
建物の老朽化、資産価値の下落……。マンションの管理によってこれらは大きく改善することが可能です。しかし現状、多くのマンションで管理がうまくいかないっていません。一体なぜでしょうか? その根源には、住民の「無関心」があるようで……。本記事では長嶋修氏の著書『2030年の不動産』(日経BP 日本経済新聞出版)より、管理組合や総会が本来持つべき機能と、住民一人ひとりが持つべきリテラシーについて解説していきます。
マンション管理への「無関心」が引き起こす問題
たとえば、管理会社のフロントマネージャー(マンション運営に関する業務や管理人の監督、理事会や総会の運営をサポートする管理会社の社員)が、総会や理事会で「修繕積立金を値上げしないと、工事費用が不足しますよ」とアドバイスしたとします。
マンションの管理に興味のある人なら、興味を持ってその話を聞くでしょうが、無関心な人だと「ランニングコストが増えるのはイヤ」としか思わないかもしれません。そのような人が多数を占めれば、修繕積立金の値上げは実行できないので、必要な工事が行われなくなってしまいます。
また、高齢者世帯の多いマンションなどでは、長年ずっと同じ人が管理組合の理事長を務めているケースもあります。多くのマンションでは、規約で理事の任期は1〜2年などと定められていますが、こういった規約がないマンションでは同じ人がトップに立ち続けても問題ありません。
しかし、ワンマン体制が続くと理事長が工事業者などと結託し、不要な修繕工事を発注する(住民のコスト負担が増える)などの問題が起きるケースも。ほとんどの住民が管理に無関心だと、知らず知らずのうちにこのような被害に遭うリスクもあるのです。
マンション管理へのリテラシーが多くの入居者に必要なワケ
マンション管理について勉強し、正しい知識を持っている人がいたとしても、それが一人だけだとあまりうまくいかないケースも見受けられます。
これも実際にあった話ですが、マンションを守るために必要だと信じて修繕積立金の値上げを提案した人(仮にAさんとしましょう)が、管理会社との癒着を疑われて、何者かに怪文書を回される事態になったという事例がありました。結果、Aさんは住みづらくなって他所へ引っ越す羽目に。
第三者の目から見ると、Aさんは何も悪いことをしていない、正論を唱えただけの被害者なのですが、そのマンションには管理に関心がなく、ただただ目先のランニングコストが増えることを嫌がる人がいて、Aさんを加害者と見なしたのでしょう。多数の無関心層を相手に孤軍奮闘するのは容易ではありません。
管理組合がうまく回っていて、住民の管理への関心も比較的高いマンションは、その雰囲気をリードするキーパーソンが複数人いるものです。あるいは、マンション管理士などの専門家を入れるのも有効です。専門家を招聘したり、勉強会を開いていたりするマンションは、管理に対する意識が比較的高いと考えられます。また、管理組合の総会の出席率が高いマンションもポイントは高いです。
マンション管理における「総会」の役割
多くのマンションでは総会の出席率が低いと言われており、マンションの規模が大きくなればなるほど出席者の割合は低下しがちです。総会は管理組合の最高意思決定機関であり、大規模修繕工事の実施や管理費などの値上げ、管理会社の変更、あるいは不採算設備の取り壊し、マンション自体の建て替えといった重要事項は、すべて総会での決議を経て決まります。
議決権を持っている区分所有者は全員参加が基本ですが、委任状及び議決権行使書を提出して不参加という世帯が大部分を占め、実際に参加する人は3割前後というのが平均的な参加率です。
総会に毎回参加しないということは、マンション管理に無関心である証拠です。総会に出れば、管理費や修繕積立金がどのように使われていて、今後収支をよくするためにどんなことができるのか、といった情報をキャッチできるので、おのずと管理に対する関心は高まります。そのため、すでに総会の出席率が高いマンションか、出席率を上げるための取り組みを積極的に行っているマンションがベターでしょう。
長嶋 修
さくら事務所 会長 らくだ不動産 顧問

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