●「僕はこの取材をきっかけに変わりたいんです」
1995年10月にスタートしたフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)が今年30周年を迎えるのを記念して、「フジテレビドキュメンタリー」公式YouTubeチャンネルでは、大きな反響を集めた話題回の期間限定配信を、月1回のペースで3作品展開していく。

この第1弾として25日に配信がスタートしたのは、「結婚したい彼と彼女の場合 ~令和の婚活漂流記2024~」(2024年2月4日・11日放送)。カリスマ婚活アドバイザー・植草美幸氏の結婚相談所に入会した、デート経験がない進藤さん(仮名・当時29)や、バツイチの内田さん(当時55)が、女性の心を読み取れず、苦悩しながら奮闘する姿に、応援や共感の声などが相次いだ。

彼らに寄り添いながら取材した八木里美ディレクター(バンエイト)が、この2人が顔出しで番組に出るほどの覚悟を持ったことで自身の成長につながったこと、かつては助言する相手だった彼らから学ぶことなどを語ってくれた――。

○“クズ芸人”から改めて感じる稀有な存在

今回の配信にあたり、取材開始当初からの2人を改めて見て、「懐かしかったです。本当に一生懸命頑張っていて、真剣度が半端ないなと思いました」と感慨深く語る八木D。この回では8カ月にわたり取材したが、「先生のアドバイスを素直に聞いて、ちゃんと実行して、自分を変えようという強い意志を感じました。これは婚活に限らず、仕事などにおいても難しいことだと思うので、本当にすごいなと思います」と、短期間での急成長を振り返った。

婚活は、自らの弱さに向き合う場面の連続。その姿を、顔出しでテレビの密着取材を受けて公開するというのは、相当な勇気がいることだ。八木Dが相談所を取材する中では、「顔出しの取材ができる方はなかなかいらっしゃらないですし、顔出しOKの方でも、いい自分を見せたいという気持ちが先行してしまうと、うまく取材が進まなくて、途中で断念するケースもたくさんあります」と明かす。

そんな中で、この2人については、「自分の喜怒哀楽を全てさらけ出してくれる方は、本当に珍しいんです。2人とも最初に“僕はこの取材をきっかけに変わりたいんです”とおっしゃっていて、最後までその言葉通りだったので、やはり覚悟というものが違うんだと思います」と、成長の原動力を感じたそうだ。

ザ・ノンフィクション』では、パチスロとギャラ飲みで生計を立てるお笑い芸人・小堀敏夫(ガッポリ建設)が婚活に挑んだ「クズ芸人の生きる道 ~57歳 婚活始めます~」を、今年1月5日に放送。婚活アドバイザーの言うことを聞かず、持論をまくし立てる姿は“クズ芸人”の一面をのぞかせていたが、八木Dは「実は結婚相談所では、先生のアドバイスに一切耳を貸さないタイプの人が珍しくないんです」という。

「男性も女性も、特に40代、50代と年を重ねるといろんなものがいろいろくっついてきて、それを剥がすことは難しいと思うんですけど、婚活というのは全部引っ剥がされるので、それが受け入れられない人がたくさんいます。むしろ素直に聞く人はすごく少ないので、そういう意味でも、進藤さんと内田さんは稀有な存在なんだと、小堀さんを見て思いました」
○取材を受けることが婚活へのプラスに

応援する気持ちも持って、伴走するように彼らを追っていったという八木D。特に取材開始当初は、お見合いの失敗の連続で、「まるで金太郎飴のように同じことの繰り返しになっていて、本人たちも見ているこちらも、とてもしんどい思いでした」と苦難を共有した。

それだけに、時には助言をすることも。「植草先生に言われたことが最初のうちは理解できなかったりする方も多いのですが、私は先生と10年の付き合いになって、言葉がスッと入ってくるので、“こういうことを言いたかったんじゃないですかね?”と話したりしていました」と、その真意を解釈して伝える役割を担ったという。

