
安倍晋三元首相を殺害した罪などで起訴された山上徹也被告人の裁判をめぐり、ジャーナリストや弁護士らでつくる「司法情報公開研究会」は7月25日、奈良地裁と最高裁判所に対し、広く傍聴の機会を確保するよう求める要望書を提出した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●「ビデオリンク」活用による傍聴機会の拡大を求める山上被告人は殺人や銃刀法違反などの罪で起訴されており、10月28日から奈良地裁で裁判員裁判が始まる予定だ。
要望書によると、奈良地裁の主要法廷に設けられた傍聴席は67席であり、傍聴希望者の数に対して十分な傍聴席を確保できない可能性が高いという。
そこで研究会は、傍聴希望者により多くの機会を提供するため、裁判所内の別室にモニターを設置し、法廷での審理を中継する「ビデオリンク方式」の導入を提案。実際の法廷外でも裁判の様子を視聴できる環境整備を求めている。
また、注目度の高い裁判では、開廷前に傍聴券の抽選がおこなわれることがあるが、当選者の腕にリストバンドを巻く方式では途中交代が難しくなることから、受け渡し可能なチケット方式への変更も求めている。
こうした措置を実現するために、最高裁には、奈良地裁に必要な予算措置を講じるよう要請した。
●陰謀論のまん延を防ぐ意味もこの日、研究会の代表者たちは東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。
ジャーナリストの江川紹子さんは、安倍元首相が選挙中に路上で殺害された事件の重大性や、事件をきっかけに旧統一教会と政治との関係が社会問題化したことに触れたうえで「全国の人が注視している裁判なので、公開されることで裁判の公正さや裁判への国民の信頼を高めることにもなる」と話した。
また、ネット上では「安倍元首相を殺害した真犯人は山上氏ではない」といった根拠のない情報が拡散している点についても言及し、「ちゃんと裁判で山上氏の具体的な供述や証言を見聞きすることで、陰謀論的なものを打ち消していくことになり、事実に基づいた議論がおこなわれる」と語った。
●「裁判がブラックボックスになっている」弁護士の塚原英治さんは、2003年に大阪府池田市で発生した小学校侵入事件の裁判において、一部遺族のために別室にテレビモニターが設置され、傍聴が可能となった前例を紹介した。
一方で、別室モニターの設置でスマートフォンで画面を撮影する問題行為を起こす傍聴人が出てくるおそれを裁判所が懸念する可能性があると指摘しつつも、「スマホを預かるなど別の方法で防ぐことができる」と述べた。
同研究会は2023年4月にも、山上被告人の公判前整理手続の公開を奈良地裁に求めたが、何ら対応はなかったという。
塚原弁護士は「裁判がブラックボックスになっていて、陰謀論に手を貸している」と批判し、公開の必要性を重ねてうったえた。

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