本国内法上の「外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律」が整備されました。

この取り決めにより、台湾からの配当、利子、使用料については、配当10%、利子10%、使用料10%と、台湾の国内法による税率よりも軽減されています。なお、中国と台湾は2015年8月25日に租税条約を署名していますが、現在に至るまで未発効の状態です。日本は、中国政府の意向を考慮し、租税条約によらない形式を選択しました。

台湾は、イギリスをはじめとする35か国と租税条約を締結しており、最新の例としては、韓国との租税条約が2024年1月に発効しています。

台湾に現地子会社を設立する場合の法人税等の課税

台湾で事業を行う法人には、営利事業所得税(日本の法人税に相当)が課され、税率は原則として20%です。法人所得に対する地方税は存在しません。

個人所得税については、総合所得税が適用され、最高税率は40%です。

また、外航船事業を行う企業が台湾に本店を置く場合などには、法人に代わってトン数標準税制(トン税)を選択することが可能です。ただし、この方式を選択した場合、継続適用が要件となります。なお、日本においても同様の税制が採用されています。

国税にあたる間接税としては、日本の消費税に相当する営業税(税率5%)が課されます。地方税に分類される間接税としては、印紙税(例:金銭契約書については税率0.4%など)があります。

日本と異なる法人課税制度

日本と異なる主な点として、台湾の内国法人における未分配利益には5%の追加課税があることが挙げられます。

また、台湾には米国で2017年に廃止された「ミニマムタックス」に類似した課税制度があります。これは、一定の非課税所得や免税所得等を加算した「基本所得」に対して、通常の法人税とは異なる12%の税率を適用する制度で、多額の租税優遇措置を受ける企業に対する課税の公平性を図るための仕組みです。

さらに、法人が青色申告または会計監査を受け、税務当局により審査確定された欠損金については、10年間の繰越控除が認められています。

移転価格税制の適用

台湾では、内国法人である日本の親会社と台湾子会社との取引について、移転価格税制が適用されます。親子会社間で棚卸資産の販売や使用料の支払いなどがある場合には、その取引価格が独立企業間価格(アームズ・レングス・プライス)となっているかどうかに注意が必要です。

台湾子会社の社員が日本に出張する場合の課税関係

前述のとおり、現在の日台間には、実質的な租税条約に相当する「民間租税取り決め」が締結されています。これにより、給与所得に関しても、OECDモデル租税条約と同様の取り扱いが可能となっています。

すなわち、取り決め締結以前は、日本への出張等にかかる給与所得について、日本の所得税法が適用され、滞在日数に応じた金額に対して日本の非居住者として課税が行われていました。

しかし現在は、いわゆる「183日ルール」の適用が可能となっており、短期の出張であれば、日本において非課税となる場合があります。

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

(※写真はイメージです/PIXTA)