
また一つ、名門女子大が共学化することに──。
だが、昭和女子大の坂東眞理子総長は「男女が完全に平等な社会になったら、女子大はなくなっていい。それまでは必要」と語る。
2003年に同大学の理事に就任して以来、女子大改革に取り組み、20年間で志願者数を約4倍に増やした坂東さんに、令和の時代にも女子大が必要とされる理由を聞いた。(福原英信)
●武庫川女子大、2027年度から共学化へ「むこじょ」の愛称で親しまれてきた名門、武庫川女子大(兵庫県)は7月28日、理事会を開き、2027年度からの共学化を正式に決定した。
学生数は9000人を超え、女子大としては全国最多規模を誇る。
大学側は6月17日、共学化の方針を発表し、ホームページでその理由を説明した。
そこでは、開学当時わずか2%だった女性の大学進学率が現在は50%を超え、男女差がほぼなくなったことから役割を果たしたとし、「女性に限らず門戸を開くべきと考えた」として転換を明らかにした。
これを受けて、在学生や卒業生らから「女子大学だからこそこの大学を選んだ」「決定が一方的すぎる」といった声が寄せられ、共学化に反対するオンライン署名は5万筆を超えた。
大学側はその後、「質問への回答」を発表。「現1年生が卒業するまで共学化を待つべき」との意見が多かったとする一方で「社会の変化のスピードに鑑みれば、4年先まで現状を維持できる保証はありません」と説明。
在校生が卒業するまで「実質的に女子大学として学べる環境を維持するよう、最大限配慮する」と理解を求めた。
●女子大が共学化、募集停止が相次ぐ女子大を取り巻く環境は急速に変化している。
名古屋葵大や神戸松陰大が今春から共学化し、学習院女子大は2026年度に学習院大と統合予定だ。
関西の「女子大御三家」の一つとされる京都ノートルダム女子大も、2026年度以降の募集を停止する。
こうした中、京都女子大は「女子大学宣言」をホームページで公表。「女子大学という環境だからこそ、性差にとらわれることなく、自立した〝人〟として成長することを可能にする」と強調し、「女子大学として社会の変革に挑戦する〝人〟を育成し続けることをここに宣言する」と表明した。
●坂東総長「男女が完全に平等な社会になるまで女子大は必要」女子大の数が急激に減っている今、なぜ女子大は必要なのか──。
坂東さんに訪ねると「男女が完全に平等な社会になったらなくなっていい。それまでは必要です」と返ってきた。
続けて「女性には、まだまだ乗り越えていかなければならない壁があります。残念ながら簡単にはなくなりそうにありません」と語った。
坂東さんは、内閣府男女共同参画局の初代局長を経て、昭和女子大の理事に就任。以降、女子大の改革を進め、入学志願者数を4倍に伸ばした実績を持つ。ベストセラー『女性の品格』(PHP新書)の著者としても広く知られている。
●アンコンシャスバイアスから女性を守る坂東さんが挙げる女子大の存在意義の一つは、「アンコンシャスバイアスによって、女性が自信を失ってしまうことを防ぐため」だ。
アンコンシャスバイアスとは、「女性は感性的だから非論理的」など、無意識の偏見や思い込みから偏ったモノの見方をしてしまうことを指す。
「『顔が良ければ有利』『賢い女子はもてない』といった言葉で、自信を打ち砕かれる女性は少なくありません。はねのけることができる人もいますが、多くは自信を失ってしまう。女子大はそうした影響から女性を守る場として機能しています」(坂東さん)
また、教師や保育士以外に働く女性の具体的なロールモデルを知らない学生も多く「キャリアを積み上げるイメージを持てるよう支援することが重要だ」と強調。昭和女子大では、実社会で活躍する女性が学生に経験を語る「社会人メンター制度」を実施しているという。
●「女性の能力を開花させる」もう一つの意義は、「(成長が遅い)男子に合わせて足踏みせず、女性の能力を開花させること」だ。坂東さんはこう語る。
「女性は一般的に、発達のスピードが早い傾向があります。だからこそ、男性のスピードに合わせるのではなく、得意なところをさらに伸ばす教育が重要です」
昭和女子大では、国内外の大学と連携し、厳しい基準を満たした学生が両大学の卒業資格を同時に取得できる「ダブル・ディグリー・プログラム」を用意。意欲ある学生に挑戦の場を提供している。
また、織田信長のような「強いリーダー」ではなく、周囲を巻き込みながら協力して成果を出すタイプのリーダー像、いわゆる「インクルーシブ・リーダーシップ」を育成するプロジェクト型学習も実施している。
「社会が必要としている人物像は時代によって変わります。女子大も共学も、それぞれの強みを生かしながら、変化し続ける必要があるのです」
坂東さんは、女子大の存在意義をそう語った。

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