
参院選の期間中、SNSで「差別に投票しない」というハッシュタグを見た方も多いだろう。まったくその通りだと思ったが、一方でこう感じた人もいたのではないか。「そう、差別に投票しない。外国人は優遇されているからね」。
そうした理由で「日本人ファースト」を掲げた参政党に投票した人もいるのではないか? 実際に参政党の演説現場で支持者に話を聞くと「外国人や治安が不安」と言う人が老若男女問わずいた。
参政党の支持者だけではない。東京選挙区でトップ当選した鈴木大地氏に演説現場で尋ねたときのことだ。鈴木氏はソウル五輪の水泳で金メダリスト。選挙チラシには国籍や人種、言語、文化などの違いを超えて世界各国の人々と向き合ってきたとある。
「治安が乱れているというデータはあるのですか?」と尋ねるとそんな鈴木氏に「排外主義的な言説がウケている現状についてどう思いますか」と尋ねたら、「人口減少が進んでいて労働力不足という観点から外国の方からサポートいただくのは大事だと思います」と話した上で、「ただ、日本人として治安とか街の秩序、こういったことも大事」と述べた。
外国人がいることで治安が乱れているというデータはあるのですか? と尋ねたら、
「そういう細かい話は別として」
と言ったのだ。驚いた。ふわっとしたイメージだけで語っていたのだ。ちなみに東京選挙区で同じく自民党から出馬した武見敬三候補にも同じ質問をしたらはっきりと排外主義を否定し、SNSのデマなども批判していた。自民党もいろいろである。※武見氏は落選。
漫画家の小林よしのり氏にも排外主義的な言説について質問してみた(山尾志桜里候補の応援演説をしていた)。すると、
「言葉ってね、『公』の言葉と『私』の言葉がある。公の言葉にして言いすぎるとね、煽っちゃうんですよ。どういう言葉で言うかとか、それは言わないでおこうとか、そういう判断が必要なんですよ『保守』には」
“あの“よしりんが呆れていた。
政治家や候補者がそれを超えてしまうと「あ、言っていいんだ」「よくぞ言ってくれた」と溜飲を下げる人もいるだろう。生活不安に付け込まれ、または漠然とした不安の中で、快哉を叫ぶ人も出てきてしまう。煽られた結果である。
国民の玉木氏は「参政を意識し、自分たちも政策を少し右に広げた」それが集票効果があるとわかるや、マーケティングとして真似てくる政党も出てくる。国民民主党の玉木雄一郎氏は周囲に対し「参政を意識し、自分たちも政策を少し右に広げた」と話しているという(朝日新聞2025年7月22日)。
こうした状況にはどうすればよいのか。淡々とメディアが「事実」を示していくしかない。今回の選挙戦で救いと言えば、メディアや専門家が選挙期間中にファクトチェックをしていたこと。参政党の多くの言説が事実ではないことを報道していた。たとえば東京新聞には一覧が載っていた。
【参政党関係者の不正確さのある発言例】(6月下旬以降。取材、報道から)
・「外国人の重要犯罪が増加している」(吉川里奈氏、6月23日、街頭演説)
・「(選択的夫婦別姓は)日本の治安を悪くする」(神谷宗幣氏、6月30日、テレビ討論)
・「核武装が最も安上がり」(さや氏、7月3日、ネット番組)
・「生活保護は受給権がない外国人ばかり」(初鹿野裕樹氏、3日、街頭演説)
・「外国人からは相続税が取れない」(神谷氏、6日、民放番組)
・「沖縄戦での日本軍の沖縄県民殺害は例外的」(神谷氏、8日、街頭演説)
・「宮城県は水道事業を民営化し、外資に売った」(神谷氏、13日、街頭演説)
まさにファクトチェック政党である。しかしいくら事実誤認を指摘されても、ひとたび人間の暗い欲望に笑顔で光を当てられたら「解放」されてしまうのも人間だ。メディアがいくら問題提起をしても「オールドメディア(笑)」と嘲笑され終わってしまう。
でもメディアは報じるしかない。注目は参政党は現在焦っているように見えること。今までは好き放題に言っていればよかったが、「公人」「公党」としてこれまで以上にスポットライトを浴びる事態になってしまったからだ。
参政党は会見で神奈川新聞記者を排除先日、参政党は会見で神奈川新聞記者を排除した。神奈川と言えば川崎市は全国で初めてヘイトスピーチに刑事罰を設けた条例を出した。地元紙として《全面施行から5年を経た条例の重みは、実態のない「外国人優遇」の虚言が飛び交う選挙ヘイトの出現に、ますます際立つのだった。》と書いている。そんな神奈川新聞が参政党の言説をスルーするわけがない。選挙期間中から熱心な報道を続けていた。すると参政党は会見で神奈川新聞記者を排除した。
《22日、当該記者は党が参議院議員会館で開いた会見に出向くと、党は「事前登録が必要」とうその説明をして排除した。(略)党は24日、党のホームページに当該記者が参院選の街頭演説で党への妨害行為に関与していたとし、「混乱が生じるおそれがあると判断し入場を断った」と理由を変えてきた。これでは話にならない。》
いかがだろうか。「うその説明」や「話にならない」ことが今、可視化されているのだ。さらに「地獄耳」は他メディアに向けて自民党議員の言葉を載せている。
「この問題に反応しないで黙認している記者は十分御用記者の気質を持ち合わせているのではないか」
自分に被害がなければ沈黙なのか、他のメディアも見られている。
参政党はTBS「報道特集」の内容についてもBPO(放送倫理に関する第三者機関)への申し立ての意向を表明した。つまりBPOに言いつけるぞ、と。
しかしそのBPOは何と言っているか? 2016年に、
「政党や立候補者の主張にその基礎となる事実についての誤りが無いかどうかをチェックすることは、マスメディアの基本的な任務である」
BPOは「その結果、ある候補者や政党にとって有利または不利な影響が生じうることは、それ自体当然であり、政治的公平を害することにはならない」と述べている(参考・西脇亨輔弁護士コラム)。
いかがだろうか。報道特集はむしろBPOの意見に沿って放送したとすら言える。
「末端の職員」と公然と言った神谷氏参政党は「偏向報道」と言っているが、BPOの見解を知らないか、もしくは知らないふりをして支持者を煽っているように見える。
真偽不明の言説に対して裏付けをとり、正していくのは偏向報道ではなく普通の報道だ。ここは共有しておきたい。
さらには今後「神は細部に宿る」部分も注目していきたい。参政党候補者さや氏が、ロシアの通信社「スプートニク」のインタビューに応じた動画が公開された件があった。
神谷代表は「現場と党の末端の職員が勝手にやってしまったので、その職員には厳しい処分を下しました」と述べた。注目したいのは「末端の職員」と公然と言ったこと。神谷代表といえば昨年2月の文春の「元公設秘書が自殺 “パワハラ的言動”に悩み」という記事があった。
※「参政党」神谷宗幣代表(46)の元公設秘書が自殺 “パワハラ的言動”に悩み、知人に〈どんな暴言吐いても許されるとか思ってるのかしら〉とメッセージを…神谷氏は「週刊文春」の取材に「責任は感じている」(「週刊文春」2024年2月8日公開)
平気で「末端の職員」と言う姿勢から上記の記事を思い出してしまった。
どんどんこうした「細部」も可視化されるのだろう。これまで参政党をウオッチしてきた人々には敬意を示しつつ、今後は各メディアの普通の仕事ぶりに注目したい。
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(プチ鹿島)

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