
就職活動では、オンラインで履歴書を提出するケースが増えていますが、一部の企業やアルバイトの応募では、いまだに紙の履歴書の提出が求められることもあります。
そうした中、X(旧ツイッター)では、不採用だったときは「履歴書を返してほしい」という内容の投稿が話題になり、13万件以上の「いいね」がつくなど、多くの共感を集めました。
その背景には、「履歴書やクリアファイル、証明写真撮影にもけっこう費用がかかっている」という事情や、「個人情報がきちんと破棄されているかわからない」といった不安があるようです。
では、企業は履歴書をどのように扱うべきなのでしょうか。法律上のルールや返却の義務について、中村新弁護士に聞きました。
●履歴書は「個人情報」に該当する──アルバイトや就職の応募で提出された履歴書について、企業はどのように取り扱うべきでしょうか。
履歴書には、氏名、住所、学歴・職歴など、特定個人を識別しうる情報が含まれており、これらは個人情報保護法の「個人情報」に該当します。
そのため、履歴書を受け取った企業は「個人情報取扱事業者」として、個人情報保護法に基づいて適切に管理をする必要があります。
まず、個人情報を取得した際には、あらかじめその利用目的を公表していない限り、すみやかに本人に利用目的を通知しなければなりません(個人情報保護法21条1項)。
したがって、企業としては、採用ページなどに「履歴書に含まれる個人情報は、選考判断や応募者への連絡に利用します」と利用目的を明記しておくことが望ましいです。
また、企業が取得した「個人データ」を第三者に提供する場合には、原則として本人の同意が必要です(同法27条)。たとえば、グループ企業間で情報共有する場合には、あらかじめ同意を得ておいたほうが安全です。
●不採用者の履歴書は「消去」の努力義務──では、不採用となった応募者の履歴書については、どのように取り扱うべきでしょうか。
企業は、採用選考が終了し、不採用者の個人情報を利用する必要がなくなった場合、すみやかに個人データを消去するよう努力する義務があります(同法22条)。
個人データを必要以上に長期間保有していると、漏えいなどのリスクが高まります。したがって、企業としては「採用選考終了後◯日以内に履歴書や関連データを廃棄または消去する」といったルールを設けておくほうが望ましいでしょう。
なお、採用内定者の履歴書に含まれる個人情報は、入社時まで保有しておく必要がある場合がありますが、そのような場合も「入社後(もしくは内定辞退後)◯日以内に廃棄または消去する」というルールを設けておいたほうが安全です。
入社後は、新たな人事データに置き換えることになります。
●企業に履歴書の「返却義務」はない──履歴書の返却を求められた場合、企業には返却の義務があるのでしょうか。
企業には、提出された履歴書を返却する法的義務はありません。
ただし、小規模な会社などでは、返信用封筒が同封されている場合に限って、個別対応として返却に応じることもありうるでしょう。
とはいえ、返送中の誤配などのリスクもあるので、やはり、あらかじめ「履歴書は返却しません」と採用ページに明記しておくほうが無難です。
そのうえで、必要がなくなった履歴書はすみやかに廃棄または消去することが適切な対応といえるでしょう。
【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。2023年4月より東京労働局労働関係紛争担当参与。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/

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