さらに、一人の女性としての見解を聞かれ、「私がお相手だったら、こういうことを言われたら、こう感じるんじゃないかと思います」と答えることも。植草氏との面談を終えた後、カメラを置いて、時には一緒にビールを飲んで打ち解けながら、彼らの思いを受け止めていた。

女性とのコミュニケーションに慣れていない男性にとって、本音で婚活の相談ができる女性は、極めて貴重な存在であり、精神的支柱とも言えるだろう。

「最近は、取材を受けることのメリットも必要だと感じていまして。皆さんよくおっしゃるのが、“取材を受けることによって、自分を客観視できる”ということ。だから、本人と植草先生のマンツーマンの関係性の間に第三者が入ってインタビューすることが、すごく役立ったと言っていただけるんです。婚活の相談は、親にも言えないので皆さん孤独で悶々としながら、フラれ続けて、先生に怒られ続けると、とてもつらいと思うのですが、取材者という立場でありながら、彼らにとって少しでも精神衛生上良いことになっているのであれば、うれしいですね」

●年齢、性別、既婚・未婚関係なく大きな反響
「結婚したい彼と彼女の場合 ~令和の婚活漂流記2024~」の放送では、進藤さんと内田さんに加え、もう一人女性も追いかけていたが、結果として男性2人に反響が集中した。この大きな要因として考えられるのは、顔出しで取材を受けていることだといい、「ドキュメンタリーを作る上で、顔にはその時の感情が全て出てくるので、視聴者への伝わり方が全然違うんです」と解説。この顔出しの覚悟ゆえ、自らを隠さずに見せてくれたキャラクターも、たくさんの応援や共感を集めた。

八木Dが驚いたというのは、その反響の声が、年齢や性別、さらには既婚・未婚関係なく届いていること。

「植草先生の著書のサイン会にお邪魔したら、“『ザ・ノンフィクション』を見ました”という方がたくさんいらっしゃって、その中でご夫婦が多かったんです。“なぜこういうことを言うと女性は嫌な感じになるのか”と、夫婦関係で課題を持っていた方が、非常に興味を持ってくださっていたんですね。ほかにも、自分に置き換えて人間関係の悩みを抱えている皆さんが見てくれていて、婚活している人だけが参考になるのではないんだと、逆に私のほうが勉強になりました」

番組で取り上げているのは「婚活」だが、そのベースにある人と人のコミュニケーションという普遍的な問題としてメッセージを受け取った視聴者が多く存在することが、大きな反響を裏付けられている。
○今や平均値を超える異性とのコミュニケーションスキル

昨年11月に放送された同局系特番『ジツハなジツワ ~#今夜の好奇心~ 独占密着!すべてが初公開SP』では、進藤さんと内田さんが2人とも結婚相談所を成婚退会したことが伝えられた。その後の近況についてはカメラを回していないものの、連絡を取り合っている中で、幸せがあふれ出ているようだ。

「内田さんはすごくストイックに低糖食や筋トレに励んでいましたが、奥さんも一緒に住んでそれを始めたら、すごく痩せてきれいになってびっくりしました。美しさと健康を手に入れて、ご夫婦で本当に幸せそうで、11月に結婚式に呼ばれているので、楽しみです。

 進藤さんも、婚活で大変だった分、奥さんをすごく大事にしているのが伝わってきます。私とたまにLINEのやり取りをする時の受け答えの仕方を取っても、婚活と結婚を通して人間的にもすごく成長されているのを感じます」

以前は2人にアドバイスをすることもあった関係だが、今は学ぶことが多いという。

「毎日一緒にいると、近くにいる家族ってどうしても雑に扱ってしまうじゃないですか(笑)。夫婦になったからには、ケンカもしますし、いろんな問題があって綺麗事ばかりではないですが、2人は苦労された分、自分を選んでくれた相手にすごく感謝の気持ちを持って接しているんです。2人とも、奥さんに“ありがとう”という言葉を本当によくかけるんですよ。そんなこと、普段の生活では恥ずかしいし、なかなか言えないじゃないですか。それがすごいですよね。私も、日々の生活を反省しています(笑)」

