ストーンヘンジ image credit:Pixabay

 イギリス古代遺跡ストーンヘンジ」の巨石はどこからやってきたのか? この謎がついに解き明かされようとしている。

 新たな研究によると、紀元前3000年頃に建設されたとされるこの巨石構造の一部は、氷河などでなく、700kmも離れたスコットランド北東部から人力で運ばれてきたことが判明したという。

 このことは、当時の古代社会には壮大な建設プロジェクトを遂行するきわめて高度な組織力があったことのほか、ストーンヘンジが単なる天文・宗教施設などではなく、「ブリテン諸島の統一」のような象徴的な意味合いがあった可能性をも示唆している。

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この研究は『Journal of Archaeological Science: Reports[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352409X25003360?via=ihub#b0390]』(2025年7月14日付)に掲載された。

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ストーンヘンジの石は氷河ではなく人の手によって運ばれた

 ストーンヘンジの巨石はどこからもたらされたのか?

 このビッグミステリーに挑んだのは、英国アベリストウィス大学のリチャード・ベヴィンズ教授らだ。

 同教授らは、「ニューオールの岩(Newall boulder)」と呼ばれる、約100年前にストーンヘンジで見つかった岩石の化学組成や微細構造を詳細に分析した。

 すると、そこに含まれる「トリウム」や「ジルコニウム」といった元素の組成が、ウェールズ・ペンブルックシャー北部にある「クレイグ・ロス・イ・フェリン(Craig Rhos-y-Felin)」産の岩と一致することが明らかになった。

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 さらにクレイグ・ロス・イ・フェリン産の岩石に特有の「弾丸型」をした葉理構造の流紋岩(火山岩の一種)の形状が、ニューオールの岩にも見られることが確認された。

 それだけではない。「ストーン32d」と呼ばれる別の岩石を調べたところ、これまで「斑点状粗粒玄武岩(spotted dolerite)」とされていたこの石が、実はニューオールの岩と同じ葉理構造を持つ流紋岩であることが判明。どちらも同時期に同じ場所から運ばれた可能性が高まった。

 ストーンヘンジの石の出所については、当時の古代人の技術力ではとても運べなかったと思われたこともあり、氷河によって現場付近まで運ばれたものを利用した可能性が疑われていた。

 だが今回はっきりとニューオールの岩が切り出された場所が確認されたことで、氷河ではなく、ほぼ間違いなく当時の人間によって200km離れた場所から運ばれてきたことが明らかになった。

 氷河説を否定するもう1つの証拠は、ニューオールの岩の分析から、ストーンヘンジ周辺の白亜質の土壌に長期間埋まっていたことを示す「炭酸カルシウム層」が確認されたことだ。

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 仮にストーンヘンジの岩石が氷河によって運ばれたものだとすれば、遺跡の周辺で同じような風化パターンを持つ石が見つかるはずだが、今のところそのような発見はない。

[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352409X25003360]
ストーンヘンジで発見された「ニューオールの岩」。氷河ではなく人為的に運ばれたことを裏付ける特有の風化パターンが見られる/Bevins et al. 2025/ScienceDirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352409X25003360]

ブリテン諸島の驚異的な組織力と物流システム

 こうした発見は、ストーンヘンジの石材の起源が分かったというだけの話ではなく、当時の社会にはきわめて高度な組織力があっただろうことを窺わせるものだ。

 たとえば、ストーンヘンジの中心的な「アルター・ストーン(祭壇石)」は重さ6トンもある巨石だが、その産地が700km以上離れたスコットランド北東部であることが明らかになっている。

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 この巨石構造を作った5000年前の新石器時代の人々は、車輪も家畜も使えなかったにもかかわらず、そのような重量物を何百キロと運んだのだ。

 それを実現するには、各地で暮らすさまざまな部族や集団が一致団結しなければ到底不可能なことだ。

 なお、世界各地の先住民社会では、縄や木製のソリ、滑走路状の道具を活用して、何トンもの石を運搬した記録が残っており、ストーンヘンジも同様の技術を用いて築かれたと考えられている。

ウェールズ・ペンブルックシャー北部にある「クレイグ・ロス・イ・フェリン(Craig Rhos-y-Felin)」。ニューオールの岩はここで切り出された可能性が高い/Bevins et al. 2025/ScienceDirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352409X25003360]

ストーンヘンジは「ブリテン統一」の象徴だった?

 またそれはブリテン諸島に共通の文化意識があっただろうことも物語っている。

 これまでの調査では、クレイグ・ロス・イ・フェリンでは紀元前3000年ごろから採石が行われ、特定の岩が意図的に選ばれて運び出されていたことが分かっている。

 このことは、彼らに岩石に関する詳細な知識があり、単なる建築用石材として以上の価値を石に見出していた可能性を示すものだ。そしてそうした岩石を、多大な労力をものともせず、何百キロも離れたストーンヘンジまで運んだ。

 こうした背景を踏まえると、ストーンヘンジは単なる天文台や宗教施設ではなく、古代ブリテン島各地の人々を結びつける「統一のモニュメント」のような、何かもっと大きな目的のためのものだった可能性すらある。

ストーンヘンジ image credit:Pixabay

古代ブリテン人の知恵と団結の証

 ベヴィンズ教授らは、今回の研究により「氷河説」は95%の確率で否定され、ストーンヘンジの巨石はほぼ確実に人の手によって運ばれたと結論づけている。

 この古代遺跡が具体的にどうやって、そして何のために作られたのかについては、まだ未解明の部分が多く残されている。

 とはいえ、これまでに発見された証拠は、ストーンヘンジが、古代ブリテン人の知恵と団結の証であるということを強く示唆している。

References: Sciencedirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352409X25003360?via=ihub#b0390] / Stonehenge Mystery Solved: Ancient Britons Transported Massive Boulders 450 Miles[https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/stonehenge-stone-transport-0022288

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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