
東京都小金井市で2016年5月、音楽活動をしていた冨田真由さんがファンに刃物で刺され重傷を負った事件。
冨田さん側が警視庁を管轄する東京都などを相手取り損害賠償を求める裁判を起こしていたが、女性側と東京都との和解が7月28日、東京地裁で成立した。
この日の和解成立を受けて、原告の冨田真由さんと代理人らが東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。
冨田さんは「和解条項の中で、警視庁は同じ事件を繰り返さないために、被害者の声に真摯に耳を傾けること、対応を強化することを約束しました。この点について、しっかり約束されたことにはホッとしています」とコメントした。
●「殺されるかもしれない」とうったえていた冨田さんは2016年5月、小金井市のライブハウス近くで、ファンの男性に刃物で首などを刺されて一時重体となった。
冨田さんは事件発生前に武蔵野署に「殺されるかもしれない」とうったえていた。
警視庁は2016年12月、「当時の資料を再検討すれば・・・人身の安全を早急に確保する必要があると判断すべき事案であった」との見解を示した。
ところが2018年、冨田さん側が警視庁に対応状況を照会したところ、「非は認めていない」との回答があった。
これを受けて、冨田さん側は2019年7月、訴訟に踏み切っていた。
●録音記録を提出したところ、裁判所主導の和解に冨田さん側の代理人によると、冨田さんが「殺されるかもしれない」と何度もうったえていたかは争いとなり、裁判では、当時の武蔵野署の対応が十分だったかどうかが争点になった。
警視庁は「当時の資料」について、ファンの男性を逮捕して「事後」に押収した捜査資料を含むとして、事件発生の予見可能性はなく対応に問題はなかったと主張したという。
一方、冨田さん側が、警視庁が2016年に「当時の資料」として言及したのは、"事件発生前に提出された資料を指す"とする録音記録を提出したところ、裁判所主導の和解に話が進んだという。
和解条項には、警視庁は再発防止のために「被害者の声に真摯に耳を傾け、今後もより一層、事態対処チームへの情報の集約、事案の危険性及び切迫性の的確な判断と組織的対応の強化等の措置を講ずるなど国民の目線に立ち、かつ、時代の流れに即した適切な対応に努める」などの文言が盛り込まれた。
ただし、「見舞金」の金額は非公表とされた。原告側は「見舞金を十分に超える額であり、警視庁が非を認めたに等しいもの」と評価している。
●冨田さんのコメント「事件に遭ってから9年がたちます。
振り返ってしまうと、つらい、苦しいという言葉が当てはまる日の多い9年だったと感じています。
しかし、さまざまな痛みに耐え 今日までこられたのは、家族や友人はもちろん、私を助けようと手を差し伸べてくださった、たくさんの方々のおかげです。その温かい手や言葉に、本当に、本当に救われました。ありがとうございました。
そして、さまざまな被害によって生きづらさを抱えている方へ。
思うように生活できない もどかしさ。自分にしかわからない苦痛。被害はそれぞれ違うので、『全部わかる』とは言えないけれど、私も似た不安を抱えている1人です。
あなたが、少しでも早く穏やかな日々を送れることを、いつも心から願っています」
●幹事社の質問に対する答え──東京都(警視庁)との和解が成立したこと、その内容に対する受け止め
「和解条項の中で警視庁は、同じ事件を繰り返さないために、被害者の声に真摯に耳を傾けること、対応を強化することを約束しました。この点について、しっかり約束されたことにはホッとしています」
──警察組織に再発防止策として求めたいこと
「ストーカーに対する知識のない警察官が対応にあたること、相談に対応する担当者によって、受け止め方や結果が変わってしまうことは問題だと思います。
裁判所は、とても公平に判断してくださって、国民の目線に立って時代の流れに即した適切な対応に努めると書かれています。
私も同じことを望んでいます。対応については警察の方で考えて行ってほしいです」
●ファンの男性に7600万円賠償命令冨田さんは、刺したファンの男性=殺人未遂で懲役14年6カ月確定=や、当時の所属事務所にも損害賠償を求める裁判を起こしていた。
東京地裁は同日、冨田さん側の主張を全面的に認めて、約7600万円の支払いを命じた。
当時の所属事務所とも見舞金の支払いなどで和解した。

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