東京、新宿歌舞伎町。日本最大の歓楽街として知られるこのエリアで、10年にわたり「夜の世界」に向き合ってきた弁護士がいる。

若林翔弁護士は、風俗業やホストクラブ、スカウト業など、いわゆる「夜の経済圏」に生じるさまざまな法律問題に対応してきた。

華やかな街の裏側に潜むトラブルの実情、そして法規制の変化がもたらす現場の揺らぎについて話を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)

●多岐にわたるトラブル、法律の支援が命綱

「本番行為を強要された」「客とトラブルになった」「誹謗中傷をネットでばらまかれた」──。

歌舞伎町の現場では、こうした法律トラブルが日常的に起きている。

若林弁護士のもとには、風俗店の経営者やホストクラブ関係者、スカウト業者などから、幅広い相談が寄せられる。中には、店舗展開や買収交渉といったビジネスの拡大に関わる支援もあるという。

歌舞伎町で働く人の中には、尊敬できる魅力的な経営者も多い」と若林弁護士は語る。

持ち込まれる相談の中には、常識では測れないような複雑で、個性的なケースも少なくない。そうした現場に立ち会うことで、弁護士としての仕事の奥深さと面白さを実感するという。

●改正風営法で揺れる業界

6月28日から一部をのぞき施行された改正風営法は、夜の業界に大きな衝撃を与えた。

とりわけ影響が大きいのは「色恋営業」や「スカウトバック」に関する規制強化だ。さらに、11月28日から不許可事由の追加も予定されており、グループ店舗のうち一店でも違反が見つかった場合、系列店全体の営業許可に影響する可能性がある。

経営者たちのあいだで大きな懸念が広がっているという。

「突然の制度変更で、準備も不十分なまま現場が対応を迫られています。歌舞伎町のホストの看板などの広告規制においては、まずは"指導"から始まり、段階的に"指示処分"や"営業停止"に至る運用にはなっていますが、それでも混乱は大きいです」

求人面でも厳しさは増しているそうだ。これまでスカウトに依存していた地方の店舗は、自社採用への転換を迫られているが、手法によっては職業安定法違反に問われかねないという。

●小説より衝撃的な「リアル」

歌舞伎町という街の複雑さと、そこに生きる人々のリアルを少しでも伝えたい」

そうした思いから、若林弁護士は今年6月、『歌舞伎町弁護士』(小学館新書)を出版した。自身が関わってきた事件をもとに構成されており、実在の人物が特定されないよう細心の注意を払って執筆されている。

この中では、実際に担当した詐欺事件のひとつが紹介されている。

加害者グループは、繁華街で被害者に女性をアテンドし、まるで交際関係にあるかのような状況を演出。信頼を深めて金銭を引き出し、最終的には被害者が相続した不動産まで奪っていったという。

登場人物の悪質さや手口の巧妙さなど、小説よりもリアルで衝撃的なことが実際に起きている。だからこそ、現場のリアルを伝えたかった」と若林弁護士は語る。

歓楽街の「活気」を守るために

トラブルの渦中にいる人ほど、「弁護士に相談するなんて大げさ」と考えがちだという。しかし、自己判断で対応し、事態がこじれるケースは少なくない。

「法律を知っていれば防げるトラブルは多い。頼ってもらえれば、その人にとって最善の方法を一緒に探せる。頼ってもらって、いい結果が出せたときには、こちらも本当に嬉しいし、やりがいを感じます」

若林弁護士は、歓楽街の未来についてこう語る。

「これからも歌舞伎町が活気ある場所であってほしい。誰もが安心して楽しめる街であるために、健全な運営と法の支援が不可欠です。自分にできることを、これからも続けていきたいですね」

【取材協力弁護士】
若林 翔(わかばやし・しょう)弁護士
顧問弁護士として、風俗、キャバクラホストクラブ等、ナイトビジネス経営者の健全化に助力している。また、店鋪のM&A、刑事事件対応、本番強要や盗撮などの客とのトラブル対応、労働問題等の女性キャストや男性従業員とのトラブル対応等、ナイトビジネスに関わる法務に精通している。
事務所名:弁護士法人グラディアトル法律事務所
事務所URL:https://www.gladiator.jp/fuzoku-komon/

法規制で揺れる「夜の世界」、歌舞伎町弁護士が見たリアル「小説よりも衝撃的だった」