エネルギッシュに会社経営に邁進する社長も、いずれは年齢を重ねて引退するときが来ます。その際にお金で苦労することがないよう、早い段階から計画を立てておき、周到に準備をしておくことが重要です。※本記事は、税理士・清野宏之著『社長の資産を守る本』(セルバ出版)から抜粋・再編集したものです。

社長は会社と自分の人生の両面を大切にしよう

◆10年ごとに区切って対策を考えていく

社長も、年齢によって考え方が変わっていくものです。なぜなら、40代から50代になるときと、50代から60代になるときに出てくる問題は、まったく異なるからです。

わたしもそうでしたが、60歳になるときには「退職」を考え始めます。

やはり、40代と60代とでは、会社に対する向き合い方や考え方が異なるので、少なくとも10年に一度は、方針を考えてはいかがでしょうか。

たとえば40代、50代のときは、体力や野心に溢れているので、会社を成長させるほうへ優先順位が高まります。

もし希望するなら、上場を目指してもいいでしょう。もちろん、上場せずに稼ぐ方法もあります。40〜50代は、そんなことを考えていく時期です。

そして60代になると、誰に承継するか、という関心が高まってくるのです。

ほとんどの社長は、抱えるテーマが10年ごとに変わり、それに合わせて何をしていくべきかという行動が決まるのではないでしょうか。

おすすめは、ある時点で考えていることを書き残しておき、数年経ったところで振り返る機会を持つこと。

たとえば40歳の時点で考えていることを書き記し、50歳のときに見返して、「40歳のときはこう考えていたのか。いまはちょっと違うな」という形で、考える機会を持つのです。

言わば「人生プラン」ですが、それを事業計画と一緒に考えてみると、とてもわかりやすくなります。

◆社長の人生と会社はつながっている

社長は、どうしても会社を中心に考えてしまいがちですが、本来は社長の人生のプランがあり、そこに会社がついてくるのではないでしょうか。

もちろん雇っている社員がいる分サラリーマンとは異なりますが、まずはご自身の人生があって、そのなかで会社経営をしている、と考えるべきです。

「会社ありき」というよりも、人生の生業がたまたま会社の社長だった。そのように考えていない方は、非常に多いと感じられます。

まずは自分の人生があって、何歳まで生きる。そして人生の最後から逆算すると、何歳まで会社を経営するのか。

このように、まずご自身の人生のプランがあるべきです。

たしかに、いまのように変化のスピードが速い時代では、10年後、20年後は見えにくいかもしれません。

でも、「こう生きたい」というものは持っていらっしゃるのではないでしょうか?

「親とは違って、自分はこう生きたい」

「人生で、これを成し遂げたい」

「これだけお金を稼ぎたいから、自分の人生を生きるために、この会社を経営している」

といったものが先にあるのではないでしょうか。

会社を経営しているのは、その仕事に魅力があるからでしょう。ご自身が好きになれないことは、やっていないはずです。

結局のところ、「こう生きたい」につながっているのです。

ただお金儲けのためならば、長続きしません。

いま経営している会社は、ご自身の人生観とつながっている事業を行っているのではありませんか?

少なくとも10年に一度は、人生プランも交えて方針を考えていきましょう。

退任は、いつから考え始める?

◆年齢にかかわらず、人生のゴール設定は必要

退職の時期を確定している社長はかなり少ないようです。

人生プランに従って会社を40代、50代で売却し、また次の起業を考える、もしくは悠々自適に暮らしたい、という社長もいるとは思いますが、そう考える方ばかりではないのではないでしょうか。

ひとつの会社をずっと続けたい社長は、40代や50代のときに退職のことなど考えていないように見受けられます。

わたしも、引退を考えるようになるまでは、普通に「まだまだやれる」と思っていました。

ただ、あと1年で「前期高齢者」と言われ、まわりのお勤めの人たちが退職する65歳が近づくと、やっとやめる時期を考え始めるものです。

若いときにピンとこないのは、当然と言えば当然の話です。そんなことを考えている余裕はありませんよね。それはそれで、いいのではないでしょうか。

ただ、これからは人生プランを持つことは必要です。ほとんどの社長が、人生プランをつくっていないのではないでしょうか? 大切なのは、ご自身の現在地を見つめ直し、人生のゴールを見据えて、逆算で考えていくことです。

ゴールから逆算して、いまのご自身の現在地を見たうえで、目的地にたどり着くにはどうすればいいのかを考えることが、とても重要です。

それが見えなければ、どこへ行ってしまうかわかりません。

若いときに退任の時期を確定する必要はありませんが、ゴール設定と逆算はぜひ行っておきましょう。

個人の収支も押さえないとダメ

◆退任後に備えて、しっかりと蓄財をしよう

社長のなかには、会社の収支はしっかりと押さえていても、個人や家庭の収支まで押さえている人はなかなかいません。

会社とのお金の貸し借りがないようにすべきことはもちろん、個人としてきちんとお金を貯めているかどうかはとても大切ではないでしょうか。

会社を大事に思う余り、会社の資金繰りに不安を感じると会社の口座に入れてしまうのではなく、社長個人として会社からもらった役員報酬を、きちんと資産として残しておくべきです。

つまり、不動産でも株式でもいいのですが、何かしらの形で財産をつくっておきましょう。

収益を十分あげられる不動産を購入できれば、社長を退任したあとの備えになり得ます。

おそらく、公的年金だけでは、社長時代と同等の生活レベルを維持するのは難しいので、「年金プラスアルファ」の備えを本来しておかなければいけません。急に生活を縮小することはできないからです。

百歩譲って、不動産などへの投資を好まないのであれば、預金でも何でも結構です。

そうすれば、奥様と2人で余生を暮らす準備になるのではないでしょうか。

清野 宏之 税理士行政書士、清野宏之税理士事務所所長

(※写真はイメージです/PIXTA)