
一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクター・家村均氏が現地から最新状況を解説するフィリピンレポート。今回は、低調な相場が続く中でも投資家から熱視線を集めるフィリピン株式市場の動向に加え、堅調な成長を見せる製造業投資の拡がり、その背後にある経済基盤の強さについて、紐解いていきます。
市場の動向と回復の可能性
フィリピン株式市場(PH equities)は、2023年半ばからの1年以上にわたり、マーケット用語で「アパシー(無関心)」と表現される状態が続いています。代表的な株価指数であるPSEiは、外国人投資家の買いによって6,500ポイントを回復したものの、市場全体のセンチメントは依然として慎重です。現状、1日あたりの売買代金は50~60億ペソと低水準にとどまり、指数は6,000〜6,700ポイントの狭いレンジで推移しています。資金フローも限定的で、リスク回避の傾向が強く続いています。
過去にも同様のアパシー期が見られました。たとえば、2015~2016年(米国利上げ懸念、中国経済減速、フィリピン国内選挙前)は15カ月間、2018~2019年(インフレ上昇、フィリピン中央銀行の利上げ)は12カ月間、そして2021~2022年(米利上げ、ロシア・ウクライナ戦争)は9〜12カ月間続きました。これらの期間の後には、それぞれ45%、20%、40%の市場反発が見られました。
次なる回復のきっかけとなる要因としては、マクロ環境の改善(中央銀行による利下げ、ペソの安定、インフレの沈静化)、外国人資金の再流入(新興国リスクの見直しや割安なバリュエーションの評価)、企業収益の上振れ(指数構成企業による業績上振れや消費・インフラ関連の回復)、政策面での前向きな改革(証券取引税の引き下げ、ゲーミング業や税制の整理、インフラ整備の推進)、そして投資対象セクターの明確化(銀行、インフラ等への資金循環)が挙げられます。特にこれまでの回復パターンでは、大きな材料が出た後に10〜15%の短期リバウンドを経て、外国人投資や企業業績の改善が連動することで、30〜40%の持続的な上昇が見込めるとされています。
フィリピン市場は依然として様子見ムードが強いものの、過去のアパシー期の傾向を踏まえると、徐々に底入れと反発の可能性が高まっていると考えられます。今後の注目点は、外部マクロ環境と企業業績の回復のタイミングにあります。好材料次第では、過去のような大幅な反発も期待できる局面に差し掛かっていると言えるでしょう。
製造業の堅調な動き
フィリピン投資委員会(BoI)は現在、合計335億4,000万ペソに及ぶ30件の製造業プロジェクトの申請を審査しています。これらのプロジェクトが実現すれば、1,668人の雇用が創出される見込みです。
今年1月から6月までに、BoIはすでに14件の製造業プロジェクトを承認しており、これらの投資額は合計266億3,000万ペソで、前年同期の100億5,000万ペソから165%以上の大幅な増加となりました。これらのプロジェクトからは5,725人の雇用が生まれると見込まれています。
貿易産業大臣でありBoI議長であるロケ氏は、「製造業の安定した成長と投資家の信頼回復が、フィリピン人の雇用機会を拡大する土台になっている」と述べました。フィリピン統計庁(PSA)のデータによると、2025年5月の製造業生産量は前年同月比で4.9%増加し、これは過去10カ月で最も高い伸びを記録しました。特に食品加工分野は15.7%と大幅な伸びを見せており、輸送機器の製造も13.5%増となりました。このことから、フィリピン国内の経済活動と雇用創出が加速していることが示唆されます。
さらに、S&Pグローバルが発表したフィリピンの製造業PMI(購買担当者指数)は、6月に50.7を記録し、5月の50.1から上昇。拡大基調を維持しています。一方で、トランプ大統領による米国の関税が、フィリピンの輸出に悪影響を与える可能性も指摘されています。そのため、輸出依存型の投資は、販売、在庫、設備計画における不透明感から、より慎重な姿勢を強いられる可能性があります。
しかし、フィリピンは国内消費がGDPの約75%を占める消費主導型経済であり、人口ボーナスなどの人口動態の強みと高い経済成長率が、外国企業にとって「自立的な販売市場」としての魅力を保ち続けています。
製造業への投資が活発化する中で、食品や輸送機器など特定分野の成長性が際立っています。個人投資家としては、これらの動向が関連セクターの上場企業、不動産、物流インフラへ与える波及効果に注目することで、中長期的な成長機会を投資につなげるチャンスが広がると考えられます。国内消費の強さに支えられた安定成長は、投資の追い風となるでしょう。

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