大切な人と信頼関係を築くにはどうすればいいのか。1000人以上から人生相談を受けてきたライターのいずみさんは「相手を知ることと、あえて知らないでいることのバランスが大切だ。居酒屋で『唐揚げレモンかけていい?』という問いかけには、味の好みを尋ねる以上の意味がある」という――。

※本稿は、いずみ『私、このままでいいのかな』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■人間関係の構築は「弱火でじっくり」

昔、バイト先のシェフに「中まで火を通すときは弱火でじっくり、火を通したくないときは強火で一瞬!」と教わって、「強火こそが火を通す手段」だと妄信していた料理下手の私の常識が覆されたのですが、じつは人間関係もこれと同じなのではないかと思います。

上辺だけの関係なら、その場しのぎの強火でグイグイ押せばまあなんとかなりますが、本当にその人と信頼関係を築きたいなら、継続できない強火でグイグイ加熱するより、弱火でじっくりのほうが焦げずに中まで火が通ります。

■継続は信頼関係の大きな力となる

その人と仲よくなりたいと思ったとき、年単位で続けられないことは最初からやらないほうが信頼されます。たとえば友達に1万円のプレゼント(強火)を贈って、次の年に1000円のプレゼント(弱火)を贈るくらいなら、10年間1000円のプレゼント(弱火)を贈り続けるほうがいい印象になるような気がします。

最初の頃は24時間体制で連絡を取り合っていたのに、途中から2日以上返信が来ないことが増えてくる人よりも、出会いたてから今までずっと、1日経てば大体返信が来る人のほうがよっぽど信頼できる気がします。

継続は信頼関係作りの大きな力となります。逆に中止や減少は信頼関係の亀裂となることも多いものです。

しかし大人になると、仕事の都合などで継続が難しいときもあるでしょう。たとえばいつも1日1通メッセージのやり取りをしていたけれど、今月は繁忙期で連絡ができなさそう……とか。

そういうときは、「今月、連絡が遅くなること増えるかも」と伝えたり、あくまで自分の希望として「この先連絡できなくなるときは教えてね」と言っておいたりするのがおすすめです。事前に対策を決めておけば、ピンチになっても絆が深まります。

■人間関係には「放置時間」も必要

家族、恋人、親友など、近い関係になるほど分かり合うことを急ぎすぎてしまうことがよくあります。子どもの様子が気になって連絡しまくる親、恋人の様子が気になって着信履歴を10件以上残す人、親友が秘密を話してくれるまでしつこく「教えて」コールをする人など……。

たしかに、そういう一押しが必要な瞬間もあるとは思います。でも分かり合おうとして焦って動くより、放っておくほうが逆にいいなんてこともよくあります。しかも、放っておくだけで、うまくいくのだから不思議です。

連絡が来ない、なかなか会えない、分かり合えない。そういうときに焦って動きすぎないで、まずはいったん置いておく。長年の恋人だろうが、血の繫がった家族だろうが、苦楽をともにした親友だろうが、すべては分かり合えないし、結局どこまでいっても他人です。「全部、今分かろう!」なんて欲張らなくていいです。

だから、そんなときには相手を無理に正そうとしたり、分かろうとしたり、駆け引きしたりしないで、自分に集中するのがおすすめです。

■「近づきすぎ」はかえって人間関係を壊す

こちらが分かりたくても、相手はまだ共有したいとは思っていないかもしれませんし、相手には相手のタイミングがあるものです。まずは自分のことを一所懸命やりましょう。そのうちに時間が過ぎて、勝手に相手が心を開きたいタイミングになっていることもあります。お互いに分かり合う準備さえできれば、スッと繫がれます。

他人への近づきすぎによって人間関係が壊れるのは、自分のことがおろそかになっているサインです。「自分に集中する」とは、好きな自分でいるために今日何をするか、明日をどう過ごすか考え、実行することです。自分をしっかり見つめ直して自分の面倒を見てあげると、他人との関係もよくなります。

■「唐揚げにレモンいい?」は愛情表現

仲よく楽しい人間関係を作るうえで意外と大事になるのが「知る・知らぬ」のバランスです。

仲よくなり始めの頃は「知る」のエンジンをかけるのが大事です。

たとえば居酒屋で「唐揚げレモンかけていい?」と味の好みを聞くとか、「電話かけたいけど、23時だと寝てる?」と生活に配慮するとか、「家まで送りたいけどイヤじゃない?」と気持ちを確認するとか。

決めつけないで「私と考えが違うかも」「イヤな思いをしないかな?」「喜ばせる方法は合っているかな?」と相手を「知ろうとする言葉」は、相手と心地よい関係になるうえで大事な柱になっていきます。

もっというと、唐揚げレモンをかける派かどうかはどうでもよくて、相手に「この人はそういうの聞いてくれるんだな」「私のことを考えてくれているんだな」「この人になら話しても大丈夫そう」と安心してもらうために質問するのです。「この人なら心を開けるかも」と思えるのは、その相手が「知ろうとする優しさ」を通してあなたに愛を伝えてくれた人だからだと思います。

■アクセルとブレーキをうまく使い分ける

一方で、恋人や家族などすでに身近な人の場合は、「知る」にブレーキをかけて「知らぬ」を作るのも大事です。恋人や家族だからこそ親密になりたいものですが、会いすぎ、知りすぎ、踏み込みすぎなど「近づきすぎ」でダメになることは多いです。

子どもの日記を読むとか、恋人のスマホを勝手に見るとか、マイナスはあってもプラスになることはありません。心配で人を支配しても、いい関係は築けません。相手のことを考えて不安になるのは、相手のせいではなく「思い通りにしようとしている自分が原因」だと気づいたところからが人生の本番です。

長く一緒にいるからこそ「秘密があってもいい。言ってもいいし、言わなくてもいい。この世を去るその日まで私たちはいつでも話せるからね」と、今すぐ全部を知ろうとしない愛もあるのです。

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いずみ ライター/ブロガ
自分らしく振る舞いながら、自分にも他人にも愛される生き方をSNSで発信。これまで受けた相談は1000件以上。マッチングアプリで出会った夫と元気な息子と楽しく暮らしている。趣味は山登り

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Burak Fatsa