京都大学は、わずかな外的環境の変化で乱れたブラックホールの「準固有振動」の集合から、時空の大域的構造を反映する「テイル重力波」を含む重力波波形を再構成することに成功。「ブラックホール分光法」が抱える課題を解決し、その有用性を確認できたと7月24日に発表した。

同成果は、京大 白眉センター/基礎物理学研究所の大下翔誉特定助教(理化学研究所客員研究員兼任)、米・ジョンズ・ホプキンズ大学のEmanuel Berti教授、デンマークコペンハーゲン大学/ポルトガルリスボン大学のVitor Cardoso教授らを中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

振動するブラックホールは、準固有振動(特徴的な周波数と減衰率)を持つ重力波を放射する。鐘を突くと鈍い音が減衰しながら響くように、ブラックホールに物体が落ち込むなどの衝撃が加わると、減衰振動を伴う重力波が放射される。このブラックホール振動によって発せられる減衰重力波が「リングダウン重力波」だ。その波形は、複数の準固有振動の重ね合わせで精度良く記述できる。

リングダウン重力波を測定して準固有振動を抽出し、波源であるブラックホールの性質を解析する手法を「ブラックホール分光法」と呼ぶ。これは、楽器の音のみでその楽器の種類を判別することに例えられる。しかし、実際のブラックホール振動から得られる重力波信号は、自由振動だけでは説明できないほど複雑だ。たとえば、重力の長距離的な性質により、準固有モードでは記述しきれないゆっくりと減衰する成分、つまりテイル重力波が生じる。これは、準固有モードだけでは波形全体を精緻に捉えきれないことを意味する。

加えて、準固有モードのスペクトル構造が、わずかな外的環境の変化に敏感な点も問題視されている。ブラックホールの揺らぎを理論的に記述する場合、多くはブラックホールが単体で振動し、その周囲は真空と仮定する。しかし現実には、周辺に降着円盤などの物質が分布することがあり、これらを総称して「外的環境」と呼ぶ。これは、楽器を屋内で演奏すると、音波が壁で反射してこだまのように響くが、ホールの形状によってその響き方が異なることに例えられる。このような点が、ブラックホール分光法の有用性に対する疑問点につながっていた。

そこで、大下特定助教、Berti教授、Cardoso教授の3氏は、2024年8月にコペンハーゲンで開催された国際研究会「Ringdown Inside and Out」での議論を発展させ、上述した課題解決と事象の理解に寄与するため、今回の研究を本格的にスタートさせることにした。

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(波留久泉)

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