テレビの情報番組やSNSのインフルエンサーが取り上げたことで、飲食店の人気が急に爆発することがあります。

飲食店にとってはうれしい出来事かもしれませんが、近所の人にとっては「迷惑駐車」や「騒音」「ゴミ捨て」などの問題に発展するかもしれず、受け入れられないこともあるようです。

弁護士ドットコムの相談者によれば、テレビ取材を受けた蕎麦屋が満員御礼の大繁盛となり、「満車になった蕎麦屋の駐車場にあふれた不法駐車が後を絶ちません。私の家の庭に勝手に停められます」と悩んでいるそうです。

この相談者は「蕎麦屋を訴えたい」と考えています。思わぬ盛況による無断駐車や迷惑行為の責任は誰が負えばよいのでしょうか。トラブル解決の手段について、大橋賢也弁護士に聞きました。

●弁護士「客の迷惑行為に関して蕎麦屋に過失があるとは言いがたい

──私有地を“臨時駐車場”にされたと悩む相談者は蕎麦屋を訴えることはできますか。それとも無断で駐車したドライバーを訴えるべきでしょうか。

たとえば蕎麦屋が相談者からの申し入れを無視して、客による無断駐車などの迷惑行為を黙認し続けているような状況でもなければ、蕎麦屋を訴えることは難しいでしょう。

近隣住民が客の無断駐車を理由に蕎麦屋を訴えるとすれば、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を行使することになります。そのためには、客の迷惑行為について、少なくとも蕎麦屋の過失が認められなければなりません。

蕎麦屋は、テレビ取材の結果、満員御礼の大繁盛となり、店の駐車場ではおよそ入りきらない台数の車が近隣に来ていることまでは認識できるでしょう。

その上で、客が近隣住民に無断駐車などの迷惑行為をしないようにする義務まで蕎麦屋に生じるかといえば、なかなか難しいと思います。

つまり、蕎麦屋は原則として、客の違法行為を防止する義務まで負わないと言え、したがって、蕎麦屋の過失は認められず、近隣住民が蕎麦屋に損害賠償を請求することは難しいでしょう。

●基本的には違法駐車するドライバーを訴えるほかない

もっとも、相談者が苦情を何度も申し入れたのに、蕎麦屋が無視し続けて何ら対応しなかった場合には、蕎麦屋が客の違法行為を防止しなかったことについての「過失」が認められる可能性が出てくるはずです。

ただし、これはあくまで可能性の問題です。原則的には、蕎麦屋は、客という第三者の違法行為を防止する義務までは負わないと考えられるので、相談者が蕎麦屋に損害賠償請求することは難しいでしょう。

したがって、相談者としては、違法駐車をするドライバーを訴えるほかないと思います。ただ、相談者はドライバーの氏名・住所を調査しないといけません。この作業はなかなか大変です。

●蕎麦屋に注意書きの掲示を求める

──蕎麦屋には具体的にどんな対策を求めていけばよいでしょうか。

蕎麦屋が何の対策もしていなかったら、相談者は蕎麦屋に対して「店の駐車場以外の場所に駐車しないようにして欲しい」という注意書きを店に貼ったり、車で来た客に不法駐車をしないようにアナウンスして欲しいと提案してみてはどうでしょうか。

【取材協力弁護士】
大橋 賢也(おおはし・けんや)弁護士
神奈川県立湘南高等学校、中央大学法学部法律学科卒業。平成18年弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。離婚、相続、成年後見、債務整理、交通事故等、幅広い案件を扱う。一人一人の心に寄り添う頼れるパートナーを目指して、川崎エスト法律事務所を開設。趣味はマラソン
事務所名:川崎エスト法律事務所
事務所URL:http://kawasakiest.com/

テレビに出た蕎麦屋が満員御礼も…「民家の庭に迷惑駐車」 住民は蕎麦屋を訴えることはできるか