●気持ちを整理するため…2日に分けて収録
女優の芳根京子が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、27日に後編が放送される「たどりついた家族4~戦火の故郷へ 母と子の決断~」。戦火のウクライナから日本にやってきた避難家族の3年を追った作品の第4弾だ。

気持ちを整理するため、前編・後編の収録を2日に分けて臨むほど心を込めて向き合い、シリーズに深く寄り添い続ける芳根が、視聴者として、ナレーターとして、ひとりの女性として、今感じていることとは――。

○「何も変わらない時間」が突きつける重さ

東京・東新宿に住む和真さん(35)・アナスタシアさん(22)夫妻のもとに、アナスタシアさんの母国・ウクライナから、母・マーヤさん(44)と年の離れた妹・レギナちゃん(6)、弟・マトヴェイくん(4)がやってきて、3年の月日が経った(※年齢は来日当時)。マーヤさん一家の故郷・ドニプロペトロウスク州にはいまだミサイルが撃ち込まれ、犠牲者が出ている状況だが、日本財団からの支援が終了するタイミングで、家族そろって帰国するべきかの決断に迫られていた。

「今回で4作目の放送になりますが、こんなにも長い時間が経ってもウクライナではまだ大変なことが起きていて…。私自身のこの3年と重ねると、“同じ時間”が流れているはずなのに、家族を取り巻く状況は何も変わらないという現実に、すごく苦しさを感じました」

インタビューの冒頭で芳根が口にしたのは、“時の非対称性”ともいえる感覚だった。自身は20代後半に入り、25歳から28歳へと年齢を重ね、主演を務めたドラマ『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ)も大いに話題となるなど、女優としても着実にステップを歩んでいる。一方、戦火を逃れてウクライナから日本にたどりついたマーヤさん一家の生活は、いまだ不安と葛藤の中にとどまり続けている。芳根は「何か言葉にしてしまうと軽くなる気がして…」と慎重に語りながらも、その視線は深く、鋭く、温かい。

○「視聴者のひとりとして」見守る

前編では、日本での生活になじみ始めた子どもたちに対して、母・マーヤさんが“帰国”を決断する姿が描かれた。現実の困難が判断を迫る中、それでも芳根は特定の「誰かの目線」ではなく、あくまでも「視聴者のひとりとして」見守っていたという。

アナスタシアさんと和真さんの言葉は、私も日本に暮らす立場としてすごく共感できるものでした。でも、それでも決めるのはマーヤさん自身。幸せって、人それぞれ違うし、たとえどんな選択であっても『無事でいてほしい』と祈るしかないんです」

マーヤさんが帰国を決断するに至った背景には、障害のある実の兄・ジェニャさんを、いまは亡き夫の老母に預けて故郷に残してきたことなど、いくつもの複雑な事情がある。「誰かを責めることも、正解を提示することもできない」――そんなドキュメンタリー特有の“余白”の部分に、芳根は常に心を置いてきた。

●子どもたちの成長に「少し安心も」
一方、レギナちゃんとマトヴェイくんという、2人の子どもたちの成長もまた、本シリーズの大きな見どころのひとつ。レギナちゃんは日本で3回目の誕生日を迎え、9歳になった。

「2人の日本語のイントネーションも、来日した当初と比べるとすごく自然で、ほぼ違和感がないくらい。子どもたちの順応性って本当にすごいなって思う反面、だからこそマーヤさんの焦りも伝わってくる気がしました。でも、彼らがのびのび過ごせたこの3年があってよかったと、少し安心もしました」

“避難民”という言葉の裏にある、家族の生活、子どもの日常、友達との関係。そうした“小さな幸せ”が、番組の中ではひとつずつ丁寧に描かれている。後編では、レギナちゃんやマトヴェイくんの学校の友人たちの母親とマーヤさんという、“ママ友”同士の交流もうかがえる。
○覚悟を持って臨む『ザ・ノンフィクション

ザ・ノンフィクション』のナレーターとしては“常連”とも言える芳根にとっても、本シリーズのナレーションは「覚悟」が必要だといい、今回も収録は前編・後編と、2日に分けて行われた。ドラマや舞台への出演が続いた芳根自身、過密なスケジュールを送る中で、心身を整えながらナレーションを通じて“現実”を受け止めていく。

「今回は特に、明るい言葉がなかなか出てこなくて…。それでも、これはリアルな話だから、受け止めないわけにはいかないですよね。最近は、以前に比べるとウクライナに関する報道が少なくなってきている中で、こうして『ザ・ノンフィクション』がこの家族に密着し続けていることは、すごく意義のあることだと思っています」

最後に、3年という歳月を共に見届けてきた立場から、今思うことを尋ねると、芳根は静かに、けれど強い言葉で答えてくれた。

「この先また、この家族の様子を知ることができるのかは分からないです。でも、やっぱり心配なんですよね。残された側の苦しさも描かれていて…。みんなの願いが1つになる日が、いつか本当に来てほしいなって、そう願っています」

わたしたちは、テレビの前で“ただ見守ることしかできない”――そんなもどかしさを抱えながら、芳根京子はまたひとつ、言葉にならない想いをナレーションに込めた。

芳根京子1997年生まれ、東京都出身。13年に『ラスト・シンデレラ』で女優デビュー。14年にNHK連続テレビ小説花子とアン』で注目を集め、15年『表参道高校合唱部!』でドラマ初主演。16年にはNHK連続テレビ小説べっぴんさん』でヒロインを務め、以降もドラマ『海月姫』『チャンネルはそのまま!』『半径5メートル』『真犯人フラグ』『オールドルーキー』『それってパクリじゃないですか?』『まどか26歳、研修医やってます!』『波うららかに、めおと日和』、映画『累 -かさね-』『居眠り磐音』『記憶屋 あなたを忘れない』『Arc アーク』『カラオケ行こ!』『雪の花 -ともに在りて-』などに出演する。

渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら
(渡邊玲子)

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