
この記事をまとめると
■メルセデスAMGが「AMG Experience on Track」を開催
■サーキットでの走行技術向上を目指す体験プログラムだ
■桂 伸一さんが「AMG Experience on Track」に参加した
AMGのクルマでサーキットを全開!
AMG Experience on Trackに参加するため富士スピードウェイに向かった。
午前中はショートコースでドラッグレース&ストップボックスとマルチコースにわかれてのカリキュラム。ショートコースは、フル加速して枠のなかで止める……ゲーム感覚だがAMGの加速の鋭さと驚くほど止まるパフォーマンスを体験。マルチコースは、散水したウエットコーナーで車両安定装着ESPほか制御の違い、ESP-OFFで変化する挙動、つまり横滑り〜カウンターステアで挙動をコントロールする楽しい内容。
という午前の部は編集部井上が担当する。「桂さんは昼までに来て下さい」と井上にいわれるも、かなり早めに到着してしまい午前中のカリキュラムを見学。
そこはマルチコースの終了間際。各自ESP-OFFの状態でパワーオーバーステアをカウンターステアで修正する操縦に没頭。加速して減速したそこからすでに路面はウエット。ステア操作で曲がり始めてパワーをガバッと加えると、パワースライドに転じるという状況。
皆さんまずはアンダーステアを出す。AMGといっても操縦安定性の基本はメルセデス ベンツ流儀だ。だから容易にオーバーステアにはならない。終始アンダーステアの人もいる。そのなかで絶妙なスライドコントロールを見せる方がいた。誰かとコクピットを覗くと、CARトップ本誌でもお馴染み日本レース界のレジェンド、御年85歳、ガンさんこと黒澤元治さんだ。
スライドはするが必要以上にカウンターステアを当てない。最小限のスライド、ドリフト量とカウンターステアでつねに前へ前へ。つまり見た目は派手ではないが速い。もうこれはレーシングドライバーとしての本能だろう。
ガンさんはともかくクルマすべての動きに無駄がなく、入力(操作)は必要最小限でスムースにコントロールする術で、それ以後も前にもこれほど滑らかで無駄のないヒトの横乗りは経験していない。あ、そのときもメルセデス・ベンツの国際試乗会だったな。
いきなり脱線したが、桂の担当は午後からのサーキット走行で、GT 63 S Eパフォーマンス クーペと、GT 63 4マチッククーペの全開試乗という刺激的かつ魅力的なメニューだ。
しかし、AMG 4リッターV8ツインターボのエンジンスペックは、いつの間に驚くべき桁違いの数値になったのか!! GT 63 S Eの馬力はじつに816馬力・1420Nm!! は大型トラックに迫る恐ろしいトルク。F1由来のハイパーバッテリーと駆動モーターをリヤに搭載した威力は度肝を抜かれる。エンジン単体のスペックは612馬力/850Nmとこちらも依然特大なトルク値。ちなみにGT 63 4マチックは驚きは数値と同時に身体にくる。0-100km/h加速は2.8秒!! は想定外。一瞬血の気が遠のく加速Gは、一度味わうと2度目はアクセルを踏み込む気にならなくなるほど超切れ味鋭いダッシュ力に恐れおののく。
サーキット試乗は、車両安定装置ESPを最終的にはOFFにして、純ナマのパフォーマンスを味わわせる。そこがクルマの制御含む完成度に自信があるAMGらしい。サーキットを全開で走ってどうか? ということで乗り味、使い勝手云々は判断つかないが、試乗の番がまわって来たので、そのパフォーマンスの確認にスタート。
AMGのパフォーマンスの高さを実感
まずは最強のGT 63 S Eから。能ある鷹は爪を隠す、の如くピットロードはハイブリッドらしいモーター走行で静かに流れていく。加速の鋭さは、気が遠のくほどの実体験をした身として、レーシングコースに合流してアクセルペダルを踏み込む力にためらいもあるが、幸い先導ペースカーがいるので、ある程度加速Gに慣れてから勇気を振り絞ることにする。
走り慣れた富士だけに、各コーナーまでの加速感、コーナーでの挙動などクルマの素性を探るうえで基本的な判断基準がある。いえることはまずAコーナー(コカコーラ)までの到達速度が軽く200km/hオーバーという尋常じゃない速さだ。
続く100Rのコーナリングは4WDということを含めてもアンダーステアの度合いは極めて少ない。100Rのクリッピングポイントから先はフロントタイヤからのスキール音発生と同時にアクセルをわずかに絞るだけで、狙ったコーナリングラインに容易に戻る。路面を確実に掴むグリップ力、ロードホールディングの素晴らしさは純正装着として専用開発したミシュラン・パイロットスポーツ S 5の運動性能によるもの。
それを如実に感じるのが100Rと、もうひとつは最終コーナー手前のツイスティな区間だ。13コーナーやGRスープラコーナーは、それぞれ立ち上がりで曲がりきれていないのにアクセルを必要以上に踏むアンダーステアを誘発するポイント。ここでもGT 63 S Eはまるでスリックタイヤを装着しているかのようにロングノーズがインを向く。
あとからの情報で大いに頷けたのは、このクルマは後輪操舵システムを備えていて、100km/h以下の車速では、後輪舵角は最大2.5度まで前輪とは逆位相、つまり低速コーナーはより小さいRで曲がれるように後輪が前輪とは逆方向に向く。
この操縦感覚はまるでスリックタイヤを履いているかのようなグリップ感でスルッとコンパクトに曲がる。アンダーステアを感じないのはタイヤのグリップ力とともに大いに貢献していた。
最終コーナーを3速で立ち上がると全9速の各ギヤは4/5/6速とアップテンポに吹け切りながら凄まじい加速と矢のように直進する安定性が続き、7速304km/hに達したところで第一コーナーに向けて、まだ余裕を残しながらのブレーキング開始。
それはDレンジのままでも、パドルを手動操作しても同様に誰でもイージーに体感できる速度域だ。思いどおりに曲がり、加速と急減速して1周があっという間に終わると1分54秒80。これが速いか否かはともかく、標準タイヤでさらりと出せるところにロードカーとしてのGT 63 S Eの潜在能力の高さを確認した。
同時に試乗したGT 63クーペは、AMGといえばエンジンチューンの純粋な4リッターV8エンジンを搭載するモデル。乗るとエンジン車らしいスッキリと軽快な速さがスポーツカーらしい。スペックを見れば0-100km/hは3.2秒とこれも血の気が後方に行く感覚。
富士での最高速も287km/hをサラリとマークして、スーパースポーツ軍団の顔色を失わせる。操縦のメカニズムはGT 63 S Eに準ずるから、意図したとおりに曲がり、止まる感触と遜色なく、モーター/バッテリーぶんの重量なのか、軽快さは加減速とフットワークにもいえる。
いずれもロードカーとしてのAMG GT 63の話。この能力を引き出すのは、日本ではサーキットしかあり得ないところが、オーナーの身になると歯痒いところ。逆をいえば、普段は足としてフレキシブルに使い倒し、サーキットのスポーツ走行時間で能力の一端を引き出す。スーパースポーツ含めてこのクラスを日本で生かすには、それが最善の方法だ。

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