気温が高い夏は熱中症を予防するためにも、小まめな水分補給が不可欠です。一方、SNS上では「水の飲み過ぎはむしろ危険」「水の飲み過ぎで水中毒になる」という内容の声が上がっています。水を飲み過ぎると体によくないというのは本当なのでしょうか。水分補給時の注意点について、豊洲内科・糖尿病/形成・美容外科クリニック(東京都江東区)院長で認定内科医、糖尿病専門医の澤口達也さんに聞きました。

一気に水を飲むのは危険

Q.そもそも、水は1日にどの程度の量を飲むのが望ましいのでしょうか。

澤口さん「成人の体は体重の約55〜65%が水分で構成され、呼吸や発汗、排尿、排便によって1日に平均2.3〜2.7リットルの水が失われると報告されています。この損失は『(1)食事に含まれる水分』『(2)体内で栄養素が燃える際に生じる代謝水』『(3)飲み水』で補われます。

世界保健機関(WHO)も、厚生労働省が公表する『日本人の食事摂取基準(2025年版)』も、1日の水分摂取量について、汁物や野菜、果物など、食事に含まれる水分1リットル栄養素がエネルギーに変わる際に生まれる水である『代謝水』0.3リットルを合わせて約1.3リットル、残りを飲料で補うと総計2.5リットル前後になると提示しています。

従って健康な日本人が普通に生活する場合、飲み水は1日1.2リットル程度というのが大まかな基準になります。

一方、この値は『最低限の必要量』ではなく『平均的な推奨量』です。必要量に影響する主な因子は(1)環境温度・湿度(2)身体活動量(3)体格(筋肉量が多いほど発汗量が多い)(4)妊娠や授乳、発熱、下痢など生理的状態(5)基礎疾患(心不全や慢性腎臓病の場合、水分の過剰摂取は禁忌)です。

例えば、フルマラソンを走ると2〜4時間で3〜5リットルの汗をかくケースや、建設現場の夏季作業員が日中に7〜10リットルの水分を失うケースが報告されています。逆に空調が効いた部屋にいることが多く、ほとんど動かない事務職の人や、塩分制限中の高齢者の場合、1日800ミリリットルの飲水で十分なケースもあります。高齢者は口渇感が低下しやすく、認知機能の低下がある場合は周囲が時間を決めて水分を勧める仕組みが望まれます」

Q.では、水を飲み過ぎた場合、どのような症状を引き起こす恐れがあるのでしょうか。

澤口さん「水を一度に大量に飲み過ぎると、血液中の塩分(ナトリウム)が薄まり『水中毒(低ナトリウム血症)』になることがあります。主な症状は次の通りです」

【初期症状】
めまい、頭痛、倦怠(けんたい)感、吐き気・嘔吐(おうと)、腹部膨満感、頻尿

【進行した症状】
混乱や判断力低下、性格変化、興奮、筋肉けいれん・脱力、手足のむくみ、息苦しさ

【重篤な症状】
けいれん発作、意識消失(昏睡)

水中毒は熱中症と症状が似ており、見分けがつきにくいことがあります。海外では短時間に大量の水を飲んで死亡した例も報告されています。健康な人なら通常は「もう十分」と感じる前に体が制御しますが、「水も飲み過ぎれば毒」になることを覚えておきましょう。

Q.気温が高い夏に必要以上に水を飲み過ぎない方法はありますか。

澤口さん「暑い夏は汗で塩分が失われやすく、水だけを大量に飲むと体液が薄まり水中毒を起こしやすくなります。大量に汗をかく場面では、水と一緒に塩分(ナトリウム)も補いましょう。市販のスポーツドリンクが役立ちます。

ただし市販のスポーツドリンクは糖分が多い場合があるため、飲み過ぎに注意してください。暑いからといって短時間に大量の水を一気に飲むのは危険です。少量を小まめに飲むことが、熱中症と水中毒の両方を防ぐコツです。水の飲み方、自分が脱水状態かどうかを調べる方法は次の通りです」

【喉の渇きに従う】
普段の生活では「喉が渇いたら飲む」で十分です。無理に決められた量を飲み続ける必要はありません。

【少量をゆっくり飲む】
コップ1杯程度をゆっくり飲み、時間を置いて再度飲みましょう。

【尿の色をチェック】
薄い黄色なら適量、無色に近ければ水分過多、濃い黄色なら脱水の恐れがあります。

【塩分やミネラルも補給】
大量に汗をかくときは水とともに塩分も取りましょう。スポーツドリンクや塩あめなどを活用してください。

【アルコールやカフェインに注意】
利尿作用があるため、脱水を招きやすいです。水分補給時は水やさゆ、ノンカフェイン飲料を中心に取りましょう。

Q.水分補給の適切なタイミング、1回当たりの水分摂取量の目安について、教えてください。

澤口さん「1回当たりの水分摂取量の目安は次の通りです」

【起床後】
睡眠中にコップ1杯(約200ミリリットル)の汗をかくため、起きたらさゆ200〜250ミリリットルで内臓を温めつつ、脱水を解消してください。

【食事時】
汁物、果物の水分も計算し、食前から食事中に200ミリリットルの水分を摂取するのを目安にしてください。

【食間】
1~3時間おきに150〜250ミリリットルの水分を摂取しましょう。

【入浴前後】
入浴前後に150〜250ミリリットルの水分を摂取しましょう。

【就寝前】
夜間頻尿がなければ100〜200ミリリットルの水分を摂取。腎機能障害や前立腺肥大がある人は100ミリリットルでやめ、日中に調整しましょう。

【妊娠・授乳】
妊婦は血液量が平時の約1.3倍に増えるため、通常よりも1日で300〜500ミリリットル多く水を飲むのを勧めます。

授乳している人は母乳として700〜800ミリリットルの水分を失うため、通常の目安に加えて同量を飲むと母乳量の維持と乳腺炎予防に役立ちます。

【慢性疾患】
心不全や腎不全、肝硬変で医師から水分制限を指示されている場合は、自己判断で飲水量を増やさず、指示範囲内(例:1日800〜1500ミリリットル)を厳守するのが安全です。

【子どもへの指導】
学童期は「水筒の飲み物を休み時間ごとに2〜3口」「体育や部活の30分前にコップ1杯の水分を摂取」「部活中、試合中は10分ごとに80〜100ミリリットルの水分を摂取」という具体的なルールを決めると、子どもが遊びに夢中で水を飲み忘れる事故を防ぐことができます。

オトナンサー編集部

水を飲み過ぎると、どうなる?