結婚相談所に入会した当初は、異性とのコミュニケーションスキルが低いところからスタートした2人だが、そこから本気の婚活を経た今、もはや平均値を大きく上回る男性になっているのだ。

「最近はマッチングアプリの台頭もありますが、ずっと恋愛結婚至上主義が続いている中で、結婚相談所からの結婚は、まだ少し色眼鏡で見られてしまう部分もあると思います。ただ、恋愛結婚だと相手に甘えすぎてしまう部分があるのではないか。相手を簡単に手に入れられたら、いつの間にか感謝を忘れてしまうこともあるけど、結婚相談所であそこまで苦労して、頑張って自分を変えながら成長してつかんだ幸せというのは、あの2人を見ているとやっぱり重いものなんだなと思いますね」

●待望の第3弾が進行中「ショックや驚きを共有できれば」
植草氏の結婚相談所を取材して10年になる八木Dは、これまで出会った人の「その後」を追った書籍化の準備を進めている。「婚活して結婚できた人もいれば、しなかった人もいるし、婚活を途中で辞めた方もいらっしゃいます。テレビだとやはりゴールが結婚になりますが、人生の中で婚活を頑張っていた時期と、その後の皆さんの選択は実に様々なので、そこを大事に書きたいと思います」といい、進藤さんと内田さんの近況についても執筆する予定だ。

さらに、『ザ・ノンフィクション』では待望の第3弾の取材も、まさに進行中。「これまでとは全然違うテーマで、想定外のことがいろいろ起きるので、ちょっとついていくのも大変です(笑)」と日々驚きを感じながら臨んでいるそうだが、それは婚活というものに、人と人が向き合う分だけ物語があることを示している。

「この取材で面白いところは、私が“こうなるんだろうな”、“こうなったらいいな”と思い描くことが、ことごとく裏切られるんです。人間の価値観は本当に千差万別で、感じ方も何もかもが違うので、私が日々ショックを受けたり、驚いたりしたことを、少しでも視聴者の皆さんと共有できればいいなと思います」

進藤さんと内田さんは、『ザ・ノンフィクション』の婚活回を見て、植草氏の結婚相談所に入会したが、今取材している男性は、その2人の奮闘を見て「僕も変わりたい」と同じ門を叩いたのだそう。

八木Dは「番組を見て、自分も挑戦してみようと思ってくださる方がいるのは本当にうれしいです」とディレクター冥利を感じながら、「なかなかうまくいかないことが多いのですが、これまでと同じように“頑張れ!”と応援しながら伴走しています」と、新たな挑戦に向き合っている。

●八木里美1977年生まれ、東京都出身。学習院大学卒業後、青森朝日放送でニュースキャスター・記者・ディレクターとして取材現場に従事し、テレビ朝日スーパーJチャンネル』を経て、04年にバンエイト入社。フジテレビ報道局で『スーパーニュース』を担当し、11年からは制作部でドキュメンタリー番組などを制作。『ザ・ノンフィクション』では、『愛はみえる~全盲夫婦の“たからもの”~』『わ・す・れ・な・い 明日に向かって~運命の少年~』『私、生きてもいいですか ~心臓移植を待つ夫婦の1000日~』『わすれない 僕らが歩んだ震災の10年』『泣かないでアコーディオン ~シングルマザーの大道芸人~』なども担当し、11年間にわたって取材した『熱血和尚』シリーズでは、「第36回ATP賞」グランプリ、「2020年日本民間放送連盟賞」テレビ教養番組部門・最優秀賞、「第57回ギャラクシー賞」奨励賞、「ニューヨークフェスティバル2020」ドキュメンタリー宗教/哲学部門・銀賞&国連グローバルコミュニケーション賞・銅賞と、国内外で数々の賞を受賞した。
(中島優)

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