
仕事を辞めた夫に頼まれて、風俗で働かされる妻。心身ともに限界に追い詰められているという──。弁護士ドットコムにそんな相談が寄せられています。
相談者によると、幼い子どもと暮らす夫婦の話だといいます。夫が仕事をやめて無職となったため、生活が立ち行かなくなりました。
夫から頼まれて、妻は風俗で働き始めましたが、心身ともに限界を感じて離婚を決意しました。ただし、現在も同居しており、夫は婚姻関係の継続を望んでいます。
妻は親権はどちらでも構わないので、とにかく早く離婚したいとうったえているそうです。女性は離婚できるのでしょうか。田村ゆかり弁護士に聞きました。
●生活費を出さない夫は「悪意の遺棄」にあたる?──働かない夫は結婚生活の継続を望み、妻は離婚したいと考えています。妻から一方的に離婚することは可能でしょうか。
夫婦のどちらかが離婚を拒否する場合は、最終的に裁判で離婚原因があることを主張し、立証する必要があります。
民法770条では離婚原因が定められており、「生活費を負担しない」という場合は、同条1項2号の「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に該当する可能性があります。
民法752条により、夫婦は同居・協力・扶助する義務があり、また民法760条では、婚姻費用の分担義務が課されています。したがって、働ける状態にもかかわらず生活費を出さないのは、この義務に違反する行為です。
障害や病気など特段の事情がないのに、働かず生活費を負担しない場合、「扶助義務違反」または「婚姻費用負担義務違反」として、悪意の遺棄にあたる可能性があります。
●妻に風俗勤務を「頼む」ことは重大な離婚理由になる?**──夫が妻に風俗で働くよう頼んだ行為は、離婚理由になりますか。
このような行為は、民法770条1項5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたる可能性があります。
この「重大な事由」とは、婚姻関係が深刻に破綻しており、もはや元のような共同生活の回復の見込みがない状態を指します。
判断にあたっては、夫婦それぞれの態度や行動、結婚継続の意思、子どもの有無、双方の年齢、健康状態、性格、職業、資産・収入など、さまざまな要素を総合的に考慮します。
今回のケースでは、夫がどのくらい働いていたのか、その収入はいくらだったのか、仕事を辞める経緯や再就職の意思や努力の有無、さらに妻に風俗勤務を求めた時期や具体的内容などを証拠として整理し、立証していくことになるでしょう。
●離婚するなら「まず別居」が第一歩──現在も同居しているとのことですが、離婚に向けてどのような手続きをとるべきでしょうか。
同居中でも離婚ができないわけではありませんが、まずは別居することを強くすすめます。離婚すれば、当然別居となりますし、夫が離婚に応じない場合、同居中に暴行などのリスクが高まる可能性もあるからです。
また、妻は「親権はどちらでもいい」と言っていますが、慎重に考えてほしいと思います。お子さんはまだ幼いでしょうから、無職の夫に子どもを託すことに、育児面での不安が残ります。
夫と離婚について合意できれば協議離婚で進められますが、応じない場合は家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。なお、いきなり裁判を起こすことはできず、まずは調停を経なければならない「調停前置」が原則です。
●逃げ場はある? 母子を守るシェルターや女性支援制度──同様の状況に苦しむ人に向けて、制度的な支援はあるのでしょうか。
各都道府県には「女性相談支援センター」が設置されており、相談を受け付けています。必要に応じて、子どもとともに一時的にシェルターに保護されることも可能です。
まずは、自治体に電話するか、「女性相談」などのキーワードで検索し、速やかに相談されることを強くおすすめします。
【取材協力弁護士】
田村 ゆかり(たむら・ゆかり)弁護士
経営革新等支援機関。沖縄弁護士会破産・民事再生等に関する特別委員会委員。
事務所名:でいご法律事務所
事務所URL:https://deigo-law.jp

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