国鉄形気動車の「王国」JR九州でも世代交代が進み、「長崎・佐賀地区は全て刷新」と発表されています。ただ、その“例外”となっている路線では、国鉄形が強みを生かせる「聖域」でもありました。

長崎・佐賀地区からキハ退役、でも「例外」が

 昭和時代の面影を残し、鉄道愛好家の強い支持を集める国鉄時代登場のディーゼル車両が多く残る「国鉄形気動車王国」のJR九州でも、世代交代が進んでいます。JR九州ディーゼルエンジンと蓄電池を併用したYC1系を2025年7月1日に長崎・佐賀地区で7両追加導入し、国鉄時代から活躍してきたキハ47形を置き換えました。

 YC1系は円形の前照灯に加え、先頭部の外周にも無数のLED(発光ダイオード)が埋め込まれており、それらが白色に発光すると「イカ釣り漁船」と呼ばれるほどの明るさになります。

 JR九州関係者によると、車両更新の背景にはキハ47形の老朽化が進んできたことや、整備に必要な部品の調達が難しくなっていることがあります。同社は今回の置き換えにより「長崎・佐賀地区ではYC1系車両が59両体制となり、国鉄から使用してきたキハ47形気動車車両は全て新型車両に刷新」とアピールしました。

 ただし、一部例外があります。

 キハ47形を置き換えるのは長崎本線の長与経由の旧線を含む江北(佐賀県江北町)―長崎間、佐世保線(江北―佐世保)、大村線(早岐―諫早)ですが、キハ47形などを改造したD&S列車「ふたつ星4047」は残ります。

 そして、佐賀県内の一部線区も置き換えの対象外となり、引き続きキハ47形が主力車両として活躍しています。筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)がそんな「聖域」を訪れて乗車したところ、国鉄形気動車が持つ強みを再発見しました。

ド派手に装飾しちゃってるキハ47

 キハ47形が主力車両として活躍しているのは、西唐津駅佐賀県唐津市)と久保田駅佐賀市)のあいだ42.5kmを結んでいる唐津線です。電化した西唐津―唐津間(2.5km)を除くと非電化の単線で、久保田から長崎本線に乗り入れ佐賀駅まで直通運転しています。

 高架駅の唐津で出発待ちをしていた佐賀行き列車はキハ47形と、JR九州が発注した両運転台車両のキハ125形を連結した2両編成。奇遇にも連結したキハ47-8157とキハ125-4は、どちらも筆者が2019年に唐津線で乗った車両でした。

 白い車体に青い帯が入ったキハ47形、黄色いキハ125形、これらにはド派手な装飾が施されています。

ははーん、ただのラッピング車両じゃないな

 これらはスクウェア・エニックスのロールプレイングゲーム(RPG)「サガ」シリーズと佐賀県が組み、佐賀県観光客を呼び込むコラボレーション企画「ロマンシング佐賀」のラッピング広告車両です。

 シリーズ作品に名付けられた「ロマンシング サガ」と引っかけてロマンを感じさせる佐賀をアピールしており、車体にはゲームの登場キャラクターが佐賀市の嘉瀬川河川敷で毎年秋に開かれる「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」を訪れる様子などが描かれています。

 ラッピング広告は唐津線筑肥線の山本(唐津市)―伊万里間を走る唐津車両センター所属のキハ47形とキハ125形に施され、2022年10月に運行が始まりました。JR九州関係者は「『サガ』シリーズのファンが乗りに来るなど大きな反響がある」と説明します。

 この話を聞き、筆者は良い意味でしたたかな佐賀県の戦略を垣間見ました。

 唐津線の唐津―久保田間は2023年度の平均通過人員(旅客輸送人キロ÷営業キロ÷営業日数)が1861人/日で、JR九州は「当社が目安としている2000人/日をやや下回っているものの、このまま存続できるレベルに達している」と見なします。

 一方、唐津線に直通する筑肥線の唐津―伊万里間は23年度に224人/日と、JR九州の線区別で下から4番目。「伊万里と唐津の往来が少なく、途中駅と伊万里または唐津の間でぽつぽつ利用されているだけ」(地元関係者)なのが実情です。

 佐賀県側が実施している「ロマンシング佐賀」のラッピング広告は、観光客を含めた利用促進につながるだけではなく、2023年度の営業損益が3億9400万円の赤字だった唐津―久保田間、1億5700万円の赤字だった唐津―伊万里間の一部を事実上補填して地元の足を守る一石二鳥の効果が期待できます。題材のゲームさながらの緻密な攻略法に感心しました。

「もう着くの?」と聞き返したくなる駅とは

 乗り込んだキハ47には背もたれが直立したボックスシートが並び、天井には扇風機が健在で、昭和時代の雰囲気そのままです。「グオーン」という重厚なディーゼルエンジンの音を響かせながら出発し、5分後に到着した鬼塚駅(唐津市)は目の前を松浦川が雄大に流れています。

 次の山本は筑肥線の伊万里方面との乗換駅で、この先で不思議な現象が見られます。約4kmの並走区間には本牟田部(ほんむたべ)駅があるものの、プラットホームがあるのは唐津線だけ。筑肥線の伊万里行きの列車は本牟田部の横を素通りして勾配を上がり、唐津線をまたいで西南方面へ向かいます。

 唐津線は本牟田部を出発後、「もう着くの?」と思わず聞き返したくなる車内放送が流れます。「次はおうち」という声が響くのです。漢字表記は「相知」です。

 相知の2駅先にも難読駅名の「厳木」があり、「きゅうらぎ」と読みます。駅の隣接地には、唐津線1973年まで走っていた蒸気機関車(SL)に水を補給していたれんが造りの給水塔が残っています。2026年で建てられてから100年を迎える貴重な産業遺産です。

キハ47の方が「絶対に優れている」場面に遭遇

 青々とした田園風景を抜け、のんびりした雰囲気が漂う車内が一変したのは久保田の1駅手前の小城駅(佐賀県小城市)でした。近くにある小城高校の生徒らが乗り込むと、2両編成の列車は大都市圏満員電車も顔負けの混雑状態になりました。

 混雑して実感したのが、キハ47形の輸送力の高さです。筆者が乗車していたキハ47形8000番台はトイレが付いていても1両の定員が123人あり、同じくトイレが付いたYC1系100・200番台を11人上回ります。座席定員もキハ47形のほうがYC1系よりずっと多く、利用者にとって好ましい車内レイアウトキハ47形に軍配が上がります。

 唐津を出て1時間余りで終点の佐賀に到着。キハ47形に揺られた旅路は「ロマンシング佐賀」と呼ぶのにふさわしい魅力がありました。

 ただ、JR九州YC1系の導入を中心とする「次世代車両の新製」のため2024年度に約15億円を投じたのに続き、25~30年度は計約110億円を投資する計画で、JR九州幹部は「国鉄形のキハ47形と、(両運転台の)キハ40形は順次更新される」と明言します。これは機関換装した形式であるキハ140形とキハ147形も含める認識です。

 唐津線を走るキハ47形も例外ではありませんが、沿線に広がる山村風景にうまく溶け込むのがキハ47形の性(さが)だけに少しでも長い活躍を願っています。

筆者が乗ったキハ47-8157の2019年の姿。「ロマンシング佐賀」の車体広告はなく、キハ47形同士で連結されていた(大塚圭一郎撮影)