近年、中小企業の事業承継問題が深刻化するなか、新たな選択肢として「M&Aマッチングプラットフォーム」が注目を集めています。これまで敷居が高かったM&Aを、より手軽かつ実用的に活用できる仕組みが誕生し、中小事業者や個人にまでその裾野が広がりつつあります。本記事では、現場経験と経営実務に精通したM&A支援の専門家へのインタビューをもとに、公認会計士税理士の岸田康雄氏が税理士の役割、スモールM&Aの可能性、そして地域経済を支える新しい承継モデルについて掘り下げます。

税理士が果たすM&A支援の3つの役割

実務に裏打ちされた“現場感覚”から見たM&Aの進化

あるマーケティング担当者は、2005年より大手M&A仲介会社で経験を積み、2013年には自身でマッチングプラットフォームを立ち上げた経歴を持ちます。自身も事業売却を経験した“実践者”であり、現在は全国の会計事務所と連携してリアルな事業承継ニーズに応える仕組みを展開しています。

中小企業のM&Aにおいて、税理士が果たせる役割は主に次の3つに分類されます。

・仲介者としてM&A業務を担う

・顧問先からニーズを引き出し、初動を支援する

・バリュエーション(企業価値算定)やデューデリジェンスなど専門領域を担う

税理士は、日々クライアント企業の財務や経営者の健康状態まで把握しており、事業承継の自然な“入口”となれる存在です。

「高額手数料」は過去の話…スモールM&Aの報酬設計

従来、M&Aといえば「手数料1,000万円以上」が当たり前というイメージがありました。しかし、いまでは報酬体系の見直しが進み、200万円前後から対応可能なケースも増えています。

たとえば、うどん店1店舗のような小規模案件では、数千万円の報酬は非現実的でも、200万円程度なら現実的。こうしたニーズに応える報酬設計が、地域密着型M&Aの普及を後押ししています。

チャット」が実現する、手軽で全国対応のM&A

そこで注目されるのが、オンラインマッチングプラットフォームの存在です。

チャット形式で売り手と買い手が気軽にコミュニケーションでき、初期段階のニーズを効率的に掘り起こせる仕組みになっています。さらに、全国対応が基本となっており、北海道から沖縄まで、場所を問わず利用可能です。

地域の会計事務所や士業との連携を前提にした運営体制が、小規模事業者に対してもきめ細やかなサポートを可能にしています。

スモールM&Aは、地域経済を救う“次世代の承継モデル”

現在、日本では小規模事業者の廃業が社会課題となっています。その一因が「承継コストの高さ」です。

こうした背景のなか、スモールM&Aは、事業者の希望と買い手のニーズをマッチングさせ、廃業を回避する新しい仕組みとして注目されています。合理的な手続きと、適正な報酬設計があれば、1,000万円単位の報酬を支払えない企業でもM&Aは十分に可能です。

これは、中小企業の“命綱”ともいえる仕組みになりつつあります。

会計事務所向け講座で学べる実務スキル

M&Aに対して不安を感じる会計事務所向けに、実務研修も提供されています。

マニアックな内容まで網羅した構成で、初心者から実務家まで段階的に学べるのが特徴です。加えて、メルマガやブログなどで定期的な情報発信も行っており、実務支援と知識習得の両輪で中小企業をサポートする体制が整えられています。

「M&Aは大企業だけのものじゃない」…誰もが可能性を広げられる時代へ

M&Aはもはや大企業だけのものではありません。

地方のラーメン店、うどん店、カフェなど、小規模事業を引き継いで“第2のキャリア”をスタートする個人も増えています。たとえば「引退後に飲食店を開きたい」といった夢も、M&Aを活用すれば現実的な選択肢になります。

法人でも個人でも、興味があればまずは相談すること。それが、第1歩につながる時代になったのです。

今回取り上げたM&Aプラットフォームは中小企業の事業承継に新たな選択肢をもたらしています。

「高額で複雑」という従来のイメージを覆し、低コストかつ実践的な支援が可能に。今後の日本において、スモールM&Aと専門家の協働は、地域経済と雇用を守る要となっていくでしょう。

岸田 康雄

公認会計士税理士行政書士宅地建物取引士中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

(画像はイメージです/PIXTA)