家計管理の方法は家庭によってさまざま。どれがベストとは一概に言えませんが、「夫だけが管理」「妻にお任せ」など夫婦の片方に家計管理が偏っていると、想定外の事態に発展することも。事例と共に見ていきましょう。

妻の静かな告白「あのね、実は……」

地方都市で働く営業職の友野さん(仮名・53歳)は、20年連れ添った妻・英子さん(51歳)と高校2年生の息子と暮らしています。仕事は多忙で、持たされている目標も高く胃が痛む毎日。しかし、友野さんはひたむきに働いていました。

息子は大学進学を目指して受験勉強の真っ最中。これまでは地元の公立に通っていましたが、大学からは私立になる可能性が濃厚。合否次第では地元を離れて一人暮らしになる可能性も。まさに「教育費の本番」がやってくる直前でした。

そんなある晩、夕食を食べ終えた友野さんに向かって、英子さんが改まった表情で口を開きました。

「ちょっと話があるの。……大学の費用、足りないかもしれない」

静かだけれど深刻なその一言。ですが、友野さんは最初、冗談だと思ったといいます。家族は普段、特別贅沢をしているわけではありませんし、年収800万円の稼ぎで問題なく暮らせていると思っていたからです。

友野さんが絶叫した日

友野さんは元々お金の管理が苦手なタイプ。独身時代も「気づいたら残高がない」ということが多く、浪費というより意識のなさから貯金ができない性格でした。

自分がお金を持っていたら生活していけない。そう思った友野さんは、結婚当初から家計の管理はすべて英子さんに任せてきました。自分は毎月のお小遣いとして5万円をもらい、後はすべて妻任せです。それでも息子を大学に行かせるぐらいのお金は貯まっているはず。当たり前にそう考えていました。

一方の英子さんはというと、一見、几帳面でしっかり者に見えるタイプ。ところが結婚するまでは実家暮らしで、家に月2~3万円を入れた上で月15万円以上を自分のためだけに自由に使ってきたという過去がありました。

その金銭感覚は、結婚後も完全には抜けきっていませんでした。例えば、美容院でのカット・カラー・トリートメントは毎月のルーティン。年齢的な悩みもあり、エイジングケアの化粧品や健康サプリメントにも、気づけば毎月数万円。さらに、ママ友とのランチやちょっとしたプレゼントのやりとり、季節ごとの服やバッグの買い替えなど。

「若いママが周りには多いので、浮かないように綺麗にしていなきゃと思って」

後に、そう語った英子さん。さらに、住宅ローンや車のローン返済があるほか、旅行やお出かけなどのレジャー費、外食費、衣料費……。生活費も想像以上にかさんでいました。

こうしたお金は「家族のためのお金だから」と見直しをせず、支出を続けてきた結果、貯蓄がほとんど貯まらないまま今に至ってしまったのです。

しかし、息子の大学進学という現実は待ってくれません。第一希望の大学のパンフレットに書かれた学費を見て、妻はようやく事態の深刻さに気付きました。そして、告白してきたというわけです。

英子さんから友野さんに渡された通帳には、実に200万円を切る貯金しかありませんでした。息子の志望する大学の初年度の費用は、入学金や授業料、その他費用を含めて130万円。それを支払えば、残る貯金はわずかになります。

なんなんだ、どうなってるんだよ、これは!」

普段穏やかな友野さんも、さすがに叫んだといいます。

無関心を反省…影響は息子の進学先、自分たちの老後にまで

しばし放心状態になったという友野さん。ですが、冷静に振り返れば、家計を完全に妻に任せきりにし、一度たりとも家計の実情を確認しなかった自分にも責任があると気づきました。また、「年収800万円あれば、普通に暮らしていけるはず」という考え自体が、今となっては甘かったと痛感しています。

さらに、妻のクローゼットやドレッサーに目を向けてみれば化粧品や洋服があふれている。そうした状況にも、これまで関心を持たなかったことを反省しました。

妻だけの問題じゃない、自分のせいだ。そう悟った和彦さんは、自身のお小遣いを3万円に減らし、妻と協力しながら、生活費の見直しや節約に取り組むことにしました。

息子には、申し訳ないと詫びたうえで、地元の大学に絞ってほしいこと、国立大学も視野に入れて考えてほしいことを伝えました。私立に進学する場合は、奨学金の利用が前提になります。

「この年齢で本当に情けない話ですが、実家の親にも相談しました。少しなら援助できると言ってくれましたが、やはりなるべく頼りたくない。できる限り、自分たちの力で乗り越えたいと思っています」

とはいえ、問題は教育資金だけにとどまりません。夫婦2人の老後も危機に直面しています。

「私たち夫婦ももう50代。老後が目前に迫ってきているのに、それどころではありません。なので、今の家を手放すことも現実的な選択肢として考え始めています。幸いにも地価は上昇していますし、その点も含めて冷静に判断していきたいと思っています」

夫婦の家計管理、収入把握の実態

不動産の売買・仲介・鑑定などを手がけるAlba Linkが2023年10月に実施した調査によると、「お金を主に管理しているのは妻」と答えた人が48%で最多。次いで「夫」が20.8%、「共同(分担)で管理」が18.6%、「それぞれ別で管理」が12.4%と続きました。

注目すべきは、「共同(分担)で管理」よりも、妻または夫のどちらか一方が主導している家庭のほうが多いという点です。家計の管理方法に正解はなく、家庭によってさまざまですが、どちらか一方に任せきりにしてしまうと、「ちゃんと貯めてくれていると思っていたのに……」と、今回のケースのように予期せぬ事態に直面することも。

子どもの将来、そして自分たちの老後に暗い影を落とさないためにも、日頃から家計状況を夫婦で共有し、計画的に管理することが何より重要です。

【参考】

Alba Link「既婚男女500人アンケート調査」

https://albalink.co.jp/realestate/money-management-couple/